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我々は戦場へ

 聴覚は周囲の喧騒を鬱陶しそうに拾っていた。


 次第に覚醒していく意識と共に伴う気怠さ。夕日の瞳が最初に視界に映した光景は真っ白い部屋の天井だった。最初は病院にでも運ばれたのかとも思ったが、薬品の鼻腔を刺激する独特な嫌な臭いがしない。そもそも、病院であったのならば静かなはずだ。


「おっ、ヨムカ。やっと目が覚めた? 隊長、ヨムカが目を覚ましたっすよ!」


 ヨムカの視界一杯に顔を覗き込ませてきたクラッドの爽やかな笑顔。


 顔を傾けると、見慣れた七八部隊の面々がヨムカに駆け寄って来た。七八部隊に交じって魔王であるエリーザ達もいた。


「よ、ヨムカちゃん!! だ、大丈夫なんだよね? ぐ、具合悪くない?」

「あ、うん。大丈夫……少し身体が怠いくらい、かな」


 目元に涙一杯溜めているフリシアを安心させるために、無理やりに笑顔を作って見せる。自分でその笑顔の完成度を確かめられないが、フリシアはそれに満足せず、辛いものを見るような眼差しを向けてきている。


「先輩、いま私ってどんな顔してますか?」

「あ~、そうだなぁ。具合が凄く悪そうだ、青白いぞ。ちなみに、お前が意識を失って二日経ってる」

「……は?」

「二日だ。クク、まったく良い身分だなお前は。国がヤバい状況だってのに」


 ロノウェは「不謹慎ですよ」と可笑しそうに笑うヴラドの脇を小突く。


 いったい何が起こったのだろうか。ヨムカの疑問の念は胸中で肥大していく。ここにいる大切な仲間が無事であればヨムカはそれで良かったが、フリシアとクラッドの表情に影が差したのを、ヨムカは見逃さなかった。


「何があったんですか? 教えてください」


 ヨムカの夕日色の視線は七八部隊の面々を見渡す。


 ヴラドがロノウェに目配せをすると、この場の代表して口を開き、ヨムカの意識を吹き飛ばしてしまいそうな事実を告げた。


「学院長と国王が……亡くなられました」


 亡くなったのは、ちょうどエリーザが異変を感じた時だった。


 いったい、何が起こったのか。これからこの国はどうなってしまうのか。ヨムカの気持ちに整理が付かない状況で、ロノウェは静かに続ける。


「今朝、父上から伝えられたのですが、帝国が我が国に宣戦布告を発したとの事です。国家が混乱し纏まりないこの状況で、です。今は私の父やヴライ公が戦支度を始めているようです。帝国相手に我が国の軍事力はたかが知れています。今まで戦争にならなかったのは、学院長あっての平穏。学院長という強大な力を失った我が国は丸裸の資源国です」

「そ、そんな……つまり、戦争が始まるってことですか?」

「はい……」


 ヨムカは何も考えられないくらいに頭が綺麗さっぱりと白紙になった。


 この国に愛着はない。自分を赤色だと非難して迫害してきた人々が住む街だから。だが、目の前にいる彼等は違う。戦争に巻き込まれれば全員が無事に済むとは考えられない。


 早く逃げなければ。ここに居る全員で戦争になる前に――。


 その考えはヴラドの言葉により切り捨てられる。


「俺達、魔術学院。騎士養成学院の生徒も戦争に強制参加だ」

「えっ……」


 ヨムカの全身の血の気が引いていき体温が下がっていくのをしかと知覚した。自分たちはまだ見習いだ。実戦なんて一度も経験したこともないヒヨッコが戦地で何が出来ようか。軍事力が桁外れで劣っている自分たちに万が一の勝ち目何てある筈もなく、国は自分たちに「死んで来い」と命令を出した。


 ヨムカが初の戦場を目の当たりにするのは一週間後の事だった。

こんにちは、上月です(*'▽')


前回の投稿からだいたい一週間くらいですかね。


さて、次回から『戦争編』です!

魔術学院という魔術師の見習いであるヨムカ達が初めての戦争を経験し、どう生きる為に足掻くのかを書いていきたいと思っています。


次回の投稿は明日か明後日になります。

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