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消える夜

夜の見張りは、結局、焚き火を囲み、交代で仮眠を取りながら三人で周囲を見る、という曖昧な形に落ち着いた。

川の音は相変わらず途切れない。静かなようでいて、ずっと何かを話しているような音だ。難民たちは数名ずつ固まって眠っている。村人も各々の家や小屋に引っ込み、外にいるのは三人だけになった。


「暇ね」

焚き火をつつきながらソフィアが言った。

「暇で何も起きないのが一番いいんだけどな」

テオが肩をすくめる。

「それはそうだが、黙ってると余計なことを考えそうだな」

レンが答えると、ソフィアが少し笑った。

「じゃあ暇つぶしに、変な冒険者の話でもする?」


そうして始まったのは、なんとも締まりのない思い出話だった。

「ザヴィルに来てすぐの頃ね、やたらしつこい男がいたのよ」

ソフィアが嫌そうな顔をする。

「飲み屋でちょっと話しただけで、その後何日も付きまとってきて。“君みたいな魔法使いは俺が守らないと”とか、“チームを組もう”とか。ほんと気持ち悪くて」

「どうしたんだ、それ」


「最初は無視してたんだけどね。最後はテオがキレて追い払ったの」

「追い払ったっていうか、壁に投げただけだろ」

「十分怖いわよ」

レンは少し笑う。ザヴィルのような街でも、そういう手合いはいるらしい。

「俺はなあ、E級のやつが酔っ払い冒険者の財布を盗もうとしてるのを見たことがある」

今度はテオが口を開いた。

「うまくやったつもりだったんだろうけど、相手も酔ってるだけで腕っぷしはあってな。見つかった瞬間、路地でボコボコにされてた」

「助けなかったの?」

「盗った方が悪いだろ」


もっともだ。

「ザヴィルはなんだかんだで、そういうところがはっきりしてるのよね」

ソフィアが焚き火を見つめながら呟く。

「悪いことをすれば、その場で返ってくることも多い。だから大事になる前に終わることもある」

そこから、話題は自然と“酷い冒険者”の方へ流れていった。

「そういえば、“迷い星”もザヴィルにいたことがあるんだっけ?」

ソフィアの問いに、テオが頷く。


「ああ。十年以上前の話らしいけどな。当時はAランクで、しかもスター扱いだったらしい。強くて派手で、女にも人気で、子供まで憧れてたってさ」

「でも最後は犯罪者、か」

レンが言うと、テオは少し苦い顔をした。

“迷い星”。強さに過信し、やがて一線を越えた犯罪者チーム。最終的には世界中から集められたSランクたちに追い詰められ、壊滅した。アイルーンにも警告された冒険者なら誰でも知っている有名な話だ。

「まだ覚えてる人も多いらしいわよ」


ソフィアが続ける。

「昔あいつらを見たことがある、って話はたまに聞く。強かったし、華もあったしね。だからこそ、落ちた時の印象が強いんでしょうね」

「まあ、力を持つと傲慢になるのは仕方ないのかもな」

テオが焚き火に枝を投げ入れた。


「でも、一線だけは越えないようにしたいよな。強い弱いはともかく、そこを越えたら終わりだ」

レンは何も言わなかった。

頭に浮かぶのは、自分の仲間たちの顔だ。

セリーナ。フィエル。ガドル。リリィ。

全員、普通ではない。普通ではないどころか、よく考えれば“かなり危うい”側の人間だ。

(……一線、越えてないよな?)

少なくとも、まだ大丈夫だ。多分。おそらく。だが少しだけ、不安になった。


焚き火が小さくなってきた頃、三人は周囲を見回ることにした。見張りといっても集落は広くない。川沿いを歩き、寝ている難民たちの様子を遠くから確かめ、村の外れまで目をやる。それだけだ。

特に変化はなかった。風もなく、川の流れだけがごおごおと音を立てている。


「何もないわね」

「何もないなら、それでいい」

そう答えつつも、3人の胸の奥にある違和感は消えない。

やがて夜が薄れ始める。空がわずかに白み、川面が墨色から鈍い銀色へ変わっていく。

その時だった。

「いない!」

難民たちの方から声が上がる。三人が駆け寄ると、集団の中がざわついていた。

「また消えたのか?」

テオが問う。


困ったような、諦めたような顔をした男が頷く。

「三人だ。男が一人、女が二人……朝になったらいなかった」

「三人……」

レンは眉をひそめた。昨夜までは確かにいたはずだ。

「争った跡は?」

「ない」

「荷物は?」

「残ってる」

前と同じだ。




「関係あるかは分かりませんが・・・夜中に、一度だけ目が覚めたんです」

そう言ったのは、若い女だった。怯えた顔で川の方を見る。

「川の方から、何か気配を感じたんです。でも、何かは分からなくて……怖くなって、毛布をかぶってそのまま寝てしまって」

「音は?」

ソフィアが聞く。

「……水の音以外、覚えてません」

それだけで何かが分かるわけではない。だが、川から気配を感じた、という証言は無視できなかった。

とはいえ、状況は待ってくれない。食料は尽きかけている。病人もいる。これ以上ここに留まれば、消える者が増えるかもしれないし、単純に飢えと疲労で倒れる者も出る。


「出発したいです」

難民の一人が言った。

「もう、ここにもいたくない」

それは全員の総意のようだった。皆うなづいている。

レンはテオとソフィアを見た。

「……行くしかないか?」

テオが低く言う。


「村長とは話してみないとだけど、そうみたいね」

ソフィアも頷く。

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