森を抜けた先の魔境
森での襲撃を受けてから周囲に気を張り巡らせ、緊張した雰囲気の中移動が開始されたが、特にこれといって何事も無くクシャルダーナの森を抜けた。
「なんか、森に入る前と後でだいぶ雰囲気が違うんですね」
ヨムカの言葉にクラッドとフリシアはもちろんのことだが、警護する騎士達もその不気味さに表情が固くなっていた。
茫々と草木が生い茂り、地面には石のようなモノが至る箇所でその一部を覗かせ、山々を行きかう鴉達はヨムカ達一行に合わせる様に空を旋回している。そして、何よりその悪環境にしっくりと違和感を感じさせないモノが遠くにそびえ建っている。
「今からあそこに行くんですよね?」
「そうだよ。あそこは色々と良くない噂があってね。あの城には魔性の存在が住んでいて、侵入者を捕食してしまうとかね、まぁ、誰もその存在を見たわけでは無いから所詮は噂話なんだけどね。怖いかい?」
「まぁ……少し」
うすら寒さが背中を撫でる感覚にヨムカは不吉な予感というか直感が警を告げていた。
「クラッドとフリシアも……って、大丈夫?」
振り返れば、ガチガチなぎこちない動きをする二人に苦笑を漏らす。
「そんな化け物がいるわけないじゃん。所詮は噂話だって、それに、何があっても此処にはカルロさんが付いてますし、大丈夫ですよね!」
「おや、僕にだいぶプレッシャーを掛けてくるね。まぁ、何があってもキミ達は優先的に守るから大丈夫だよ」
「ほ……本当に大丈夫ですか?」
「そもそも、あれっすよ。幽霊に術式って効くんっすか!?」
霊体にはたして術式は効果的なのか。それはちょっとヨムカも気になったので、カルロがどのような返答を返すのか耳を傾ける。
「そうだね……試したことはないけど、効果的な術式もあるよ」
その言葉にホッとする二人。
「でも、霊体に効果的な術式は僕の専門外だから使えないんだけどねぇ~」
「「――ッ!?」」
冗談めかしく肩を竦めて答えたカルロに二人は一度安堵した表情が死にそうなものとなる。
「カルロさん、あまり二人を苛めないでください。先輩に言いつけますよ」
「ははは、ごめんね、少々意地悪しすぎちゃったね。さて、あの物々しい雰囲気の城には何が眠っているのかな」
この重苦しい空気の中で、唯一カルロだけは平然としていた。これが、経験という実績によって生まれてくる余裕というモノなのか、とヨムカは感心と心強さを感じ、ヴラドもこれくらい堂々としていてくれればなと心の奥底で溜息を吐く。
「まぁ……先輩は別の意味で堂々としてるんだけどね」
「うん? ヨムカ君、何か言ったかい?」
「いえ、独り言なので気にしないでください」
足場の悪い街道に馬車は揺れに揺れ、前方の方では常にベイリッドの怒声が響いていた。ある意味で彼の大声が気分を紛らわせてくれていた。
「ヨムカ君、これあげる」
唐突にカルロが懐から小さな包みを三つ取り出し、ヨムカに手渡す。
「これは?」
「甘いお菓子だよ。フリシア君とクラッド君にも分けてあげてね」
「すいません、ありがとうございます」
彼の心遣いに本心から感謝して後ろを生ける屍のように歩くクラッドとフリシアに包みを渡した。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回は城の中の探索となり、次々と起こるハプニングにヨムカ達はバラバラになってしまいます。
次の投稿日は明日ですので、よろしくお願いします!




