第6話「垢バレ」
とある日。
いつものように莉央と軽く話した後、部屋にこもってXを見る。
俺のタイムラインはいつものように荒れに荒れまくっていた。
見るだけにするつもりだった。
うさぎ(本音で行きます)『社会人で実家暮らしの男、普通に無理すぎる』
きなこ@婚活『わかる。自立してない男はモテないって気づかないのかな?まずその自意識の時点でナシ』
うわ出た、聞いてもないのに勝手に男の品定めしてくるやつ。そこから繋がる人格否定まで含めてあまりにも完成されている。
婚活界隈ってモテるモテないの話ばっかりしてるな…まったく人間の価値を全部恋愛に変換しないと気が済まないのか。
こんなものはスルーするに限るな。
…
カタカタカタ
『今の時代、女にモテなくても人生普通に楽しめるからな。男の価値をモテるモテないでしか測れないの可哀想すぎるだろ』
送信。
…ついやってしまった。まあいいや誰がみているわけでもなかろう。
ピロン
『今日も頑張っているところをみてるよ!』
やさしい応援アカだ。今日も見てくれているらしい。
俺は通知をもう一度開いて、短い文章を読み返した。
他人の応援というのは、簡単なものでも力になるものだ。
ある日いつものように話していると、莉央が突然聞いてきた。
「ねえ、やっぱり爆美女にモテたいの?」
「ちがっ…」
反射的に否定しようとしたがやめた。こいつにはもうバレてるんだ。俺は諦めたようにはぁとため息をつく。
「まあモテたら嬉しいと思うよね」
莉央は「ふーん」というように目を細めてじっと俺を見つめた。
「『女にモテなくても今の時代楽しめるからな〜』って言ってたのに?」
?
なんだそれ?莉央にそんなこと言ったっけ?
でもなんだろう、どこかで言った記憶はあるような…
「ね『孤高@考察垢』さん?」
!?
そうだ完全に思い出した。それは確かにこの間俺がXで言っていた言葉だ。
一瞬言い訳をしようとした。
『そのアカウントは俺じゃない』『そんなこと言っていない』
違うそうじゃない。
そもそも何でこの子はそれが俺のアカウントだと気づいたんだ?どこかで見られたのか?この間家に来た時に?
いやあの時に俺のスマホを見る余裕はなかったはず。
ではどうして?
莉央は何も言わず俺の顔をじっと見ていた。
俺が何か言い返すより先に、口元が緩んでいく。
「あっ、やっぱりそうだったんだ〜w」
しまった、俺の反応をみて気づかれてしまったか。
「なんで…?」
どうして俺のアカウントを知っていたのか。それだけはどうしても知りたかった。
莉央はいつも通りのいじわるな顔をして答えた。
「おしえな〜い♡」
あの後莉央にいろいろ問い詰めたが、かわされてしまった。
1つ確定しているのは、彼女が俺のアカウントを知っているということだ。
信じられないことだが…
…まてよ、まずいことに気づいたかもしれない。
あの子は俺のアカウントを知っている、しかも黒歴史ノートも知っている。もし俺が何かしらで彼女の機嫌を損ねた場合…
俺の黒歴史が一生ネットの宝物になってしまう可能性もある。
『女にモテなくても今の時代楽しめるからな〜』
『「爆美女にモテモテで困っている」のを目標にしてるのにですか?(画像付き引用RT)』
『これは恥ずかしいw』
『モテなすぎて拗らせとるやん』
『惨めすぎるだろwww』
『涼しい目さんきたあああああああああ』
だめだこんなことは許されてはならない。
いっそアカウントを消してしまうか?
…
いや、それだけはダメだ。10年かけて考察とレスバを繰り返して育て上げたアカウントだ。手放すのは我が子を見放すのと変わらない。
となればあまり莉央を刺激しないようにしよう…
どうやら俺の平穏なSNSライフは、一人の女子中学生の機嫌に委ねられてしまったらしい。




