トリフト領にて8
「そんなものだ、気にするな」
ユキトが冒険者達と何か話していたが、俺が落ち着いた頃合いを見計らいそう言ってきた。
せっかくの異世界転移だ、どーせなら美少女に慰めてほしかった。そう思えるくらいには回復してきた。
「わりぃ」
「今後も魔物との戦いはある。キツいかもしれないが慣れていってくれ」
「ああ」
日本では蚊などの虫は殺すこともあったが、二足歩行の生物を殺す機会などあるハズもなく、例え魔物と呼ばれているゴブリンだろうとストレスが発生するのは仕方がない。
が、ユキトに言われるまでもなく慣れるかストレスのコントロールは必須だろう。
ここは異世界だ、最悪人を殺すことがあるかもしれない。そんな時戸惑っていれば間違いなく俺の方が死ぬだろうから。
「すみません」
ユキトがこっちに来たことで冒険者達もこちらに寄ってきた。
「魔術師のお兄さん、大丈夫でしょうか?」
一人が先頭に立ち、その後ろに三人が付いてきた感じだが、四人とも心配そうにこちらを見ていた。
俺が読んだことのあるラノベとかなら一人くらい「助けてくれなんて言ってねえし」などと言うやつがいたが、ここにはいないようだった。
「一応大丈夫かな」
「よかったです、助けていただきありがとうございました」
そう言って四人とも頭を下げ、森の出口の方へと歩いて行く。
それを見送りながら疑問に思ったことをユキトに聞く。
「なあユキト、さっきあいつらと何話していたんだ?」
「彼らは思った通り八等級だったため、上位の級を持つ者として忠告を。それと経緯を少し聞いていた。最初は薬草採取をしていたようだが二匹のゴブリンを見掛けて戦闘に挑み、最終的に私たちに助けられたという流れなのだが…」
「だが?」
「彼らが最初にゴブリンと遭遇した位置が少し気になってな。まだ小さいと思うがコロニーが出来ている可能性が高い」
「つまり今からゴブリン殲滅戦だな!」
現在の展開がファンタジーの王道をなぞっており、先程ゴブリンを殺して吐いたことなんてすっかり忘れてそんなことを言う。
「いや、まずはギルドに報告だな。なぜいきなりマサキのテンションが上がったのかは疑問だが、コロニーを甘く見てはいけない。一体一体は確かに大したことがないのだが、たった二人で行ってもいずれ囲まれて死ぬだけだ。集団には集団で対処するのが一番確実で、一番安全だ」
苦笑いしつつもユキトの声は真剣だった。
「じゃあ今から街に戻ってギルドに報告、か」
確かにユキトが言うことは正しいと思う。しかし、俺の魔術なら一撃で殲滅できるのではないかと思わずにはいられない。
ゴブリン程度ならファイアーストームを撃つだけで簡単に殲滅できる、そんな気がするのだ。
「ファイアーストームで殲滅できる、そんな顔をしているな。確かに殲滅も不可能ではないかもしれないが、おそらく実戦ではまだ撃てない」
考えていたことをユキトに言われてドキッとする。が、それ以上に実戦ではまだ撃てないという部分に意識が向く。
「まだ撃てないってどういうことだ?」
「そうだな…」
そう言ってユキトは目を瞑り少し俯く。
俺はとりあえず黙ってユキトを見守ることにする。
「いた」
目を瞑って一分が経つか経たないかといったところでユキトは顔を上げて、同時に目も開かれる。
「距離およそ200メートルといったところか。それくらい離れたところにおそらくゴブリンがいる。今からそれを討伐しに行って実際にその理由を実感してほしいのだがマサキは大丈夫か?」
どうやらユキトは索敵をしていたらしい。おそらく何らかの魔術だろう、200メートルも先の対象を探知できるとはさすが魔術。
「お、おうよ!」
「では行こうか」
そう言って歩き出したユキトに付いて行く。付いて行きながら少し顔を出して前を確認してみるが木が邪魔で、ぜんぜんゴブリンの姿は見えなかった。
たった200メートルだが歩くスピードが遅いからか、緊張のせいか、その両方か、歩いている時間がやけに長く感じた。そう感じた直後からもう一段歩くスピードが下がる。
その頃にはもうゴブリンにだいぶ近づいていたようだ。木と木の間にゴブリンが2匹見えた。
「うっ」
ゴブリンを視認した瞬間、先程の光景を思い出して吐き気を催す。そこまで吐き気は強くなく、吐くことはなかったが、なるほどと思ってしまった。
こんな状態で合成魔術は無理だ。それが率直な感想だった。
普通の魔術ならば撃てると思うのだが、合成魔術は普通の魔術以上に集中を要する。とても吐き気を抑えながら撃てるものではないだろう。
「現在の状態を理解できたようだな」
「おう、十分理解できた…」
「これは貴族でよくあることだ。今まで魔物の討伐、いや、殺生と無縁だった者がそれを経験することで気分が悪くなる。が、気にするな、冒険者などやっていればすぐに慣れる」
慣れなければ死ぬだけだ、とユキトの瞳は語っているように見えた。それはただの深読みや勘違いかもしれないが、何となくそうではないと感じた。
「んじゃあさっさと慣れねーとな」
「ああ、マサキは貴重な戦力だ。早く慣れてもらわなければ私が困る」
誰かに必要とされる、それによって自然と頑張ろうと思える。そんな気がした。内容は殺伐としたものだが。
「んじゃあ期待されてる俺が、あっちの一匹もらっちゃおうかね!」
「あまり無理はしなくてもいいぞ」
「無理じゃねーよ、たぶんな! アイスバーストッ!!」
「《加速》ッ」
今回は氷柱を五本作りだし、それが今回は全弾命中する。その隣ではユキトが剣を横に薙ぎ払い、ゴブリンの頭を飛ばしながら離脱する。
「バーストッ!!」
ユキトが離脱したのを確認して、ゴブリンに突き刺さっている氷柱の先端を破裂させる。それによって氷の破片がゴブリンを内側から破壊し、背中や腹から氷の破片と一緒に血などが飛び出す。
そして案の定、吐き気を堪えられずに吐こうとしたが、先程出したばっかりだったため、胃に何も入っておらず胃液を吐く。
どうやら、がんばるぞーぅという意気込みだけではダメだった。しかし、胃液を吐いたものの、心情的にはさっきより全然苦しくなかった。
そもそも、使う魔術が問題なような気もする。アイスバーストは使い勝手がいいのだが、スプラッター過ぎる。少し使うのを控えるかどうかの検討が必要かもしれない。
(もしかしたら頑張れば女風呂を覗くことも夢ではないのでは)
「そもそも風呂自体が貴族邸以外では高級な宿や一部の温泉が湧く街以外には無いぞ。そしてそういう所にはしっかりと覗き防止の魔術が張り巡らされている」
(お、温泉ならワンチャン混浴が!!)
「残念ながら混浴というものはないな」
(まじかーーー!!)
「マジだ」
「…」
「…」
「あれ、俺声出してた?」
「いや?」
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という会話があったとかなかったとか…
お風呂はきちんとヒロインを出してからそういうシーンも書いてみたいッ!
あれ、そういえばまだ全然ヒロイン出る気配がないッ!?
います。いますよー、きちんとヒロインいますからね!?




