追憶の迷宮8
「は?」
転移でたどり着いた場所、そこは巨大な洞窟だった。世界で一番大きな山の中身をくりぬいて作った空洞。そう思わせるほど巨大な洞窟だ。
そして奥の方に見える巨大な城。天井付近から降り注ぐ月明かりのような光りに淡く照らされており、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
ここが観光地ならば人が途切れることがないだろうと思わせるほどの景色なのだが…。
「終わった…」
現在地はスタート地点を思わせる小さな広場。左右と後ろは湖になっており、前は城のある奥へと続いてそうな道が一本。
そしてユキトとエレナさんが不在で俺一人。
「サーチ」
とりあえずこういう時の基本であるサーチだ。掌を突き出して唱えるとお馴染みのマップが現れる。
どうやら一本道に見えるこの道だが、奥へ行くと所々で枝分かれしているようだ。もちろん魔物の存在も確認できた。
道を外れると岩場になっており、そこにも魔物がいる。足場が悪く、戦闘に慣れていない俺がそんなところを進んだら簡単に逝ってしまいそうなので進むなら道なりだろう。
そもそも進むこと自体間違っている気がする。おとなしくここで待っていれば助けに来てくれないだろうか。というか助けに来てほしい。そう思い拡張鞄に何が入っているかを思い出す。
「食料がだいたい一週間分だったかな。他にこの状況で使いそうなのはポーション? 使う状況に陥ってる時点で詰みだろ…」
状況を打開できそうなものはもちろん入っておらず、ここに留まるとしてもリミットは一週間。
それを踏まえ選択肢として考えられることは
「一、ここで待機しながら救助を待つ」
「二、ここを拠点に軽く周囲を探索しつつ救助を待つ」
「三、あの城へ向かう。自殺行為」
という三つくらいが選択肢だろう。
一番目が一番無難だろう。ただし、もしも救助が来なかった場合を考えると食料が尽きて一気にレッドポイントだ。
救助が来ないかもしれないと考えると二番目の方が良い気がする。これで出口や何かしらの打開策を発見できれば御の字である。
そして一応三番目にあの城に向かうと入れてみたが論外だろう。「わぁ、お月様に照らされた綺麗なお城だぁ~」と突っ込めばそのまま死んでしまいそうな予感しかしない。
他にも選択肢があるのかもしれないが現状二番目で行くしか無さそうだ。
二番目の選択肢で行くことを決め、まず最初に取りかかったのは飯の準備である。
初ダンジョン飯が一人寂しく地底世界のような場所で食べることになるとは、誰が想像していただろうか。そんなことを考えながら、拡張鞄から机と椅子を出し、その上に鍋とナイフ、手持ちで一番多い食料であるイモを取り出す。
「水よ」
後ろに湖があるのだが、怖いので魔術で水を作って鍋に注ぐ。
そして水の入った鍋にイモを皮ごと入れていく。もちろん芽は取ってある。普段料理はしないがイモの芽には毒があると有名だからな。
イモを鍋に入れ終わると次はそこら辺に転がっている大きめの石を集めて組んでいく。こういう経験が無くて少し苦労したが、何とか組んだ石の上に鍋をセットするまでできた。
「さてと…」
本当は薪などがあればいいのだが手持ちにも付近にも無い。
「火よ」
そのため仕方なく鍋の下に小さめの火を出して魔術の発動状態を維持する。
小さい火ということもあり疲労感は無いのだが、暇である。
「ん?」
湖を見ながらのんびりイモを茹でていると、湖にの中に大きい魚影が見えたような気がする。月明かりのような光が洞窟内を照らしているとは言え、月明かりである。暗くて見えにくいため、気のせいかもしれないが食べるものがなくなれば釣りを頑張るしか無いだろう。
それ以降は特に変わったことや気づいたことは無く、イモが無事に茹で上がった。
イモを鍋から取り出して皿に乗せていく。それとは別の皿に薄く切った塩漬け肉も乗せて完成だ。
本日の献立は茹でたイモ塩漬け肉添えといったところか。これが当分続くと思うだけで気分は落ち込む。
「いただきます」
