トリフト領にて7
混沌とした夜飯を終えその後は何もなく一夜明け、街から離れて森の入り口付近に来ていた。
ファンタジーお馴染みのゴブリンなどを狩りながら俺の魔術を確認するためなのだが、先に火以外の魔術を俺がどれだけ使えるかを森の入り口から少し離れて確認することになった。
確認方法は離れた位置に少し大きめの石を転がし、それに向けて火の魔術を使うだけだ。当たり前のことだが、どんな強力な魔術でも当たらなければ意味が無く、数が撃てないのも意味が無い。なので魔術の練習などは、基本的にこのスタイルらしい。
ちなみにこの世界の魔術は『火』『水』『土』『風』を基本四属性、『雷』『氷』『光』『闇』を上位四属性とされている。その他に身体強化など魔力操作面が強い『無』、獣人族が使う『気』、エルフ族が使う『木』魔術ではなく魔法というカテゴリに位置する『聖』、同じく魔法というカテゴリに位置する『死』、魔族が使う『魔』などがある。
基本四属性及び上位四属性は誰でも使える可能性があるが、基本四属性又は無属性で魔術というものに慣れた後に人に教わりながら修行してようやく使えるようになるのだとか。そもそも誰でも使える可能性はあるのだが、得意不得意はもちろんあり、使えない可能性ももちろんある。
そして俺はなんと基本四属性、上位四属性、無属性、人が使える九属性を全て使えてしまった。ただし、得意と言えそうなものは火、風、氷の三つくらいだった。
それでもいきなり九属性全て使えるというのは凄いのではないだろうか、さすが日本人。
「なあユキト、ぶっちゃけ俺ってスゴクね!?」
そう言った俺の前には蒼い炎の竜巻が蠢いていた。火と風の合成魔術だ。
九属性使えることにニヤついていた俺はユキトから昨日聞いていた合成魔術になんとなくチャレンジしたところ、あっさりとそれもできてしまった。
「ファイアーストームか。確かに合成魔術自体、基本的に三等級冒険者くらいの実力がなければできないので凄いと言えるのだが…」
「なんだよ…」
「もし街中でファイアーボールではなくこちらを使っていたらその場で打ち首だっただろうなと、ふと思ってしまってな」
「…」
俺スゲー感が一気に持っていかれてしまった。
「これはダンジョンや魔物などを相手にするのには向いていない。どちらかというと国家間で起こる戦争などで使われるような魔術だ。そういった場面以外ではあまり使わない方がいいということを覚えておいてくれ」
「お、おう」
とりあえずファイアーストームは封印だ。せっかくできた合成魔術だが、そういう理由ならあまり使わない方がいいだろう。
「さて、ちょうどいい。ファイアーストームを打ち消して森に入り、マサキの実践訓練にしようか」
「そうだな、オネガイシマス」
発動待機中の魔法の打ち消しが、消えろと念じるだけで行えれば奴隷になることもなかったのにな、とふと考えてしまった。魔術のキャンセル、打ち消しは念じるだけではなかったが、そう難しいものでもなかった。待機状態の魔術を魔力の塊とイメージして、上から少しずつ霧散させていく、それだけだった。
が、決して治安のいい世界ではないのだ。もし奴隷になっていなかったら普通に冒険者をやっていたかもしれないが、右も左もわからない異世界だ、そこら辺で野垂れ死んでいたかもしれない。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
幸いなことにユキトとの生活は始まったばかりだが悪くない。ならばこのまま流れに身を任せるのも俺らしい。
「では行くぞ」
そう言って歩き出したユキトの後ろを、俺はさっさとファイアーストームを消しながら付いて行く。
森への道は舗装されているわけではないが、多くの冒険者や猟師に踏み鳴らされた道だ。どちらかと言うと歩きやすい道を歩き、森に入っていく。森に入っても踏み鳴らされた道があるのだが、森までと比べると少し歩きにくいのは仕方がないだろう。
この森は冒険者ではない猟師も入ることが多々ある森らしく、森の浅い場所はそこまで危険ではないが、それでも油断した冒険者や猟師がたまに大ケガをするらしい。森の浅いところには魔物が出にくいだけで出ないわけではない。
