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宝の眠る古城に住む捕食者

 中は埃臭く、薄暗かった。


 全く手入れのされていない城内は、扉を開けると床に溜まっていた埃が宙を舞い、エントランスホールの中央にぶら下がるシャンデリアには雲の糸が張り巡らされている。


 薄白くなっている赤いカーペットに足跡を作りながら中央部まで進んだところで、隊列が歩を止めた。


「ふん、汚い場所だな。よし、諸君、ワシの為に宝を探すんだ!」


 ベイリッドの号令で近衛騎士は主人から離れすぎない場所を探索し始めるが、それを良しとしないベイリッドがこめかみに青筋を立てながらまた喚き散らす。


「貴様等は無能か!? ワシは建物内の隅々まで探せと言ったんだぞ! そんなペースでこの城全体を探しきるまでにどれくらい時間がかかると思っているッ!」

「で……ですが、警護のほうが」

「ふん! 本気で化け物がいるなんて思っているのか? それに、身辺警護ならここにいるシュタンベルク家のカルロ君とその部下が付いているからなにも問題はない」


 近衛騎士達の視線は一度カルロ達に集まり、そして互いを確認し合うように目配せしては頷き、数組の部隊に別れ、いそいそと城内を探索し始めた。


 残されたベイリッドと魔術学院生であるヨムカ達は特に何かをするでもなく、形だけの警戒を敷きつつも休息していた。


「カルロ君、キミの御家とは長い付き合いだな」

「ええ、そうですね。我がシュタンベルク家が今もこうして在り続けられるのも、ベイリッド卿のお陰です」

「はっはっは、御父上は良い教育をされていますな。これからも、末永く手を取り合っていいきたい、とお伝えください」

「はい、父もきっとお喜びになると思います」


 そんな貴族たちの社交辞令を遠巻きに聞いていたヨムカは、自分たちの隊長もあんな風に他の貴族と会話をするのだろうか、と疑問に思っていると――。


「ぎゃああああああああああ!!」


 城内に響き渡る生々しくも恐怖に彩られた絶叫がヨムカ達の耳を突き抜けた。


「なっ、何事だ!?」

「ヨムカ君、フリシア君、クラッド君!」


 三人はカルロに呼ばれベイリッドの傍で全方位を確認できるよう互いに背中を向け、警戒を敷く。


「…………」


 不気味な静寂がしばらく続き、変な緊張感が身体に纏わりつく。


「今のは、何なんだよぉ」

「クラッド、情けない声出さないで」


 先程の絶叫は階段から落ちたとか、そんな生易しいものではなかった。まるで、世にも恐ろしいものを目にし、己の命がその脅威に刈り取られる寸前の魂の叫び。


 カルロは、チラリとベイリッド、フリシア、クラッドに視線を向け考える。


「……ヨムカ君」

「……はい、なんですか?」

「正直、言わせてもらうけど。いま、僕を除いてまともに身体を動かせそうなのはキミくらいだ。僕が少し声のした方の様子を見てくる。その間、彼らを任せても?」


 ヨムカは重々しく頷く。


「大丈夫、直ぐに戻るから」

「あの……」

「うん、なんだい?」

「どんな臭いがしますか?」

「…………」


 ヨムカは先程の奇襲時にカルロは風の情報を頼りに周囲の状況を判断できるコトを知っている。だから、今どのような臭いがするのか聞いたのだ。


 カルロは一度瞳を伏せ、静かに答える。


 変な希望を抱かせて命を落とさぬように。


「血の臭いだよ。それもだんだんと〝濃くなって″いる」

「ッ……!」


 その意味を理解するのは容易だった。


「……わかりました」

「じゃあ、頼むね。何かあったら叫ぶんだよ。いいね?」


 最後にカルロは「大丈夫だから」と微笑み、正面にある鉄製の扉の奥に消えてしまった。

 

 その背を見送ったヨムカは魔力を身体中に巡らせ、いつでも動きがとれるようにフリシアとクラッドと共に、今まで以上の警戒でベイリッドの警護にあたる。


「だ、大丈夫なんだろうな!」


 部下を怒鳴りつけていた威勢は何処へいってしまったのか、異常なまでに周囲を気にして身を縮こませるベイリッドの声は、小さく震えていた。


「だ、大丈夫っすよ……多分」

「多分……だと!? 貴様等、分かっているな。もし、ワシを守れなければ――」

「あー、分かってますので、静かにしていてください。気が散ります」


 耳障りな権威による高慢と自己中心で塗り固められた言葉は聞くに堪えない、とヨムカは貴族が相手であろうが構わず、鬱陶しそうに遮る。


「災いを呼ぶ忌み子風情がッ!! そもそも、この不運も貴様が呼んだのではないのか! ああ? どうなんだね」

「はぁ……」


 もはや、溜息も自然と吐いてしまう。


「本気で私が災いとか不運を呼ぶと思っているんですか? 思っているのでしたら、一回その脳を調べてもらった方がいいんじゃないですか?」

「貴様ァ、国に帰ったら――ッ!?」


 ベイリッドの顔色が怒りに赤く染まると同時に、隅にある扉の一つが破裂し、数人の――いや、人間であったモノの断片がエントランスホールに吐き出される。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 フリシアは両手で頭を抱えてその場でしゃがみ込むが、意外にもクラッドがその腕を取り強引に立ち上がらせる。


「フ、フリシアは、お、俺の背後に隠れてろぉう」


 声と足が情けなく震えていた。


「クラッドはフリシアとその貴族と共に下がって!」

「お、おう」


 扉の奥から細く、針のような毛に覆われたものが一本、また一本とエントランスホールに伸びては慎重に周囲を探るようにその細い日本の触角状のものが揺れる。


「なに……あれ」


 ヨムカが生唾を飲み干すと、ソレはゆっくりと全貌を現す。


 その触角状のモノは全部で八本あり、その付け根部分には毒々しい黒と黄色で風船のように膨らんだ袋が二つ連なり、見るモノ全てを総毛だたせてしまう姿はまるで蜘蛛。

こんばんは、上月です(*'▽')


書き直しました(*'▽')

次話は21時頃に投稿したいと思います!

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