追憶の迷宮13
「風よ、我を包み浮かせたまえ――フロート。落下時の対処で一般的な魔術はこれのはずよ? 教えてもらわなかったのかしら?」
どや顔で翼を消すとフィーネにダメ出しされた。
そしてフロートについての記憶が「呼んだ?」と出てきてしまったため、どや顔が一瞬で解除されてしまう。
魔術の練習で森に行った時、ユキトに覚えるよう言われた魔術の1つがフロートだった。これは自分が高所から落下した時に安全に着地するための魔術だ。それ以外にも上から降ってきた物にかけて落下物の下敷きにならないようにしたり、重い物にかけて簡単に移動させたりと便利な魔術だった。
「……フロート」
そう唱えると俺は風に包まれ、少しだけ地面から浮く。
「お兄さんできるじゃない」
「忘れてました、すみませんでした」
フィーネに見つめられて正直に謝ってしまったが、なぜ俺は責められているのだろうかとふと思う。諸悪の根源はそこで早く進みたいとうずうずしているジジイだったような気がする。
「責めたわけではないのだけれど?」
分かりづらいっ!! フィーネさんあのタイミング、あの表情、間違いなく責めていますっ!!
あ、無表情なのはいつものことなのか…?
「おーい、そろそろ行かんか?」
ジジイはフリーダムだった。
「行きましょ。アランおじいさんがもう待てなさそうだわ」
「そうだな」
俺たちが螺旋階段がある部屋(?)の出口へ歩いてくるのを見たジジイは俺たちを待たずに先に進んでいった。
「そうだお兄さん」
「うん?」
「自分の身は自分で守ってほしいと言っておくわ」
「お、おう…」
え、そんなこと言う必要性があるほどこの先って危険なのか?
フィーネとジジイ…アランさんがいれば無双なのでは、そう思っていた俺は少し動揺してしまった。
「万が一、不足の事態が起こればよ?」
俺の動揺は簡単にフィーネに伝わり、フォローされてしまった。不足の事態が起こらなければ安全そうだと安堵したが、同時に俺ってカッコ悪いなぁと再認識してしまった。
もし危険な状況になったら俺が守ってやる、ってそのうち言えるように頑張ろう。
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アランさんが先行した迷宮は悲惨なことになっていた。
ダンジョンの壁や天井はとても固く、傷つけることはできないとユキトに教えられた。教えられたのだが、壁の一部であるはずのレンガが豪快に抉れていた。
そして魔物はもっと悲惨なことになっていた。
「これって元は鎧の魔物だよな」
「これは普通の死霊騎士ね」
え、リビングアーマーとかカースアーマーとかじゃなくて死霊騎士なのか!? 死霊騎士ってアランさんの種族だよな…。
脛より上が無かったり、手のひらの中央から先しか残ってなかったり、どこの部分か分からない欠片が少し散らばっていたり、とにかく悲惨なことになっているぞ、アランさんと同種の魔物よ。
「アランさんって死霊騎士の特殊個体、みたいなもんだよな?」
「そうよ。だから通常個体とは差があるのよ」
フィーネははチラッと死霊騎士の残骸を見てそう言った。相変わらず感情が読みにくい無表情だが、何か思う所があったのだろうか。何となくそう感じただけで確信は無いのだが。
アランさんが振り撒いた破壊の爪痕を追いかけているだけであまり意識していなかったが、魔物(の残骸)が多い。そのため、少し歩けば魔物(の残骸)とエンカウントするのだが、なかなかアランさんに追い付かない。
破壊の爪痕が目印になるため分かれ道などで「あれ、アランさんどっち行った?」となることが今のところ無いだけ助かっている…のだろうか。
「サーチ」
アランさんはどこにいるのか、そしてそもそもこの迷宮ってどれだけ広いのだろうかとサーチを使う。
アランさんはこのフロアの終点、ボス部屋のような所で戦闘中みたいだった。そしてこのフロアはおよそ2キロ四方くらいの大きさだった。
そしてそんなに歩いていたつもりは無かったが、俺たちはいつの間にかフロアの終点直前まで来ていた。
「たぶんこの先がボス部屋だと思うんだけど、ここのボスって何なんだ?」
「確かデュラハンだったはずよ」
「首無しの騎士だっけ?」
「そうよ、死霊騎士の上位種だけれどアランおじいさんには勝てないわ」
元の世界では魔物と言うよりかは妖精だったはずだが、どうやらこの世界ではただの魔物のようだった。
サーチを使ってから数分でボス部屋へ辿り着いたが、アランさんとデュラハンの闘いはまだ決着が着いていなかった。
ただし決着が着いていないと言うだけで、勝敗は明らかなのだが。アランさんは無傷で生き生きと槍を振り回し、デュラハンは満身創痍でアランさんの攻撃をどうにか捌いている、という状態だった。
「デュラハンさんボロボロじゃないっすかー…」
「フィーネにマサキ、やっと来よったか!」
デュラハンさんが乗っていたであろう鎧でできた馬が破壊されているのが見えて思わず呟いたのと、アランさんが俺たちに気付いたのがほぼ同時だった。
「ちょ、よそ見しちゃ危ないですよ!?」
俺たちに気付いたアランさんはあろうことか戦闘中こちらを向いて「遅かったのぉ」などと呑気なことを言っていた。
「何が危ないんじゃ?」
「いやだって戦闘中…あれ?」
そこでようやく気付いた。
デュラハンの腹に大きな穴が空いていることに。デュラハンは立ったまま絶命していた。
「アランおじいさんは暇だったから遊んでいたのではないかしら」
「うむ、その通りじゃ」
上位種との戦闘を遊びと言うのか…。
そしていつの間にデュラハンの腹に穴を空けたのだろうか…。
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