周りを警戒しつつ、たまにユキトがこれは薬草だとか錬金術に使えるだとか言ってくれるのだが俺にはどれも同じような葉っぱにしか見えない。形が違う物はさすがに見分けがつくが、同じような葉っぱの形なのに見分けているユキトが凄く見える。
葉っぱの説明を度々はさみながら森を一時間ほど歩いただろうか。不意にユキトが立ち止まった。
「マサキ、聞こえるだろうか」
「ん?」
「あちらの方でどうやら戦闘が行われているらしい」
そう言ってユキトが十時の方向を指差したが木が邪魔をしているのだろう、何も見えなかった。しかし、何かがぶつかる音が聞こえた気がした。
「冒険者が戦闘している場合は横やりをしないのが暗黙の了解だが見学くらいは大丈夫だろう。少し様子を見に行こうか。一応いつ戦闘になってもいいように準備をしておけ」
その言葉を聞き、俺は自分の右人差し指にはまっている鎖のようなものが彫刻されている銀色の指輪を見る。
今朝、森に来る前に寄った武器屋でユキトに買い与えられた魔術の発動を補助する魔術師の武器。他にも杖やタクトの様な短めの杖、魔術剣なんてものもあったが、その武器屋の品揃えでピンときたものはこの指輪だった。
指輪を見ていると置いて行かれそうだったのですぐに顔を上げ、ユキトと同じようにできるだけ音を立てないよう戦闘が行われているだろう方向へ進んで行く。
ユキトに付いて行くと段々と何かがぶつかる音が大きくなっていき、少し開けた場所が見えてきた。そこには二匹のゴブリンと四人の冒険者らしい少年達がいた。
ゴブリンは黒っぽい肌に醜悪な顔立ちで身長は低く、拾ったのだろうか剣を保持していたがその剣は遠目で見てもボロボロに見える。
一方、少年達は少し距離があるので分かりづらいが俺やユキトより少し下、十四歳くらいだろうか。こちらも全員武装は剣。もちろんボロボロではなかった。
それぞれ二対一で、一人がゴブリンの気をそらせてもう一人が攻撃するというお手本のような戦闘だった。しかしゴブリンの皮膚が固いのか少年たちの力が足りないのか、剣がゴブリンに当たるのだが、なかなか切れない。
「おそらく八等級冒険者だろう、自信がありギルドに無断で勝手にゴブリン等と戦い―――命を落とす者がいるという事を聞いたことがある」
「助けるんだよな」
「ああ、勿論。少し急ぐぞ」
「おうっ!!」
この世界に来て初めてファイアーボールを作った時の興奮が蘇る。
あの時は人に迷惑をかけ、自分は奴隷行きだった。しかし今回は人助けだ。そう思うと自分の中に少し隠していた恐怖心がスーッと消えていった気がする。
俺とユキトが近づいている最中、冒険者達を挟み撃ちするようにさらに二匹のゴブリンが冒険者達の背後から近づいて来ているのが見えた。
「ヤベェ! 後ろからもう二匹ゴブリンだ!」
それに気づいた冒険者の一人が上げた声が聞こえたのと同時に、俺は右手に魔力を集中させ魔術を発動させ、ユキトは強化魔術を発動させる。
「アイスバースト!!」
「≪加速≫ッ」
背後から新たにやって来たゴブリン目掛け俺が作り出した氷柱が飛んで行く。しかし距離が離れていたため十本の氷柱のうち三本、一匹は肩に一本、もう一匹は足と腹に合計二本刺さっただけだった。
が、それで十分だった。
「バースト!!」
その掛け声に反応し、ゴブリンに刺さっていた氷柱の先端が破裂し、氷の破片がゴブリンを体の内側から破壊する。氷柱の先端に風属性の魔術を仕込んだだけの簡単な合成魔術だが、殺傷能力は中々のものだった。
氷柱が二本刺さった方は既に絶命している様だった。
もう片方も肩から胸にかけて氷の破片が内側から刺さり重傷だ。恐らく放っておいても絶命しそうだ。
冒険者達が元々戦っていたゴブリンの方へ向かって行ったユキトも既に終えているらしく、近くに頭と体がバイバイしてしまったゴブリンが二匹転がっていた。
俺がきちんと仕留めきれていなかったゴブリンもユキトが止めを刺しに行き、戦闘が終わった様なのでユキトの元へ向かう。
その途中、呆然と立っている四人の冒険者達が見えたが、同時に頭と体がバイバイしてしまっているゴブリンもまじまじと見てしまい、盛大に吐いてしまった。
そういえば初めての戦闘、って言う程まだ戦闘はしていない、かな。




