追憶の迷宮15
「うわっ!?」
扉の中に入った瞬間、何かに足を捕まれる。振りほどこうとするが、すぐに俺を上へと投げ飛ばした。
かなりの力で投げ飛ばされたはずだが地面と天井の中間辺りで失速していく。
「フロート!」
今度は慌てることなく対処できた。
ヒモ無しバンジーの次は逆バンジーかよと文句を口にしようとした瞬間、目に入った光景に息を飲む。
地面が人形に埋め尽くされていた。
「マサキ! 上がるんじゃっ!!」
俺が浮いている横に転移してきたアランさんはそれだけ言うともう一度転移していった。天井付近まで転移したアランさんは壁に槍を突き刺してそれを足場にする。
豪快すぎる。そう思っていると「はよう来んか!!」という声が聞こえたので、フロートをウィンドウィングに切り換えてアランさんに近づく。
「フィーネがあれを片付けるまでここに座っておれ」
ここって柄のことだろうか。恐る恐る近づいて座ってみるがアランさんは無反応だ。ただ下を、フィーネがいるであろう場所を凝視している。それに釣られて俺も下を見てみるが、地面は人形で埋め尽くされてフィーネの姿は見当たらない。
真下がちょうどこの部屋の入り口であり、入り口付近が他より若干盛り上がっているような気がするがそこにフィーネがいたとして無事なのだろうか。
「アランさん、あの人形って何処から湧いてきたんですか?」
フィーネのことは心配だがアランさんが「フィーネがあれを片付けるまで」と言っていたので無事なのだろうと思い、もう一つの疑問を尋ねる。
「何を言う、あれの仕業以外に何があるんじゃ」
先程から見ないようにしていた存在。アランさんが指を差した先には地面を埋め尽くしている人形とは少し、いや、かなり形状が異なる人形が立ってる。
全身に顔が埋め込まれた人形。
その顔一つ一つが意思を持っているかのように笑っている。
地面から天井までそれなりの高さがあるにも関わらず、なぜかハッキリと見えた。
「うっ!?」
身体中に埋め込まれている顔が、そして本体の顔が一斉にこちらを見た。
その視線を感じて吐き気を催す。多数の顔のせいで気持ち悪いというよりかは、あの存在そのものに生理的嫌悪を感じる。
こちらを一瞥しただけで、すぐにフィーネがいるであろう場所に視線が戻った。やつはフィーネの方が脅威だと認識したのだろう。攻撃範囲外だから無視しただけかもしれないが。
「まさかこんなところでデッドリーをお目にかかるとはのお」
「デッドリー?」
「あやつのように身体中に顔が埋め込まれておる魔物のことじゃ。倒さん限り、自分と同じ種族の魔物を無から産み出し続けたりするせいで、亜神なんて呼ばれることもあるのお。さて、そろそろじゃぞ」
あの人形は思ってた以上の化け物だった。
のだが、フィーネも十分化け物だったのかもしれない。
部屋中の至る所に魔法陣が浮かび上がっていく。そしてそこからアンデッドが次々に出現していく。
そのアンデッドが人形と戦いだしたせいで、地上は大怪獣戦争と言っても過言ではないような状態になってしまった。
「………あれってフィーネが呼び出したんですか?」
「そうじゃ」
魔法陣から出てくるアンデッドは、小柄なゾンビやスケルトンなどお馴染みのアンデッドが大多数だったが、中にはゴリラをさらに巨大化させてゾンビにしました、というものや、動く恐竜の化石などの大物も混じっている。
最初はそういった大物が幅を利かせていたのだが、巨大な泥人形やそこら中に散らばっていた人形の残骸を集めて作ったゴーレムのような人形が出てきたため、次第に拮抗していった。
巨大なゴリラのゾンビが巨大な泥人形の体を抉るが、飛び散った泥はすぐに元の位置へ戻る。その逆でゴリラの肉体が抉れてもすぐに肉が盛り上がり、何もなかったかのように泥人形を殴り付ける。その他の大物同士の戦いも殺って殺られて元通りを繰り返しているが、小柄なアンデッドと小柄な人形の戦いでは再生などはせずに一定のダメージを負うと動かなくなっていく。のだが、アンデッドにしろ人形にしろ、どんどん後続が産み出し続けられている。
この大怪獣戦争、お互いに命無き者のせいなのか自分の損傷を無視して突っ込んでいく様は恐怖しか感じないが、片方が自分の見方だと思うと何も言えない。
「これっていつまで続くんだ?」
そう口にした瞬間だった。
地面から長く黒い腕が何本も現れ、敵味方の区別なく地面に引きずり込んでいく。地面がアンデッドと人形に埋め尽くされていたせいで分からなかったが、石畳だったはずの地面は黒く染まり、黒い地面の中から伸びた腕がアンデッドと人形を引きずり込んでいた。
まるで生者に群がる死者だ。
アンデッドが、人形が、生者かどうかは微妙なところだがこの光景を見て、そう感じた。
両者共に黒い腕には抵抗することなく、アンデッドと人形が争いながら徐々に飲み込まれていく様は少しシュールだ。
ただしデッドリードールだけは違った。何としてでも腕から逃れようと背中や腰、さらには足から顔で作られた腕を生やして対抗していた。
それでも少しずつ飲み込まれていき、体の半分程が飲み込まれた辺りで変化が起こった。半分に割れて上半身だけになったそれは、背中から生えている腕を使って壁を登り始めた。
何本もの黒い腕はそれも追いかけるが、腹や頭部から生えてきた腕が囮になる。トカゲの尻尾のように腕が黒い腕に捕まれると切り離し、再生させる。そうやってなんとか黒い腕から逃れ、こちらへ向かって来る。
「アランさん、こっち来た! めちゃくちゃこっち見てる!!」
そう言いながらアランさんを見上げると固まっていた。
え、アランさんが固まってる!? もしかして超ピンチなんじゃ!?
