3話 借りるだけですよ
◇1時間前
賑やかなギルドの隅で、ミイは壁に背を預けながら静かにトーヤの帰りを待っていた。
「おいおいねーちゃん、一人か? 暇なら俺たちと美味い酒でも飲みに行こうぜ」
振り返ると、探索者風の30代の男が二人立っていた。ミイは鬱陶しそうにゆっくりと振り返る。だが次の瞬間、彼女の視線は男のひとりが腰に下げている武骨な剣へと吸い寄せられた。その刀身から漂う微かな魔力の波動を、ミイの鋭い感覚は見逃さなかった。
「ねーちゃん、この剣が気になるか?こいつはあの【岬の迷宮】の35層の宝箱から持ち帰ったはかりの【疾風の剣】だ。俺達は伊達にB級探索者をやってねえんだぜ」
「まあ、素敵ですね。ええ、いいですよ。ぜひお食事に付き合わさせてくださいな。とってもいいお店を知っていますので、そこへお連れしますわ」
「へへっ、話が早くて助かるぜ、ねーちゃん!」
男たちは完全にミイを「自分たちのカモ」だと信じ込み、鼻の下を伸ばしながら後をついてくる。ミイはギルドを出て、賑やかな大通りから外れた、人通りの途絶えた薄暗い路地裏へと男たちを滑らかに誘導していった。
静まり返った行き止まりの路地に入ると、さすがに不審に思った男が足を止め、苛立ちを隠さずに怒鳴り散らした。
「おいこら女! こんなジメジメした汚い場所に店なんてあるわけねえだろ! 俺たちをバカにしてんのか!?」
詰め寄ってくる男に対し、ミイは身軽にスッとステップを踏んで距離を取ると、その唇に冷ややかな笑みを浮かべた。
「土の壁!!」
――ドドドドッ!!
突如として重厚な地鳴りが轟き、男たちの背後――路地の唯一の出口である地面から、頑丈な土の壁が一直線に突き上がり、逃げ道を完全に塞ぎ込んだ。
狼狽する男たちを余所に、ミイは胸元から一枚のプレートを取り出し、すっと提示してみせた。そこに刻まれたギルドカードの色は――最高峰を示す「金色」だ。
「その腰の【疾風の剣】、私に貸していただけませんか?」
「はあ!? なんでお前なんかに、俺たちが命がけで手に入れたお宝を貸さなきゃいけねえんだよ!」
「我が主(トーヤ様)のためです。……言わなくてもお解りでしょう? B級程度の探索者が、S級冒険者に敵う道理がないことくらい」
「っ……! このクソアマ、調子に乗りやがって! おい、こっちは二人だ! 構うことねえ、手加減なしで痛い目見せて分からせてやれ!」
「おうよ! 泣いて謝っても遅えぞ!」
痺れを切らしたもう一人の男が腰から不気味に光るナイフを抜き放ち、狂暴な叫び声を上げてミイの喉元へ襲いかかった!
「遅いです」
ミイは冷ややかに言い放つと、まるで羽毛のように軽く一歩だけ後ろへ下がって間合いを外した。
それと同時に、男の頭上に黄金色に輝く魔法陣が瞬時に展開する。
「天の雷!」
――ドカーーーン!!
狭い路地裏に鼓膜を刺すような爆音と眩い閃光が炸裂した。ミイが手加減して落とした落雷は男の目の前に落ち、衝撃波となって男の全身を激しく打ち据える。
「ぐぁあああっ!!」
ナイフを持っていた男は、悲鳴を残してそのまま崩れ落ち、白目を剥いてその場でぴくりとも動かなくなった。「ぐぁ!!」
(な……なんだよこの女……めちゃくちゃ強すぎるだろ……!? 一瞬で魔法陣を出して落雷だと!? 俺たちが一体何をしたっていうんだよ……!)
