追憶の迷宮18
「お兄さん?」
「…あれ?」
フィーネに呼ばれて咄嗟に辺りを見渡す。アランさんは既に扉の奥へと進んでいたが、フィーネが訝しげに俺を見つめていた。
どうやら特に何もなく元の場所に戻ってこれたようだ。
「急にぼーっとして、どうしたのかしら?」
「ぼーっとして? 俺ってずっとここにいたのか?」
「そうよ」
戻ってこられたもののまた強制転移かと、うんざりとしていたがどうやら違ったようだ。
では白昼夢かと思い、ローブのポケットに手を入れる。そして中に入っていた木箱を取り出す。この時点であれがただの夢ではないと分かったが、念のために箱を開ける。
木箱の中には伝説の勇者タイキに貰った、何の飾り気もない銀色の指輪が入っていた。
「伝説の勇者…」
「やっぱりお兄さん、勇者に会ってきたのね」
気がつけば白い世界にいたこと。勇者タイキが野良の異世界人を探していること。野良の異世界人を連れてくれば神器をくれるということ。転移の指輪を貰ったこと。
白い世界で何があったのかをフィーネに伝える。
「あと一番最初に『こっちに来やがったか、よかったな』って言われたんだっけ」
「少しその指輪を見せてもらってもいいかしら」
貰った指輪をフィーネに預けると、フィーネは指輪を握りしめて目を閉じた。
「お兄さんもこの指輪も、問題は無さそうね」
ものの数秒で閉じていた目を開けて指輪を俺に返すと、扉の奥へと進んでいった。
何がどうなったのか自分ではさっぱり分からないが、分かっているらしいフィーネが問題ないと言った。自分のことにしては少し軽く考えすぎなのかもしれないが、おそらく大丈夫なのだろう。
どれだけ考えても今の俺では答えなんて何一つでないのだ。それならば専門家に丸投げした方が気が楽だというのが本音である。
返された指輪を箱へ戻してポケットに仕舞い二人に続いて開けた扉の奥へと進んでいく。
扉の先は今までと違い細い廊下が少し伸びていてた。細いと言っても学校の廊下よりかは広いのだが。
そして最奥がまた扉になっているのだが鍵や何かしらのギミックは無かったようで、アランさんが開け放ったままになっている。
「転移結晶!!」
開いたままの扉を潜ると体育館程の部屋だった。部屋の隅にある天蓋付のベッドと、部屋の中央にある転移結晶以外に何も無い部屋だが、転移結晶があれば何でもいい。
ようやく帰れると思うと涙が出そうである。
「なんじゃ、宝があると思っておったんじゃが何も無いとは残念じゃのお」
涙が出そうで出ない理由? それはもちろん、持ち帰ることはできないが帰る手立てというお宝に感動している横で、宝が無いと嘆いているせっかちなじーさんもといアランさんのせいだと思う。
「アランおじいさんじゃないけれど、確かに残念ね」
おっと、ここにも宝が無いことを残念がっている人が。
「フィーネ」
「何かしら、お兄さん」
「ここが終点であってるよな?」
「そうね」
「何でここに来たかったんだ?」
宝が無いと残念がっているからには何かお宝があってしかるべきだが、実際にはベッドしか見当たらない。正確に言うならばベッドの横に、本を立てるスタンドみたいなものもあるのだが。
「カーシャがここにあるかもしれない神器を回収してきて、って言ったからよ。無いっていうことは誰かが持ち出したのか、あるいは…」
フィーネがベッドに視線を向ける。それに釣られて俺ももう一度ベッドをまじまじと見つめる。
転移結晶で頭がいっぱいだったがそもそも何故ベッドなのだろうか。もしかしたらあったかもしれない神器とは別に、それを管理していた人がいたのかもしれない。
「フィーネよ、どうやら目的のモノは無かったみたいじゃし、わしは一足先に帰っても良いか?」
「ありがとうアランおじいさん、帰っても大丈夫よ」
「そうじゃマサキよ、カーシャから『うちのフィーネたんに手を出すのはいいけど、いつもあなたの側で見ているからね! もし泣かせたりしたら………』という伝言を預かっていたことを忘れておったわ!」
怖っ!? 鳥肌立った!!
自称悪霊にいつも側で見てるからねって言われるとか何の罰ゲームだ。
「カーシャうざい」
『フィーネたんにうざいって言われた! お姉ちゃん泣きそう! 真幸くん何とかしてー!!』
「うわあああああああああ!!!!?」
叫びつつ、バッと背後を振り返るとそこには半透明のカーシャさんがいた。
『ヤッホー、真幸くん』
「………カーシャさん出てこられるんですか!?」
『フィーネたんに出してもらうか、このダンジョンみたいに死の気配が漂ってる場所なら出てこられるんです!!』
アランさんに伝言を頼む必要性はなかったんじゃないだろうか。いや、驚かせるところまでが計画の内だったのだろう。
「カーシャ、何も無さそう」
『そうね、フィーネたんに無駄足させちゃったお詫びに、お姉ちゃんがギューってしてあげる!!!!!』
「黒霧」
驚かすだけ驚かして、後は放置プレイである。
『ギャーー、黒霧はダメ! 3日くらい寝込んじゃう!』
「お兄さんも帰っていいわよ?」
「ん?」
言われて気がついたが、そういえばアランさんの姿が見えない。
どうやら伝言を伝えてさっさと帰ったようだ。最後までせっかちなじーさんもといアランさんだった。
「アランおじいさんが『また会おう、マサキよ』って言っていたわ」
それを聞いてバッと背後を振り返ってみたが、背後には『ダメー、3日寝込んじゃうー、助けてー』と言っている悪霊しかおらず、ホッとする。
アランさんに挨拶できなかったことは残念だが、また会える気もする。
俺はフィーネに促されるまま部屋の中央に浮いている転移結晶の元へ行き、登録を済ませる。
登録が終わると入り口の転移結晶の元へ転移できると分かった。行きたいと思いながら転移結晶を触れればすぐに転移できるはずだ。
一度転移結晶から手を離し―――
「お兄さん、またね」
「おう、またな」
いろいろ別れの挨拶を考えていると先に言われてしまう。
俺は苦笑いしながら、しょうがなくそれに合わせて転移結晶に再び触れた。
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