9話 からくりロボ その1
朝、目が覚めて起きようと体に力を入れた瞬間
「イテテテッ!、痛い、痛い!」
思わずベッドの上で叫んでしまった。全身の筋肉が、悲鳴を上げるように激しく痛む。昨日、ダンジョン攻略で慣れない動きをした代償だ。
なんとか壁に手を突き、リビングまでたどり着くと、そこでは既にミイがエプロン姿で朝食の準備をしてくれていた。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
「おはよう、ミイ。ぐっすり眠れたよ。昨日はベッドに入った瞬間に落ちちゃったからね。……でも、見ての通り全身が筋肉痛でバキバキだよ」
「ふふっ、昨日は本当に頑張っていらっしゃいましたからね。さあ、温かい朝食ができていますよ。召し上がってください」
「ありがとう、助かるよ。それじゃ、いただきます」
焼きたてのパンとスープを口へ運び、ホッと一息ついていると、ミイがどこか少し不安そうな探るような瞳で見つめて問いかけてきた。
「……トーヤさん。この世界に転移してきて……どうですか?」
「ん? どうって?」
「その……元いた世界と違って、不便なことも多いですし、命の危険もありますから……」
「ああ、そういうことか。うーん……まだ転移してきて数週間だけど、正直、前の世界にいた時よりはずっといいかな。何より『器用さ』のスキルのおかげで、手が思い通りに動くのが嬉しいんだよね。大学生の頃、不器用なのを克服しようとして色々と迷走してたんだけど全然駄目だった」
そう、色々やった。飲食店では、皿を割ったり、料理を焦がしてクビになり、工場では軽作業をすれば不良品を作ってしまい、またクビになった。自分なり頑張ろうと料理本や理工学系の本やネットで勉強し知識は頭に詰め込んだものの肝心の手先が全くついてこなかったのだ。唯一何故か動物には昔から好かれペットショップのバイトだけは長く続けられた。
「嫌な上司もいなし、ミイがいるから1人じゃないしね。メリッサさんやモーリーさんはいい人だし。好きだよ、この世界。魔獣はめちゃくちゃおっかないけどね」
「……!それなら良かったです」
俺の言葉を聞いて、ミイは心底ホッとしたように胸をなでおろし、パッと花が咲くような明るい笑顔を見せた
「今日はどうしますか?」
「身体中バキバキだから今日は工房に籠もって作業する。ミイはゆっくり休んでていいからね」
「ポーション作りですか?手伝いますよ」
「んー、ポーション作りもするんだけどさ、実はちょっと他に作りたい物があるんだよね」
「作りたい物……ですか?」
「へへへっ、それは完成してからのお楽しみ。後でミイにも手伝ってもらうからね!」
まるで悪知恵を働かせた子供のようなニヤリ顔を浮かべながら、一気に朝食を平らげ、意気揚々と工房へと向かったのだった。
◇
工房の机に昨日ダンジョンで回収してきた、機械兵と死闘の末に壊れたパンドラ・ボックスのパーツを並べる。
機械兵は2体分持ち帰ってきたが、どちらも損傷がかなり激しい。パーツを吟味した結果、組み合わせて1体分を作るのが限界そうだ。
よく見ると構造上、手と足がそれぞれ4本ずつ取り付けられるようになっている。手が4本もあるなんて、作業用としては最高に便利じゃないか!
(よし、元の世界の理工学書で読んだ関節構造を応用して……ここをこうハメ込んで、使えそうなギアとフレームを入れ替えて……っと)
『器用さ』のスキルの力で、頭の中に描いた設計図通りに手がすいすいと動き、繊細なパーツが次々と噛み合っていく。不要な武器パーツを削ぎ落とし、自立できるように全体の重心とバランスを整えれば――。
「よしっ、こっちは完成!
パンドラ・ボックスはかなり傷んでいる。魔法をあれだけ撃ち込んだからしかたない。実物よりひと回り小さくなりそうだが全然問題無い。蝶番を取り付けて蓋が開閉できるように補強する。なんとか見た目はただの無骨な宝箱型に戻せそうだ。
(……でもな、ただの箱に戻すだけじゃ面白くないよなぁ……)
俺はニヤリと口角を上げると、余っていた機械兵のパーツへ手を伸ばした。パンドラ・ボックスの側面に加工を施し、機械兵の腕を2本、そして安定して歩行できるように脚を4本取り付けていく。
「ふふふ……こっちも完成だ!」
◇
トーヤが工房に籠もっている間、ミイはミルクティを飲みながら、考え事をしていた。
(……トーヤさんの戦闘センスは、これからもっと飛躍的に伸びそうですね。剣術も魔法も、もう少し基本のコツさえ掴んでしまえば、A級冒険者くらいならすぐに届いてしまいそうです)
ミイは真剣な表情で羊皮紙のノートを開き、羽ペンを走らせて今後の『トーヤさんスパルタ特訓プラン』を書き込んでいく。
「…それにしても、かれこれ、3時間くらい経ちますね。トーヤさんは何をしてるのでしょうか」
( まさか、あの拾った機械兵達を…、あの顔付きは怪しいですね。 ちょっと様子を見に行きましょう。)
ミイはノートを閉じると、静かな足取りで工房へと向かった。
◇
ミイが工房のドアノブに手をかけ、中に入ろうとしたまさにその瞬間――。
「よし! こっちも完成!!」
部屋の中から、トーヤの嬉しそうな大声が響いてきた。
「…いったい、何が出来たのですか?」
「あ!ミイ丁度良かった。たった今完成したよ。見て見て!」
トーヤが誇らしげに指差したのは、机の上に鎮座する二つの奇妙な物体だった。
「これは機械兵をベースに作った、ロボ1号!!、名前は『一太郎』!」
全長70センチほどの金属の躯体に、無骨な4本の腕と、カマキリのように折れ曲がった4本の脚が生えている。
「一太郎ですか…(ネーミングセンスはありませんね)」
「こっちはパンドラ・ボックスの改造版で荷物持ちのハコぞう!」
こちらは柴犬くらいの小柄な木製の宝箱だが、横からひょろりと2本の腕が生えており、下からは器用に地面を踏みしめる4本の脚が生えていた。
「ハコぞう…(こっちもネーミングセンス無しですね。で、これをどうするのですか?」
「前にミイが『街の風車なんかは、魔石に魔力を注ぎ込んで動かしている』って言ってたよね?」
「ええ、言いましたよ。魔石は適した術式さえ組めば、動力を生み出す魔力炉になりますから。……って、まさか!」
「へへっ、そのまさかだよ! この子たちの内部に魔石を組み込んで、動かそうと思ってね。だからミイ、魔力を注入して起動させるのを手伝ってほしいんだ!」
「…動かして何をさせるのですか?内容によっては流石に協力出来ませんよ」
「大丈夫。人を襲わせないよ。一太郎は工房でポーション作りを、ハコぞうは荷物持ちだよ。ダンジョンで得た素材を入れるんだ」
ミイは拍子抜けしたように息を吐き、困ったように眉を下げてクスッと笑った。
「それなら……とっても役に立ちそうですね。ふふっ、もう、変なものを作って暴走させるのかと思ってハラハラさせないでくださいよ、トーヤさん」
読んでいただきありがとうございました!
次回投稿 11/5 7時 予定
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