帝国に寝返る者、国に帰る者
「敵影! 敵影ィィッ!!」
丘の上で見張りが休憩をしている強襲部隊に急ぎ伝達した。
「馬鹿な! 早すぎる。予定ではもっと時間に猶予があったはずじゃないのか!?」
困惑する強襲部隊の面々を鎮めたのは、やはり空色の髪をした女性――パヒューダだった。
「落ち着きなさい。確かに帝国兵の侵攻は予定より早かった。が、それが何だという? 私達は予定通り行動を起こすだけ。考えを改めた者は……いないようだね」
パヒューダの視線の先には、彼女の誘いを蹴ったヴラドとカルロがいた。彼等から期待していた反応が得られず表情に陰りが差し、視線は彼等からヨムカに向いた。
ヨムカは困ったようにはにかみながらも、ゆっくりと首を振った。
別に国に忠誠心があるわけではない。国に残した黒死蝶や智天使という家族を裏切りたくは無かった。だから、彼女のせっかくの誘いを受け取らなかった。ヨムカの意志に続くように、クラッドとフリシアもこの場に残ると言った。
「……そう、残念だよ。戦場で対面して会いたくはないが、元気でね」
最後にそう言い残して、白旗を掲げ数百人の魔術強襲部隊を引き連れて丘を駆け下って行く。
どんどん小さくなっていく彼等の背中を見送る。
「さて、ロノウェどうする?」
「ヴラド、隊長はあなたですよ。そうですね、意見を求めるのならば私にではなく、カルロさんにではないですか?」
部隊序列が上の六八部隊隊長カルロが指揮をとるのは当然だ。だがそれは、七八部隊が六八部隊と行動を共にするならばだが。
「僕達は一度国に帰るよ。あの裏切ったクソ野郎共の事を報告しなきゃいけないしねぇ! ああ、苛立たしいね、ホント」
ヨムカはパヒューダ太刀を責める気はない。だって誰も死にたくはない。それも国に死ねと言われたような状況で、国の為に戦って命を散らすのは本意ではない。死にたくはないし、魔術の研究だってしていたい。研究には莫大な資金を要する。魔術師として研究を続けていくには帝国のモノになってしまおうという考えも理解できる。きっと彼等は懸命な判断をしたんだと思った。
「報告してどうにかなるわけではないだろう?」
「ふん! 国は帝国に対抗するべく近隣諸国と同盟を結んでいるだろう? だったら、援軍と共に裏切り者諸共帝国軍を叩き潰すんだよ。当初の予定が狂ってしまったけどね」
当初の予定とはヴラドと何やら話していた件だろう。
「カルロさん、当初の予定ってなんですか?」
ヨムカの問いにカルロは鼻から空気を吐き出すと空を仰ぎ見た。
「強襲部隊が帝国軍の特攻をしかけている最中に、煙幕を焚いて僕達だけあの森に逃げ込もうっていう作戦だよ。敵前逃亡だね」
カルロの指さす先には丘の上からでも分かる、広大で深い森が広がっていた。
「うし、パヒューダの置き土産もある事だし、さっさと帰るか。親父にもう色々と言いたいことがあるしな」
少し離れた場所には人数分の馬と数日分の食料が残されていた。これで国外に――戦渦に巻き込まれない場所にでも逃げてくれというパヒューダの最後の好意だろう。
「先輩、私は馬に乗ったことがありません」
「俺もっす!」
「わ、私も……」
七八部隊だけでなく、六八部隊の副隊長以下が全員挙手した。
「仕方ない、全員騎乗! 手短に乗り方を説明するから覚える様に」
指導はカルロ、六八部隊副隊長、ロノウェが指導に当たった。
こんばんは、上月です(*'▽')
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