相棒が一瞬で沈められた光景を目の当たりにし、残された【疾風の剣】の男はガタガタと膝を震わせ、顔面を蒼白に染めていた。
ミイはゆっくりと彼へ向かって歩みを進める。
「さぁ、どうしますか?まだ闘いますか?」
「わ、分かった! 分かったから許してくれ! この剣を渡す! お前の好きに使え!」
「ふふ、誤解なさらないでください。奪うのではなく『借りる』だけですよ。私の主が充分に成長されましたら、ちゃんとお返しいたします。……それと、この件はくれぐれも大事になさらないよう、お願い申し上げますね?」
ミイは笑顔で話しているが、その目は獲物を捉えた鋭い魔獣の目をしていた。
「わかったから……、早く解放してくれ」
男は【疾風の剣】をミイに向かって投げた。
ミイは剣を拾いあげ、出口を塞いでいた土の壁を無くした。
「では、いずれまたお会いしましょう。ご安心ください、お友達は少し気絶しているだけですので」
ミイは満足そうに微笑むと、剣を抱えて優然とした足取りでギルドの方向へと歩き去っていった。
後に残された男は、そのまま腰を抜かして地面にへたり込み、去っていくミイの後ろ姿を絶望と恐怖に満ちた目で見つめることしかできなかった――。
◇現在
「あれ、ミイがいない。何処にいったんだ?」
すると路地からミイが歩いて来た。
「ごめんミイ、待たせたね。何処行ってたの?」
「トーヤさんこれを【疾風の剣】です。親切な探索者さんが貸してくれましたの」
「へ〜、そんな親切な人がいるんだな。ギルドから初心者用万能ナイフを貰ったけど、こっちの方がかっこいいね」
剣を受け取り背中に担いた。
「ん、何かあっちの路地が騒がしいね。何かあったのかな?」
「さぁ?、物騒ですね。トーヤさんまずは宿屋に行きましょう」
ミイに催促されて宿屋に向かう。
宿屋に着きミイがチェックインの手続きをしてくれた。部屋に入り剣やナイフを置き椅子に座る。そんなに狭くも無くベットもふかふかで悪くない部屋だ。すると、ミイから今後の事を提案された。
「トーヤさん、この部屋を10日間借りてます。まずはこの世界に慣れましょう。少しずつお金を稼ぎ何処かに拠点を構えましょう」
「この世界もお金を稼ぐのか。ギルドのメリッサさんが親切に教えてくれたから調達や素材集めるから始めるかな。指南書貰ったから剣や魔法も使える様になりたいしな」
「トーヤさん、この世界の事を話しますね。町から出ると普通に魔物がいますので気をつけてください。夜は特に魔物が増えます。魔物を倒すと魔石と呼ばれる魔物のコアが手に入ります。これを集めてギルドに持って行けば買い取って貰えますよ」
「魔石か、買い取って何にするの?」
「はい、魔石は魔力を送り込む事ができます。風車を動かしたりランプの燃料になったり生活の必需品なんです。だからより強力な魔獣を倒し質の良い魔石を沢山納品すればギルドのランクも上がりますよ」
「なるほど、今の自分の能力がわからないからまずは調合納品からだね。少しずつ弱い魔獣から倒していくか」
「そうですね。【ポーションの調合】の仕事から行いましょう」
「それはそうと、ミイはこの世界に詳しいね」
「あっ、はい、実は前にこの世界にいました。ひょんな事からトーヤさんがいた世界に猫として転生したんです。またこうやってトーヤさんと一緒にいれて良かったです」
「へぇ~、俺はもうあの世界には戻りたくないな」
「あの……トーヤさんお願いがあります。猫の時にして頂いた様に頭を撫でて貰えますか…」
ミイが上目遣いで見つめてくる。俺はドキッとしたが優しくミイの頭を撫でる。前世で猫のミイを膝に乗せ撫でいる時間は一番幸せだった。あの時は精神的に限界だった。ミイに出会えて本当に良かった、ありがとうミイ。
ミイも目を瞑り嬉しそうにしている。この世界で生まれ変わって生きていこう。
この後、夜になるまでミイと雑談をし、明日に備え眠りについた。
読んでいただきありがとうございました!
次回投稿 11/1 19時 予定です
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