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空色の第一部隊隊長

 首都を出て三時間、帝国との国境を帝国兵が躊躇いなく跨ぎ侵攻してきていた。


「あ~あ、来てくれちゃったねぇ、それも小国潰すのに大軍での侵攻かよ。はは、どうやら帝国様は僕達を徹底的に潰すみたいだねぇ。おいヴラド、ちょっと特攻してきたらどうだい? 国家万歳とか叫びながらさぁ」

「あ? 俺が特攻したら敵に警戒されるだろ。そしたら、奇襲作戦が成功しなくなる」

「ちっ、冗談だよ。それくらい分かれクソ馬鹿ヴラドォ!」

「耳元で大声出すな。うっせーぞ」

「ふん! さて、馬鹿ヴラドの相手をするのも飽きたし……僕達は死ぬのかな?」


 ヴラドに向かって言ったわけではない。


 自分の自問するように低くゆっくりと発した言葉は、近くにいた七八部隊と六八部隊が忘れようと必死になっていた現実を思い出させた。


「おい、馬鹿ルロ。ちょっと耳貸せ」

「なんだい? 僕はいま色々と考えていて忙しいんだけど?」

「いいから、貸せよ」


 ヴラドとカルロが自部隊から距離を取り、他部隊から不審な視線を受けているにもかかわらずカルロに耳打ちしていた。


「はぁ!? き、キミは本気で――」

「馬鹿! 声がでかい。いいか……」

「……だね。ああ……しかないか」

「よし……ことで、いくぞ」


 ヨムカは何となくではあるが嫌な予感がした。ヴラドは術式が使えない故に真っ当な手段を用いない。カルロの時の決闘もそうだが、あれは路地裏のチンピラの喧嘩そのものだった。が、その流れるような動きに無駄は無い。効率を重視した最小限の動きと近接慣れした戦闘スタイルは見事の一言。


「先輩、いったい何を悪巧みしているんですか?」

「あ? 悪巧み? まあ、楽しみにしてろよ。俺はお前等を無駄死になんてさせねぇからな」

「まったく……馬鹿ヴラドの癖にこういう事には頭が回るんだもんねぇ。だけど、これは試す価値がありそうだ」


 やれやれといった風ではあるが満更でもないカルロ。六八部隊の面々は互いに顔を見合わせ首を傾げている。もちろん七八部隊のヨムカ達もどうように、その悪巧みの内容を知らされない事へ不信感が募る。


「おい、下位部隊共。さっきからうるさいんだよ。もっと自分たちの役割を自覚しろよな。ったく……これだから荷物共は。部隊全体の士気が下がるだろうが。ただでさえ、七八部隊には『災厄をもたらす者』がいるってのに。そもそも、こんな戦争が起きたのはコイツのせいじゃねぇのか?」

「馬鹿か? コイツがそんな事できるわけないだろ。そもそも、災いを運んだとして、魔術王とか言われてる学院長は成す術が無かった。ヨムカ以下の魔術師だという事になるよな?」

「ぐぐ、ヴラドてめぇ――オゴッ!?」

「ははは、下位部隊下位部隊って僕等に言っているのかい? 荷物? へぇ、そうなんだ。じゃあさぁ、キミ達だけで帝国を相手したら? だって、僕等下位部隊はお荷物なんだよねぇ? そう思うだろぉ、下位部隊諸君?」


 カルロの声に応えて怒声と野次を飛ばす下位部隊の面々。完全に気後れした男はたじろぐ。仲裁に入ったのは眉目麗しい空色の髪を風になびかせる凛とした女性。


「彼の失礼な発言、どうか私に免じて許してくれないだろうか? この通りだ」


 女性は躊躇いなく片膝を突き深く頭を垂れた。


「や、止めてください! 貴女は、我らが魔術学院が誇る第一部隊隊長ですよ? 将来有望な方のすることじゃないです!」

「ここで、部隊の統率を乱すわけにはいかない。私は一人でも多くの者を生かして首都に返したい。もちろん、キミ……ヨムカ・エカルラートさんも含めて」

「えっ、私の名前」

「知っている、キミは有名だからね。だが、私は……そうだな。ぶっちゃけて言えば、神話信仰なんてものを端から信じてはいない。私たち魔術師は、何者にも心揺さぶられる事無く、信じた真理を求めて魔術の研究をするべきだと思っている。キミ達はどうだ?」

「いや、お、俺は……」

「信じていようがいまいが、誰にも責める権利はない。信仰は自由だ。だが、その信仰が他者を排し、追い詰める者であれば、私はそれを全力で否定する」


 神話信仰の否定は自ら形成された人類の枠組みから外れる事を意味している。人々の生活に根強く根底に在る神話信仰を否定したのだ。信仰者からすれば異教徒や異物として見られて当然である。が、ここに居る誰もが彼女の言葉に反論せずにいる。


 沈黙し目を逸らす。


「キミ達も分かっているのではないか? 神話信仰が間違っているというコトくらい。ただ、怖かった。周囲と違う思想を持ったことが露見し、自分も迫害の対象にされることが」


 ヨムカは眼を見開いて、周囲に語り掛ける凛とした姿勢の彼女に釘付けにされていた。こうも堂々と自分の意見を言えて、間違っているものを臆せずに間違っているといえる強さは、そう簡単になせることではない。


「反論は、ないようだね。ならば、私達は神話信仰を否定した同士だ。恥ずかしがる必要も怯える必要もない。いいね? エカルラートさんは私達の仲間で、下位部隊も上位部隊も関係ない。正規軍からしたら、私達は平等にお荷物だよ」


 空色の髪という特異の色を持つ女性はフッと優しく微笑んだ。


「さあ、行こう。隊長と副隊長はこれからの作戦会議をするから集まってくれるかな。その他の者は休憩していて」


 場は収まった。


 彼女の発言と堂々とした態度が、丸く収めてしまった。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は30日を予定しております!

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