「「「「「にグぎ、憎ぃ、にグい、憎い、憎い、ニクイ、にグキ―――――」」」」」
「「「「「ハハハハハ、アあハハ、アハ、キキキキキキキキ―――――」」」」」
「「「「「――――――――――」」」」」
慌てふためいている間にどんどん近づいてきており、近づいたことで顔の一つ一つが声を上げていたことに気付いた。
憎しみ、笑い声、声にならない叫び、どれも聞いていて気持ちの良いものではなかった。
「アイスバースト!」
近づいてくるデッドリードールに撃ち込んだ氷柱が、首から生えてきた腕に掴まれて粉々に砕かれる。
「アイスバースト、アイスバースト、アイスバースト!!」
何本撃ったところでそれらは叩き落とされ、掴み砕かれ、勢いが落ちることなくこちらへ迫ってくる。
「《召喚―――カーシャ・スカーレット》」
いよいよ天井からこちらへ向かって飛んできたところで、アランさんがフィーネを転移させた。
俺、アランさん、フィーネ、デッドリードールがほぼ一直線に並ぶ。
「良いタイミングね、アルデバラン」
転移してきたフィーネはそう言うと、持っていたフランベルジュで真っ直ぐに飛んでくるデッドリードールを縦に切り裂く。
縦に切り裂かれたそれは2つに分かれるが、断面には表面同様びっしりと顔が埋め込まれてあり、そこから腕が生えてこようとする。
「黒霧」
生えてこようとしたが実際には腕が生えてくることはなく、それぞれ黒い霧に包まれるとフィーネと一緒に落ちていった。
黒い霧に包まれたデッドリードールはそのまま黒い腕に捕らえられ、地面に飲み込まれていった。デッドリードール以外は既に飲み込まれており、最後の獲物を大切そうに抱えた腕が深淵に沈んでいったのと同時に地面は元の石畳に戻った。
「さて、戻るかのお」
元の石畳に戻ったのを見てアランさんの転移で地上に戻る。
うまく着地できずに尻もちをつく。
「…」
終わった。
そう言おうとしたが声は出ず、立ち上がる気力も無かった。
最後に見た光景が頭から離れない。腕が生えようとしていた場所にあった顔。その表情。考えない方が良いと分かっているが考えてしまう。
思考の渦に囚われそうになったが、人の気配になんとか顔を上げる。
そこには紅い瞳のフィーネが立っていた。最初出会った時から目の色は青かったはずだが、なぜか紅くなっている。
「んっ」
「!?」
フィーネがしゃがみ、俺と顔の高さを合わせるといきなりキスをしてきた。ただキスをするだけではなく、フィーネの舌が俺の口内に入ってくる。いっぱいいっぱいだった俺は完全にフリーズしてしまい、されるがまま舌と舌を絡ませ合う。
しばらくそれは続き、ようやく満足したフィーネがゆっくりと俺の顔から離れた。その時に糸が…。
「うーん、私達の結界を抜けてきたのにすごーく平凡ね! でも確かに未知のナニカが感じられなくもない………乞うご期待、って感じかな!」
色々パンクしそうな頭にさらに追い討ちがかかる。
見た目はフィーネだがフィーネではない何者か。
「誰だ、お前?」
「ふっふっふっ、私こそフィーネたんに取り憑く悪霊筆頭、フィーネたんの実の姉、カーシャ・スカーレットよ! よろしくね、真幸くん!」
読んでくださった方に感謝。
ありがとうございます!
マサキくんとフィーネたんとユキトとエレナさんの4人がワチャワチャするお話が書きたい…
実現できるよう今後もスローペースでガンバリマス。




