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捕われたヨムカ

 馬の指導も手短に、最短の道のりで馬を走らせて二時間ほど、ようやっとの思いで首都に辿り着く。


「僕達はこの事を軍司令部に伝えて来るから、キミ達はてきとうにやり残していることでもやってればいいさ」


 カルロは六八部隊を率いて表通りからそのまま馬を走らせて坂を上って行った。民からは何事かという視線を集める七八部隊はヴラドが指示を出す。


「一時間後に中央広場に集合だ。その間に各自でやるべきことをやっておけ」


 解散の合図に各々は四方に散った。


 ヨムカは黒死蝶たちのアジトがある区域に――裏路地を進んだところで見張り役の黒死蝶の見知った顔が駆け寄ってきた。


「ボス、どうしました? 確か今は戦場に向かっているはずじゃ」

「あ、うん。ちょっと急用が出来て、バロックさんとリーさんを支給にスカルクラブに召集をかけてください!」

「わっ、わかりました!」


 ヨムカの指示にただ事ではないと、走り去っていく黒死蝶の構成員を見送り再び馬を駆ける。


 カルロの指導が的確で最初の三十分を走らせれば、自分の手足のように手繰る事ができるようになった。カルロを隊長として評価するならば間違いなく最高の部類だ。実力、頭脳、隊員への気配り。どれをとってもヴラドより優れている。


「先輩も、もう少し頑張って欲しいなぁ」


 大き目の曲がり角を曲がりしばらく走らせると、見慣れた髑髏の装飾をあしらった看板を掲げた店が出迎えた。


 馬から飛び降り、綱を近場に居た男に託して勢いよく扉を開け放った。


「おや、ヨムカ嬢? ヨムカ嬢じゃねぇですか! ど、どうしやしたっ」

「バロックさんは?」

「俺ならここに居るぞ。どうした」

「至急二回のVIP席におねがいします。カロトワさん、リーさんが来たら二階に上がらせてください」

「へ、ヘイ。分かりやした」


 厨房からピンクのエプロン姿のバロックの手を引き螺旋階段を駆け上がり、と魔導バロックの背を押してソファに座らせる。


 直ぐに階下から苛立ちの怒声が響き渡る。


「オイィ! クレイジーオンナ、俺様を呼びつけるたぁ良い度胸しとるなぁ、何処にいやがる?」

「堕天使のリー。ヨムカ嬢なら二階で待ってる、早う行けや」


 カロトワが背後に黒死蝶を従え、馬鹿みたいに大声を上げるリーを捲し立てる様に螺旋階段に押しやる。


 大股で苛立ちを隠さず上って来た白いジャケットをビシッと決めているリーは、ドカッと空いているソファに腰を落とした。


「オラァ、要件はなんや? ガキの招集に応えてやったんや、手短に頼むで」

「はい、全員揃ったので伝えます。かく乱部隊として戦地に派遣されたほとんどの魔術学院生が帝国側に寝返りました。このままでは時間稼ぎも出来ずに、首都へその軍を進めてくるはずです。予定より早いですけど、黒死蝶と智天使には住民の避難をお願いします」

「なるほど、ねぇ。ヨムカ嬢の他の身であれば断るわけにはいかねぇな。オメェさんはどうする、リー。一人みっともなくケツみせて逃げるか?」

「阿呆か、オメェは。ここで逃げたら智天使は一生笑いモノやろうが! ええわ、やってやる。けどな、俺達を動かすんや、相応の礼を期待しとるからな」

「分かりました、ではよろしくお願いします」


 ヨムカが席を立とうとした時にバロックがヨムカの腕を掴み阻む。


「そんで、ヨムカ嬢はどうするんだ?」

「私は正規軍と共に帝国を迎え撃ちます」

「はぁ……そう言うと思ってたよ。悪いがやっぱり娘を戦場に行かせたくはねぇんだ……ステラ」

「――承知」


 いつからそこにいたのか、背後から湿った布切れでヨムカの口と鼻を塞ぐ。数回の呼吸をすれば身体が脱力して意識が遠のく。瞼を閉じる前に見た最後の光景は、バロックが何処か悲し気な表情を浮かべていた。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿はGW明け7日の夜に投稿します!

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