追憶の迷宮19
転移結晶で入り口へと戻ってくることができた。正しくはおそらく入口だろう場所に転移してきた、かもしれないが。
「無事に帰ってこられた、だったらいいなあ…」
最近起こった出来事を考えると、ここからもう一波乱くらいあっても驚かない。そう思うことができる辺り、俺はこの世界に慣れてきたと感じる。
とは言ったものの慣れてきたことと、なかなか目の前の階段へと進めないことは別問題である。
「転移結晶には異常無し」
転移結晶に触れてみると、問題なく『追憶の迷宮・最奥』へと転移できることが分かった。そして『ダンジョン・入口』は現在の位置であり、そこへ転移することは不可能だということも分かった。
つまり転移結晶的にはここが入口だということだ。
ということなのだが俺の足は階段へと向かうことはなく、何をしているかと言うと「転移結晶の周りをグルグルして、何をしているのですかマサキさん」そう、転移結晶の周りをグルグルと…?
「エレナさん!!?」
声が聞こえた方向へバッと振り向くとそこにはエレナさんと、その後ろに鎧を着た人が何人かいた。断言はできないが騎士なのだろう。
「………あの人が捜索対象です。二名はここに、それ以外は団長の元へ戻って下さい」
エレナさんがそう言うと近くにいた二人が残り、それ以外の人は一度拳を胸に当てて来た道を戻っていった。
「失礼」
残った騎士の片方が俺に近づきそう言うと、手のひらを額に当ててきた。
何となく魔力を感じるので魔術を使われているのだとは思うが、どういったものかは分からない。
「エレナ様、ユキト様の奴隷で間違いありません」
「そうですか。二人はそのまま階段を見張っていて下さい」
なるほど、今のは奴隷かどうかを見分けていたのか。
それにしても階段を見張れってどういうことだろうか、と思ったがそんなことを考えている暇なくエレナさんが近づいてきた。
「え、エレナさん…?」
俺に近づき一度見たことのある杖を振り上げたエレナさんを見て、思わず間抜けな声を出してしまった。
結果、ガツン!! という音が響く。
「~~~ッ!!」
すぐに回避行動を取らなかった俺の頭に杖が降り下ろされ、俺は頭を抱えて地面を転がるはめに。
「言いたいことはたくさんありますが、今の一発でとりあえず許します。まずは無事で何よりです」
「お騒がせしました」
何とか返事をするが、頭を抱えて地面に転がったままなのは変わらない。
さりげなくエレナさんの一撃が、このダンジョンで受けた一番大きいダメージな気がしてならない。
「マサキさんの話も聞きたいのですが、まず先に現状を説明します。現在、ユキト様はトリフト領へ戻られています。理由はデッドリーゴブリンの出現」
「デッドリーゴブリンっていうことは、身体中にゴブリンの顔が埋め込まれたゴブリン、か?」
「………何故マサキさんがデッドリー種の特徴を知っているのかは一旦置いておきます。正確には世にも奇妙なデッドリーゴブリンの死体がトリフト領で発見されました。それも複数体。その調査にユキト様は向かわれました」
あのデッドリーが複数体ってどんな天災だよっ!? と突っ込みたくなる内容だ。幸いなことに、発見されたのは死体だという話だが。
「そもそもそれ、誰が倒したんだ?」
「それも調査事項の一つです。複数のデッドリーゴブリンが出現した点。誰が倒したのか不明な点。そもそもデッドリー種の性質上死体が残ることは無いのですが、死体が残っている点。そして、全ての死体に首から上が無い点。ただデッドリーゴブリンが出現した以上に危機的状況な気がしてならない、とユキト様が言っていました」
一難去ってまた一難、そんな言葉が脳裏をよぎる。
もう一波乱くらいあっても驚かない、そう思っていたが立て続けにデッドリー事案が続くとは思っていなかった。
どこの主人公補正だよ! やってらんねぇ! と叫びたい気分である。
「正直デッドリーとか尻尾巻いて逃げたいんですけど」
「誰もが思うことです。ユキト様が『マサキを見つけたら預かっていてくれ』と言っていましたので、ルーデンドルフ家の屋敷でユキト様を待っていて構いませんよ? ちなみにですがマサキさんの捜索、ユキト様がどうしてもということで行われていました。『マサキは絶対に生きている』と」
「…」
「さて、現状の説明は終わりましたので私はユキト様の元へ向かいます。ルーデンドルフの屋敷まで送っていきますが、どうしますか?」
どうしますか、だって? そんなの決まっている。
もしかしたらデッドリーよりヤバイもんと遭遇する可能性だってあるのだ、エレナさんの屋敷で面倒見て貰えるならそれに越したことはない。
「エレナさん、俺も連れてって下さい」
尻尾巻いて逃げたい、そう思っているはずなのに俺がエレナさんに伝えた言葉は思っていることと真逆だった。
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