落ち込んでいると冷めてよりいっそう落ち込みそうなのでさっさと食べた。
塩漬け肉はイモで緩和しても尚しょっぱかった。
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机や皿を片付けていよいよ城へと続く道の探索だ。
食事をしたからだろう、少し眠いがここが本当に安全なのか分からない。安全かどうか確認する術もないと言うのが正しいか。
そう思いながらマップを出して道を進んでいく。
最初はビクビクしながら進んでいたが魔物に遭遇することは無く、三方に延びる分岐点にたどり着いた時には大分落ち着いていた。
「うーん…」
しかしその三方に延びる分岐点、マップを見る限りではどの道を行っても魔物がいるようだった。
「とりあえず全部行ってみて通れそうな所を通るか」
まず最初は向かって左の道へ入っていく。すると程なくして見えてきたものは巨大な剣を持ったミノタウロスだった。
無言で回れ右して分岐点まで戻った。
次に真ん中。ここには今にも動き出しそうなドラゴンを模した石像が見えて回れ右。
最後に向かって右。最後は恐竜だった。もちろん見えた瞬間回れ右だ。
「はぁ…」
無理、不可能、帰りたい。それ以外の感想が出てこない。
どこか通って先へ進むか考えたが、どう考えても先へたどり着く未来が見えない。先へ行くことは諦め、スタート地点へ戻って大人しく救助を待つしか無さそうだ。
一瞬道無き道を行くことも考えたが、そこにも魔物はいることを思い出して諦める。
「戻るか」
そう言って来た道を戻っていく。
行きと帰り、距離は同じはずなのに帰りの方が長く感じたのは精神的に疲れているからだろう。行きより時間をかけてスタート地点に戻ってきた。
スタート地点に戻ってきてふと違和感に気付く。
「地面がびちょびちょだ…」
何故か地面が濡れていた。
ふと湖の方を見る。
そこには頭? を出した巨大な魚がいた。
「ギシャアアアアアア!!」
魚も俺を認識したのだろう。いきなり〝前足〟をつかって陸へよじ登ってきた。どうやら〝後ろ足〟も有るようで水陸両用、トカゲに近い四足歩行の魚という見た目だった。
さっき見た魔物達も大きかったがこちらの方が断然デカい。
「マジか!?」
「ギシャアアアアアア!!」
魚類が陸によじ登るだけではなく、こちらへ向かってきたので全力で走って来た道を戻る。
全力で走っているが向こうは歩幅が広く、すぐに追い付かれそうだ。
「身体強化! 身体強化! 身体強化ぁああああ!!」
「「「ギシャアアアアアア!!」」」
「うわあああ!? 増えたあああああ!?」
身体強化の魔術で身体能力を補強して逃げていると、最初に俺を見つけて追いかけてきている魚類の後ろにもう三匹追加された。
それを見て一心不乱に、一本道を真っ直ぐ走る。
どれくらい走っただろうか、徐々に魚類の足音が遠ざかってきた。しかし、速度を落とすと簡単に追い付かれてしまいそうなので必死に走り続ける。
そこからは何も考えずに走り続け、気づいたらスタート地点から見えていた城にたどり着いていた。
ふと後ろを見ると少し距離が離れたが、それでも魚類がこちらに向かって一本道を真っ直ぐ走って来ている。
幸いなことに? 城の入り口であろう巨大な扉は開いており、ここでいつの間にか増えた6体の魚類を迎え撃つくらいならば城に入った方がいいような気がする。
「ええいままよ!!」
そう叫びながら城へ入る。
入り口から繋がっていたのは大きな広間だった。入り口の反対側には階段があり、左右には通路があった。一応警戒しながら広間の奥にある階段を目指す。
―――バタン!
「ちょ!?」
広間の中央辺りに差し掛かった時、開いていた扉が勢いよく閉まった。
それを見て慌てて入り口まで戻り、扉を開けようとするがびくともしない。身体強化の魔術ならどうだと魔術を使おうとした瞬間だった。
「いらっしゃい…お兄さん」
「うわあああああ!!!!!?」
背後から声をかけられ、思わず悲鳴を上げてしまった。
読んでくださった方に感謝。
ありがとうございます!




