追憶の迷宮5
「ダンジョンっていうかただの洞窟だな」
階段から一直線。特に魔物が出るわけでもなく、トラップがあるわけでもない。ただ道なりに真っ直ぐ歩いているだけで緊張がだいぶ緩んできたからだろうか、思わずそんな言葉が出てきた。そしてそれを聞いたユキトが苦笑している。
「一階からダンジョンらしいダンジョンというのも逆に珍しいのですよ? 多くのダンジョンが浅い内はこのような普通の洞窟です。そもそもここはここで普通の洞窟らしくはありませんが」
「…ん?」
エレナさんに言われ、回りを見渡して一つ気が付いた部分がある。
薄ぐらいが周りが見えるのだ。
そういえばここまで一度も松明や魔術の光、そういった光源を見かけていない。なのに周りが見える。
普通の洞窟ならば真っ暗なはずだ。そう考えると確かに普通の洞窟ではない。
「気が付きましたか?」
「光源ですよね」
「そうです、松明や明かりの魔術が無いにも関わらず周囲が見えます。気が付くとこれはこれで悩ませるものですが『そういうもの』と認識するのが一番疲れません」
「はは…」
今度は俺が苦笑だ。
確かにここはダンジョンだ。少なくともただの洞窟探検では無いと自覚はできた。
「下に降りていけばもっと不思議な光景なんてたくさんある。そういうものはすべて『そういうもの』と割りきると楽だ。さて…」
小さな広場のようになっているところでユキトが立ち止まり、徐にこちらを振り向く。
笑顔だった。
幼い子供が見ると泣き出しそうなとても良い笑顔だ。
「レッスンその一、だ」
「お、おう」
「この先道が二手に別れているのだが、片方は行き止まりだ。それをサーチという初歩的な魔術でどちらが行き止まりか当ててもらう。慣れれば生物・物・罠・隠し部屋、そういったものも探すことができる魔術だ。魔力を掌に集中させて「道を示せ、サーチ」と詠唱すれば誰でも行き止まりかどうかを当てる程度のことはできる」
「まあ一回やってみるか。道を示せ、サーチ!」
何気に決められた詠唱して魔術を発動させるのは初めてだと気付いたが、今は余計なことを考えずに教わった通りに詠唱する。すると朧気に洞窟の形が頭の中に描かれたような気がする。
ユキトが言っていた通り、もう少し歩けば道が右と左に分かれているようだ。そして右に行くと行き止まりで左はまだ道が続きそうだった。
「どうだ?」
「もう少し歩けばユキトが言った通り道が二手に分かれてて、右に行ったら行き止まりっぽいな」
「どうやらきちんと発動したようだな。次はマサキの好きなようにやってみるんだ。基本的にサーチは無属性だが中には風や火属性という属性を持ったサーチを使う者もいる。自分に合った方法を今のうちに見つけておくといい」
「属性を持ったサーチを使っている人なんて、ごく少数ですけど」
属性を持ったサーチを使うなんてマジ変人、みたいに聞こえてきたのは気のせいだろうか…。
とにかくどうするか考える。自分流のサーチを探す。そういうと激しく違和感を感じるが無視だ無視。
まずは超音波をイメージしてみる。コウモリは音の反射で形などを把握していると聞いたことがある。それの応用で魔力の波を当て、その反射で通路の形を把握できないだろうか。
やってみるか。
「道を示せ、サーチ!」
先ほどは朧気に洞窟の形が何となく頭の中に描かれるだけだったが、今度は鮮明な立体地図が頭の中に…。
「いで、痛い痛い痛い痛いっ!?」
慌てて魔術を霧散させる。
頭が割れそうな痛さだった。
「やはり最初はこうなったか」
「予想通りですね」
頭を押さえながら振り向く。すると視線の先には拡張鞄から取り出されたであろう椅子と机があり、エレナさんがお茶を入れていた。
「あの、俺も先に少し休憩させてもらえたらなと…」
「却下だ」
「却下です」
知ってた、だってカップが2つしか無いんだもの。
「頭が痛くなったのはおそらく情報量が多すぎたのだろう。あまり情報量が多くなるとそうなるということを覚えておくといい」
そういうのは先に言ってほしかった…。
「ちなみに立体図を頭の中に展開すると、場合によっては廃人です」
そういうのはもっと先に言ってほしかった…。
お茶会の場から追い出された俺は仕方なくサーチの練習に戻る。
それからどれくらい時間が経っただろうか。1時間も経っていないとは思うが2時間とか3時間とか経っていても驚かない。それくらい集中していたと思う。
途中、ゲームのマップなどをイメージして頭痛が発生するなど、何度か頭が痛くなったが無事に自分流のサーチが完成した。
本当に無事でよかった。
「サーチ!」
そう唱えると〝掌の上に〟立体的な地図が浮かび上がる。
直径約1メートルで展開された立体的な地図。それはおおよそ半径500メートルを1000分の1スケールで描いたものだ。
なにも頭の中に描く必要は無かった。
そしてある程度の壁なら魔力をすり抜けさせることができ、行き止まりの先もしっかりとマッピングされている。
行き止まりだと思っていた先は部屋になっており、そこには5体の生命反応があった。おそらく魔物だろう。
「ユキトー、できたぞー!」
「少し見えにくい部分などはあるがなかなかの出来だな」
「ユキト様、これはそもそも『サーチ』という魔術では無いような気がするのですが」
「まあ一応『サーチ』ということにしておこう」
なぜか渾身の出来のサーチが否定されたような気がするが気にしない。
そう、これはサーチなのだ。
というか頭がいろいろな意味で疲れた、休憩させてほしい。
「とりあえずそろそろ休憩させていただけたり…」
「ああ、大丈夫だ」
許可が出たところで、机に突っ伏してそのまま意識を手放した。
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