追憶の迷宮6
目が覚めると寝た時の場所で、寝た時の姿勢だった。当たり前のことだと思うが、最近の俺はこれが当たり前ではなかった。
「おはよう、調子はどうだ?」
「異常なし。どれくらい寝てた?」
「三十分くらいだ。大丈夫そうなら先に進むぞ」
そう言って机の上に出ていたカップなどを収納していく。
散らかっていたわけでも無いのですぐに片付き、先程サーチで見つけた部屋へ向かう。
浅い階層にトラップは無いとされているが一応警戒し、サーチでトラップを探しながら歩く。そのため普通に歩くよりかは時間がかかったが、問題なく部屋の入り口までたどり着いた。
一応これも訓練で、今のうちにサーチでトラップを探しながら進む癖を付けておいた方が今後の危険が減るらしい。この癖を付けるのと付けないのとでは、生存率がまるで違うとか。
「部屋や扉にトラップはなさそうですね」
扉や扉の向こう側に仕掛けられたトラップの発見もサーチを使うのだが勝手が違うため、とりあえずエレナさんがトラップを確認してくれた。
現在俺が発見できるトラップは落とし穴とスイッチ系のトラップくらいだろう。
トラップに対する慣れや知識、そういったものが今の俺には圧倒的に足りていない。それらを補うため、ユキトやエレナさんが実際のトラップを発見次第それを用いて教えてくれることになった。
「そうか、では開けるぞ…」
そう言ってユキトが扉を開ける。
開いた扉から部屋の中を覗いてみるが、中には何もいなかった。
掌の上に出しているマップには反応がある。そしてそのマップをよく見ていると気付いた。
「天井だ」
俺が気付いたのと同時にユキトが小さな声で指摘する。
「ホーンバットですか、珍しいですね」
天井の方へ目を向けると、そこには角が生えて体の大きさを猫と同じくらいにしたコウモリがいた。
あまり強そうには見えないが、あの角で刺されれば痛いでは済まないかもしれない。
「ホーンバットって実はすごく強かったり、特殊な能力を持っていたりするんですか?」
「いえ、あの角をこちらに向けて突っ込んでくるだけです。普通のコウモリと違い、図体が大きいのでそこまで飛行速度も出ないので簡単に打ち落とせますね」
「…」
「魔物というよりかは害獣のカテゴリーだ。あれより一回り大きい上位種のエッジバットになると、風の魔術や氷の魔術を使う危険な魔物なのだが」
「つまり危険は無し?」
「それでも油断した冒険者があの角に刺されて大ケガをすることもある。あまり油断はするな」
そう言うとユキトは剣を、エレナさんは杖を構え、部屋の中へ入っていく。
俺も、いつでも魔術を発動できるように準備をしながらついて入る。
部屋に入り、少し近づいたところでホーンバット達が一斉にこちらへ角を向けて飛び込んできた。
「キィーーーッ」
「アイスニードル!」
「うわっ!」
エレナさんの方へ飛んできた二匹のホーンバットは、魔術で正確に眉間を貫かれて断末魔を上げることもなくその場に墜落する。
そしてユキトの方へ飛んできた二匹のホーンバットは、角ごと縦に真っ二つにされていた。
最後に俺の方に飛んできたホーンバットは俺にかわされ―――
「ピクピクしていますね」
「そ、そうだな…」
「…」
壁に激突し脳震盪でも起こしたのだろうか、ピクピクしていた。
かわしたと言っても尻もちをついた俺はお尻が痛い。痛いのはお尻だけではないような気もする。気のせいだろうか。
ユキトとエレナさんはそれぞれ非の打ち所のない完璧な対処をしているにも関わらず俺はなんと、驚いて尻もちをついただけという何とも言えない結果だ。
もちろん経験や技術の差はあるが、俺は魔術を発動することすらしていなかった。
「アイスニードル」
ザクッという音が聞こえたような気がした。
ピクピクしていたホーンバットはエレナさんに頭を貫かれて動かなくなった。
哀れなホーンバットよ。俺もアイスバースト撃ち込みたかったなぁ。
「この部屋にはもう何も無さそうだな」
「はい、宝箱なども含めて何もなさそうです」
二人はそう言うと自分で倒したホーンバットの角を短剣で切り取っていく。
ユキトのホーンバットの角は真っ二つになっているが、切り取って一つにまとめていた。
「マサキもそれから角を切り取ってくれ。換金素材だ」
拡張鞄から俺も短剣を取り出して角を切り取る。血がそれなりに出ていたが、あまり何も感じなかった。人型ではないからか、ピクピクしていたやつだからか…何となくだが後者であってほしい。
「マサキさんは『サーチ』を含め、魔術を使う練習からですね」
「魔物などが攻撃してきた時に、咄嗟に魔術を発動できるように練習だな」
「はい…」
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