追憶の迷宮17
体験したことがある暗さ。首を動かして周りを見てみたが、目を閉じている時と変わらない暗さだ、何も見えない。
「おは―――いってぇえ!!」
棺桶の蓋を押し上げて、元気よく挨拶しようとしたら蓋が空かなかった。結果、両手首とデコにダメージを負う。手首はそれほどでもないが強打してしまったデコが痛すぎて、涙が出そうだ。
少し痛む手首を無視し、両手でデコを摩っていると蓋が空いた。
「……おはようございます」
「起きたのね、お兄さん。じゃあ先に進みましょ?」
なぜ蓋が開かなかったのか。なぜ棺桶をイスの代わりにするといい感じのテーブルが、これまたいい感じの位置にあるのか。もちろんその他含め、いろいろ聞きたいことがあるがそれらをグッと飲み込んで出た挨拶は、スルー気味に先を急かされた。
ふとアランさんの姿を探してみると、扉を見ながら仁王立ちしているアランさんを発見。
おそらくあの扉の先が終点のはずだが、アランさんは道中といい現在といい、そんなに急いで元の場所に帰りたいのかと思うほどせっかちな気がする。
「お兄さん、行くわよ」
アランさんを見つけて思わず固まってしまっていたが、フィーネの声で我に返る。そしていつの間にか出ていた物を片付けたフィーネがアランさんの元へ向かう。
「おおマサキ、起きたか! では行くぞ!」
扉の前で仁王立ちしているアランさんの元へフィーネと行くと、アランさんは生き生きとしていた。
もしかしたらこの扉を自分で開けようとして、失敗している可能性もあるなと思ったが口にしない。うっすらと何かに突かれたような傷があるが、きっとアランさんは大人しく待っていたはずだ。
改めて扉を見上げると、フィーネが言っていたように『俺たち勇者の加護を持たねぇ異世界人を連れてこい』と大きく書かれていた。そしてその下に『加護を持たねぇ異世界人なら押すだけで開けられるが開ければ後悔するかも知れねぇぞ? そーゆー覚悟くらいはしておけよ?』と殴り書きされていた。
親切だなー、覚悟とかないから帰りたいなー、帰り道教えて欲しいなーと思いつつもアランさんの無言のプレッシャーには勝てず、扉に手を付ける。
「ええい、ままよっ!!」
なるようになれと、お馴染みのセリフを口にしながら扉を押し開けると強い光に包まれ、咄嗟に目を瞑る。
何となく嫌な予感がするがゆっくり目を開けていくと案の定。
「ここは…?」
変な城に飛ばされるわ、何もない、辺り一面真っ白の空間に飛ばされるわ、もうすでに何日か日を跨いでいると思われるが「なんて日だ」と嘆かずにはいられない。
「よぉ、こっちに来やがったか。良かったな」
「うわっ!?」
キョロキョロとこの白い空間を見渡していると、不意に背後から話しかけられて変な声を上げてしまう。
バッと後ろを振り返ると男が立っていた。白のシャツに黒いズボンという出で立ちの、少し歳上に見える日本人。短めの黒い髪にやや茶色っぽい瞳で、目の下にタトゥーがある。
「俺はタイキ。知ってっかもしんねーが、伝説の勇者なんて言われてる」
「初めま―――」
「これ、立体映像みたいなモンだから返事とかしなくていいぞ」
そうならそうと、最初に言ってほしかった。テレビに向かって挨拶しようとしていた訳だ。少し恥ずかしい。
そして何より勇者と遭遇とは。人によっては幸運なのかもしれないが、俺には悪運って表現が正しい気がする。
「さっさと本題話すぞ。扉開けたってことは帝国以外の場所で召喚されたか転移してきたかだろ? オメーみたいに帝国で召喚された異世界人以外を『野良の異世界人』って呼んでんだが、俺はその『野良の異世界人』を探してる訳だ。んでだ、もし心当たりがあるか、今後出会えばここに連れて来てくんねーか? 何もただで連れてこいってわけじゃねーぞ? オメーが望む神器を一個くれてやる。神器がどーゆーモンかはめんどくせーから自分で調べろ。とりあえずサンプルだ」
そう言うとタイキさんの前に小さな木箱が置かれた机が出現した。
「箱の中身は転移の指輪だ。つってもサンプルだ。一回使えば壊れるが一度行ったことのある場所を思い浮かべながら魔力を込めりゃその場所に転移できるモンだ」
その説明を聞きながら箱を開けると、何の飾り気もない銀色の指輪が中に入っている。中に指輪が入っていることを確認して箱を閉め、とりあえずローブのポケットに箱ごと突っ込んで回収する。
少し迷ったが、くれると言っているのでありがたく頂戴していくことにした。
「つー訳で『野良の異世界人』見っけたらよろしく」
その言葉を最後に白かった空間がどんどんと暗くなっていき、最後には真っ暗になってしまった。
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