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筋肉は一日にしてならず

 炎は一帯を包み込んだ。


 だが、カルロや騎士達はその身を炎に焼かれることは無かった。夕日色の炎が幻影だというように晴れれば、クラッドとフリシアが無傷で呆然と突っ立っているカルロ達を目にすると安堵の表情を浮かべてみせると、カルロは何やら難しい表情をしながらクラッドの傍で横たわる少女歩み寄る。


「今の炎は……ヨムカ君の?」

「は、はい。私にはヨムカちゃんの身体から溢れてくるように見えました」

「そうか、僕たちを焼き殺さずに敵だけを限定して焼く炎なんて、僕は聞いたことがないな」


 カルロの言葉を聞き、彼の背後に目を向けると数十人の焼死体が至る場所に転がっていた。


「ヨムカは……大丈夫なんすよね?」

「…………」


 黙するカルロにクラッドは不安な様相で奥歯を噛みしめる様子を横目で確認し、短い呼吸と共に呟く。


「ヨムカ君のこの瞳と髪が関係しているのかもしれない。この娘の色合いは他の……迫害されている者達と少し違うように見える。もし、ヨムカ君が世間一般的に迫害されている者達と別の存在であるなら――」

「今の炎は何なんだ! まさか、この小娘の仕業なのか!?」


 数人の近衛騎士を付き従えさせたベイリッドが大股でズカズカとカルロ達の下に歩み寄り、意識のない少女の顔を見るなり忌々しげに表情を怒りと困惑に歪める。


「ええ、今の炎はヨムカ君の術式でしょう。それが、何か問題でもありますか、ベイリッド殿?」

「こっ、この小娘の炎に私の部下が呑み込まれたんだ!!」

「ですが、僕を含めてけが人は一人たりとも出ておりませんよね? むしろ、敵だけを焼き払う術式……これは、今後の戦闘でこちら側に優位に立てますよ?」

「ぐぐっ……確かにそうだが」


 カルロの反論にベイリッドは返す言葉が無く、溜まった鬱憤を晴らすかのように馬車を蹴り飛ばし、そのまま乗り込み、御者に出立させるよう怒声を振りまく。


 戦いに疲弊した騎士に休息の間を与えず、己の自己中心的判断のせいで、身体を引きずりながらも馬車の周囲を守りつつ、歩を進めていく。


「クラッド君、もうしわけないけど、ヨムカ君を背負ってくれるかい? また、何か奇襲があった時に、出来れば身軽でいたいからね」

「うっす! 任せてください」


 クラッドはヨムカをその大きな背におぶり、カルロとフリシアと共に騎士達に追随する。


「いやぁ、俺の筋肉がようやく役立つ時が来るなんて、俺は今スゲェ歓喜っすよ」

「ははは、それは頼もしいね。でも、クラッド君は魔術師見習いなんだから術式の方も頼れるくらいに成長してくれればフリシア君や他の皆も安心できるんだろうけどね」

「おお! 俺の筋肉と術式の合わせ技……なんか、スゲェ事になりそうっすね!」

「えっと、クラッド君は……その、強化術式とかがいいんじゃないかな?」


 控え目なフリシアの提案にクラッドはゆっくり首を振るう。


「それじゃ、駄目なんだぜ。本当の筋肉愛好家はそんな違法ドーピングは死んでもやっちゃいけないんだ」

「へぇ、クラッド君は自分の筋肉に拘りがあるんだね」

「そりゃあ、そうっすよ。だって、筋肉とは一日にしてならずって言うじゃないっすか」

「僕は聞いたことないけどなぁ、フリシア君は?」

「聞いたことありません」


 キッパリと言い放つ。


「え~、言うじゃん! 筋肉は一日にしてならずって、ホラ!」


 クラッドが学院制服の上着の内側から何やら一冊の小さな文庫本を二人に見せつける。


「これって……」

「…………」


 その書物の著者に視線が注がれる。


 著者――ヴライ・カッセナール。


 それは、貴族達を統べるこの国最大の権力を有する大貴族カッセナール家当主の名であり、ヨムカ達が所属する魔術強襲第七八部隊隊長であるヴラドの父親だった。

こんばんは、上月です(*'▽')


今回は筋肉のお話が色濃くなってしまいました(^-^;

次回の投稿は2月18日の土曜日を予定しています

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