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変わらぬ家族の温かさ

 帝国が宣戦布告をして三日が経った。


 間近に迫った戦争への恐怖が人々の生活を脅かしていった。こんな状況で笑える者がいるはずもなく、国を捨てて他国に渡る者まで現れた。


 勝てる見込みのない戦争は、魔術養成学院の生徒の士気をも落としていた。


「あー、まあ。戦争になっちまったのは仕方ないとして、だ。俺達に与えられた役割は一つ。帝国軍が足を止め、交代で仮眠を取っている隙を突く」

「た、隊長。隙を作って、ど、どういうことでしょうか?」


 フリシアの問いにヴラドは言いにくそうに頷いた。


「全魔術学院生は闇夜に紛れて奴らの側面からの夜襲を仕掛ける」

「そんな……」


 みるみる顔色を青白くさせていくフリシアにはもう、言葉を発するだけの気力も残されていない。それは、クラッドやヨムカも同様だった。


 冷静な態度を崩さず話を聞いていたロノウェが、ここにいる全員が口にしない現実を突きつけた。


「死ね、ということですか。私達はあくまでも捨て駒。敵の兵力を少しでも削ってくれればいいだけの」

「そういうことになるな。よし、今日はこれまでだ。聞いていると思うが、明日からは学院は休みになる。が、学院生は全員集合することになっている。戦争に備えての訓練を行うらしいからな」


 夕日色に染まる部隊控室を一人一人退室していった。


 残ったヴラドとヨムカの二人は繁華街まで共に歩いた。


「先輩、私ちょっと寄る場所があるので」

「お? そうか。あまり暗くなるまでふらつくなよ。明日は九時に部隊控室だ。いいな?」

「はい、お疲れさまでした」


 ヴラドに背を向けて走り出したヨムカは人混みに紛れ、周囲を執拗に確認し路地に入る。


「一応、皆にも報告しておかなきゃ」


 路地を抜け、薄暗く不衛生的な道をどんどん進んでいくと、骸骨の看板をでかでかと飾り立てた店――スカルクラブが現れる。店内はいつもと変わらず安定して酒を飲み、歌い、笑い声によって満たされていた。心の緊張が幾ばくかほぐされていく感覚を心地よく感じてると、ヨムカに気付いた黒死蝶と智天使の若い衆が、ヨムカを自分たちの卓の空いている席に座らせた。


「ボス、何か食いますか? それとも、黒死蝶名物のロックでも?」

「なにが、名物だ。あんな、馬鹿みたいに声張り上げる歌があってたまるか。頭がキンキンするんだ。だよなぁ、ヨムカさん」

「うっせぇ! 智天使には俺達の魂の高鳴りが分かんねぇんだよ。ですよね、ボス?」

「あはは、ど、どうだろうね。でも、お腹は空いたかな」


 黒死蝶の若い人がヨムカにメニューを渡す。


 いつもはスアラやバロックが勝手に作ったものを食べていたので、初めて目にするメニュー表にはいくつもの料理名が記されていた。


「ハンバーグでお願いします」


 ヨムカの注文を聞いた黒死蝶の一人が人の群れを縫って厨房に消えた。


「はぁ、戦争か……」


 この変わらない日常の風景を見ていると、本当にこれから戦争が起こるのだろうかと疑いを持ってしまう。きっと、戦争に負けても彼等は変わらずの生活を送っていくのだろう。国を追放されたらまた次の国へと渡り、独自のコミュニティーを形成する。


「おっ! ヨムカ嬢じゃありやせんか。こんな酒くせぇ席でなにしているんでしょうか?」

「あ、カロトワさん。こんばんは。えっと、お店に入ったらここを案内されて、いまから夕飯を食べようかと」

「そうでしたか。いや、あっしが最初に気付いていれば、こんな野郎の席じゃなくて、もっといい席を案内したんですがねぇ。今からでも遅くはありやせん。どうです? あっちのステージに近い席で……って、おい。テメェ等、なに反抗的な目付きしてやがる! あ? 華を奪うなァ? ヨムカ嬢にこんな席は似つかわしくって……待て待て! なにヨムカ嬢に羽虫みてぇに纏わりついてやがる」

「え、えっと。大丈夫ですよ。カロトワさん、食べたら少しお話があるので、リーさんとバロックさん、それとスアラさんをVIP席に呼び出せる準備をしておいてください」

「へっ、へい! 承知しやした」


 取り敢えず今は食事をしよう。考えるのは後でもいい。むしろ空腹の状態で何かいい案が思い浮かぶとは思えなかった。


 

こんにちは、上月です(*'▽')


次回の投稿は明日か24日を予定しております!

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