戦場への行進
早朝の学院前に整列する若者たち。
学院に掲げられた国旗を仰ぎ見ていた。これから戦地へ向かう覚悟と国家に捧げる忠誠を今一度胸に刻み付ける為に。第一から百の部隊が――隊ごとに人数はバラバラだが、ざっと五、六百名ほど。
正規の軍隊ではない。実戦経験の無い者がほとんどの新兵。術式もろくに扱えない者もいる。彼らは否応なしに学院規則に従い、戦地へ馳せ参じねばならない。
「うぉ、うぉ、うぉ、こ、これから戦争っすね。俺、まともに術式使えねぇっすよ」
「ちゃんと勉強しなかったツケが回って来たんだよ。はぁ、もう何言っても遅いけどさ」
ぶるぶると身体を震わせるクラッドに冷たい指摘を入れるヨムカ。術式を使えたからと言って何になるという話だ。自分達は所詮見習い。正規の――それも戦い慣れしている帝国兵相手に万が一の勝機もない。
「フリシアさん、ヨムカさん、クラッドさん。私とヴラドから離れないでください。敵味方の区別がつかない乱戦になるのは必至です。ですが近くにいてくれさえすれば、まだ守ることも出来ますので」
「で、でも私達は、そ、その、勝ち目はないって」
「ええ、そうですね。確実に死ぬでしょう。ですが、私もヴラドも貴方達より後に死ぬ気はありません。いいですね? 術式は自分たちを守るために使ってください。ですよね、ヴラド?」
「あ、なんか言ったか?」
七八部隊先頭に立っていたヴラドは話を聞いていなかったようで、ヨムカが列から顔を出して覗くと、文庫を手にしているヴラドの姿が視界に入った。
「先輩、ブレませんね」
「ああ、流石っすね。なんか、隊長だけ生き残ってても納得できる気がする」
「う、うん。確かにね」
他愛のない話しも場の張り詰めた空気に誰もが口を閉ざした。
「国家の招集に集ってくれたことに感謝する。現状を手短に伝えよう。我が王と諸君等が通う学院長は何者かによって暗殺された。きっと……いや、間違いなく犯人は帝国の者だと私は確信している。諸君らの役目は援軍が到着するまで、帝国兵の動きのかく乱だ。強襲部隊として日々の訓練を今こそ生かす時だ」
何が日々の訓練か。まともに戦闘訓練を受けていたのは実戦もその任務としていた上位数部隊くらいのものだ。かく乱といっても敵に特攻を仕掛けねば、見習いであるヨムカ達では効果を期待できない。
延々と壇上で新兵を鼓舞する言葉を能無しみたいに吐き出す男にそろそろ全員が嫌気をさしてきただろう。そんな学院生側の静寂を破った男が一人いた。
「あ~、一応確認だ大臣。もし、強襲するタイミングが無かった場合はどうすればいいんだ?」
「きみは……ああ、カッセナール家のご子息殿か。私はキミ達が有望な働きを見せてくれることを祈っている」
大臣の言葉は今ここに居る全員に「死んで来い」と命令を下した。言葉こそ濁したが、自分たちの役割を全うしろと。ヴラドは頭を掻いて、大臣の言葉に続く。
「祈るのは誰でも出来るよな。これは親父から聞いたんだが、この国が帝国相手に喧嘩を吹っ掛けたらしいな。帝国の領地の一部は自分達のものだと」
「そ、それがどうしたというのだ。当然の主張を言っただけだ」
「当然の主張、ね。歴史の改ざんはお前達の得意とするやり方だったな。古い文献を漁れば、お前等が自国領だと言い張ってる土地は、紛れもなく帝国領地だと記されているんだが?」
「そんなものは根拠のない紙切れだ!」
「この国は鉄に乏しく、お前達が欲している領地は鉱山でわんさか鉄が発掘できるみたいだな。そりゃ、欲しいよな。鉄は新たな兵器を作る材料で一番大切だもんな。学院長の力を盾にして、帝国に不当な要求を突き付けていた国王と一部の大臣達のせいで、起こったんじゃないのか、今回の戦争が」
周囲から戸惑いの声が生まれる。
「き、貴様! いくらカッセナール家の子息だからといって、今の発言は反逆罪に適応されるぞ!」
「あ~、構わねぇぞ。だが、お前達の思惑は親父達が暴いてくれるだろうな。それまで、国外逃亡なんて卑怯な真似はしねーよな?」
「うぐぐ、ガキ風情が! 何をしている! 早く出陣しろ!」
大臣の怒声を背に急ぎ行進を始めた魔術強襲部隊は、どんどん小さくなる首都に見送られて戦場を目指した。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は28日の夜を予定しております!




