絶望の未来を覆すための一手
「おーおー、青臭ぇ小娘が大人に招集掛けやがって、随分と偉いもんやなァ」
「黙れ、リー。それで、話しってなんだ、ヨムカ嬢。まぁ、大体の察しはついているがな」
これは運命を変える為の招集だ。
ヨムカの様子に気付いたリーもバロックも口を閉ざした。
「招集ありがとうございます。えっと、もうこの国が帝国との戦争が始まる事は知っていると思います。そこで、バロックさんとリーさんにはお願いがいしたいことがあって……」
「言ってみぃ、どんな願いや。戦争に参加しろ意外やったらやってやる。むろん報酬は弾んでくれるんやろうな」
「報酬? えっと、善処します。智天使と黒死蝶の家族総出で、万が一の際は国民の避難誘導をお願いします」
「ああ、それは構わねぇが。ヨムカ嬢?」
「はい、私は一人の魔術兵として戦争に参加します。ですので、お願いします」
バロックとリーが一瞬呆けた顔になった。
加えていた葉巻と煙草を落とした二人は膝の厚さに飛びあがり、咳払いをして座り直す。その表情にはヨムカをというより、現実を責めるような色が滲んでいた。
「どぐされの糞国家が、駒足りんからってガキに戦争させんかッ! どこの国も糞バッカやわ、いっそ滅びたらええんやないか!」
「子供の命を何だと思っていやがる。ヨムカ嬢、戦争に行く必要はねぇ、家族が匿ってやる。何があっても、だからよ――」
ヨムカは小さく首を振るった。
「このスラム街で炎龍を滅ぼした噂の魔術師を覚えてますか?」
「ああ、覚えてる。それが、どうしたって言うんだ?」
「はい、あの魔術師は、浅ましい欲望に呑まれた男によってこの国が崩落すると言っていました。死者は数十万を超えると……その崩落の未来を阻止したいんです。私ひとりが何かを成せるなんて高慢なことは思ってはいません。ですが、私には七八部隊の仲間がいます。きっと彼等となら小さな奇跡くらいは起こせるんじゃないかって思うんです」
ヨムカの言葉を押さえつけようと言葉を探すが、ヨムカの眼と視線が合い肩を落とした。宙には二人分の煙がゆっくりと天井に向かって伸びている。
「ヨムカ嬢……俺には昔一人の娘がいた。当然、妻もいた。俺と妻は娘を大事に育ててたんだ」
「おい、こらゴリラの昔話何て眠くなるだけだろうが」
「まぁ、聞きたくなかったら耳でも閉じてろリー。娘は順調に成長していった。もうすぐ結婚も控えていたんだ。日々美しくなっていく娘の姿を見ているのはこんな裏稼業をしていた俺にとって唯一の幸せだった」
「はは、どーせ。娘が幸せになる前に死んじまったとかそういう系の話やろ? よう聞くはボケェ」
「黙ってろリー。こいつの言った通り娘は結構前日に自殺した。相手が軍人でな、戦地で死んだんだ……娘は自殺する前日に俺にこう言った。私はあの人と幸せになりますってな。俺はその時その意味を理解していなかった。翌日、娘の部屋を訪れてみれば首を吊って死んでいた……妻はうつ病を発症してな、後を追うように。俺に身うちは村に残した妹一人だったが、ヨムカ嬢。妹は死んでいたんだろ?」
「――ッ!!」
ヨムカは顔が引きつった。
バロックには村の皆も妹も普通に暮らしていたと報告したはずだ。それをどうして、とパニックになりそうな脳をフル稼働させソレを否定する言葉を探ろうとした。だが、バロックは小さく笑って阻む。
「こいつはな、村の風習で自分の魂の入物として扱われていたんだ。んで、俺がソイツを妹の分を作って渡した。つまり、コイツが俺の下にあるという事は、妹の魂は天に昇って行ったってことになるだろ。生きている証明だったら、手紙でも良かった。だが、コイツが来たってことは、と思ってな。つまり、俺にはもう身内がいねぇ完全な一人になっちまったってことだな、ガハハハ!」
「バロックさんは一人じゃありません。黒死蝶の皆がいます。もちろん私も」
「そうだ、俺には黒死蝶がいて、ヨムカ嬢がいる。だが、ヨムカ嬢。お前は戦争に行こうとしているんだよな。また俺に娘を失う気持ちを味わえというのか?」
「で、ですけど、死ぬとは限りません」
「生存より確率は高ぇだろ。お前さんは俺の……俺達の娘なんだ。だから、戦争なんかに行ってほしくはねぇ」
バロックの言葉がヨムカの生存本能を刺激する。ヨムカも戦争なんかに行きたくはない。自分が生きる理由は自分が何者かを正確に知る為だからだ。つまらない死で全てを失いたくはない。だが、それ以上に大切な人たちを失いたくもない。だから。
「私はボスとして家族を守りますし、国家に使える魔術師……見習いですけど。私の思い出が強いこの街を守りたい」
嫌なことの方が多かったが、他の場所で生きていた時よりかは楽しい思い出も多い。そんなヨムカにとって特別な場所を壊させはしたくなかった。
こんばんは、上月です(*'▽')
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