追憶の迷宮10
城の最上階に到達するまでに出会った魔物は最初のゴースト1体だけ。拍子抜けするほどあっさりと最上階にたどり着いてしまった。
「転移結晶…?」
「そうよ」
最上階で、拍子抜けするほどあっさりと転移結晶を見つけることができた。ただし、黒く濁った光を発しているのだが。
ダンジョンに入った時に触れた転移結晶は透明で綺麗な結晶だった。それがここまで黒く濁ったものに変わるのだろうかと疑問を感じ、使うことに抵抗を覚える。
「これってダンジョンの入り口にあったやつと同じで、触れたことのある転移結晶のところまで転移できるものですよね?」
「違うわ。転移先はランダムよ?」
「…」
「でも、違う転移結晶からここへ転移することは可能よ」
そしてあっさりと希望が消えていってしまった。
いつになったら帰ることが出来るのだろうか。そんなことを考えていると、女の子が俺の手を引っ張る。
俺はされるがまま引っ張られながら、あぁ帰りてぇなぁと涙した。実際には涙を流すほど参ってはいないのだが心情的にはそんな感じなのだ、察してほしい。
「ん?」
ぼーっとしていたために気付くのが遅れたが、何か冷たいものを触っているような…魔力が少し抜き取られているような…。
目の前には黒い転移結晶が…。
女の子が俺の腕を掴んで手のひらを黒い転移結晶に押し付けていた。
「ちょぉおおお!?」
ランダムに転移なんてさせられたら今度こそ死んでしまうと思い、反射的に遠ざかろうと思いっきり腕を引いた。
「ちょぉおおお!?」
思いっきり腕を引いたはずなのに、俺の手のひらは少しも動かず黒い転移結晶を触れ続けている。
「お兄さんうるさいわ」
「いや、ちょ、えっ…」
どうしていいか分からずおろおろしていると登録が終わったらしく、魔力を抜き取られる感覚が無くなった。
「終わったかしら?」
「終わった、と思う」
「そう」
この黒い転移結晶がどういうものなのかという説明は無かった。ただ登録が終わったことを確認して女の子は黒い転移結晶の先にある、大きな扉の方へと進んでいった。
そして扉の前で女の子が「早く来い」と目で訴えているので仕方なく俺も扉へ近づく。
「ここが最初の目的地よ」
「最初…?」
「そうよ、ここには鍵を借りに来たの」
既に最終盤を思わせる疲労度。
扉の先には魔王がいると言われても信じてしまいそうな雰囲気の扉。
しかしここには鍵を借りに来ただけだそう。本当の目的地はその鍵を使って開いた先なのだろう。
女の子が扉へ触れるとその扉は勝手に開き、俺たちを迎え入れる。
中へ入ると謁見の間のような場所だった。手前はとにかく広く、奥まで進むと階段になっており、数段上ったところに玉座のような椅子が置かれている。
そしてその椅子には禍々しい黒い靄を放つ黒い鎧が座っていた。
「なんかラスボスみたいなのがいるんですけど」
「ラスボス? 死霊騎士アルデバラン、鍵の管理人さんよ?」
死霊騎士であり鍵の管理人でもある? アルデバランが立ち上がった。
俺が認識できたのはそこまでだった。
警戒して一瞬も目を離していないはずなのに、いつの間にか槍を構えたアルデバランが俺の目の前にいた。
―――頭の無い状態で。
元々頭が無かったわけではなく、彼の頭部は現在進行形で音を立てながら奥へと転がっていく。
あ、階段の角に当たって大きくジャンプした…。
一方でアルデバランの頭を吹き飛ばしたであろう女の子は案の定フランベルジュを振り抜いていた。刃の角度からして、アルデバランの頭を切ったというよりかは、刃ではなく面を叩きつけて頭を吹き飛ばしたように見える。
そしてよく見ると二種類の黒い靄がアルデバランを覆っていることに気が付いた。片方は女の子の出した黒い靄だ。アルデバランさんは頭が無くなったから止まったわけではなく、黒い靄によって動きを止められている状態だった。つまり、女の子が止めてくれなかったら俺の頭が転がっていってたということだ。
「アランおじいさん、私よ」
俺は死んでいたかもしれないと恐怖を感じていたのだが、女の子は何事も無かったかのようにアルデバランに話しかける。
「おお! フィーネか! 人間と一緒に来るならそう言っといてくれんか。つい殺そうとしてしまったじゃないか」
すると頭の飛んでいった方、玉座の後ろ辺りから声が響いてきた。
「アランおじいさんは相変わらずせっかちね」
「ハッハッハッ、歳を取るとせっかちになるんじゃ。もうその人間に攻撃せんから霧を退けてくれんか?」
信用できねぇ、そう言おうとしたが言う前に女の子―――フィーネが出していた黒い靄が消えていった。
黒い靄が無くなると、アルデバラン(首から下)が俺に突き刺そうとしていた槍を引っ込め、自分の頭を取りに玉座の方へ普通に走っていった。
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