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9 人の行く裏に道在り


「何を持ってるの?」

「今はMVDA、NU、APDですかね」


「プライムにあったかな? それともグロースか」

「違いますよ。ナスダックですよ」


「ああ、アメリカね」

「そうです」


「手数料が高いでしょ?」

「そうですね。国内と比較すると高いですが、その分キャピタルゲインが凄いですよ」


「そうなの?」

 食い付いて来たよ、この人。

「川村さんは何%で回ってます?」


「私かい? 配当は別にして1割かな? 君は?」

 そうでしょ、そうでしょとも。ここは正直に話して反応を見てみるか? それとも、今後の付き合いを考えて適当に応えるか?

「野球と同じですね」


「野球?」

 川村が怪訝な顔をした。そして何拍か置いて、相好が崩れた。

「面白い事言うね、田中君。3割打者と言う事か」


「はい。そもそもが、ナスダック100のETFなんか、年平均10%以上で回ってますからね。個別をやらなくても、それ位は期待できますから安心ですよ」

「随分運用が良いんだね」


「日本と違い、パイが大きくなってますから」

「そうだよね。日本は市場が大きくならないからね」


「経済の拡大は人口の拡大ですよ。プラザ合意の頃、アメリカの人口は日本の大体、倍位だったでしょう。それが今では3倍以上ですよ。その差ですね」

「納得だね」


「何処の証券会社を使ってるの?」

「ネット証券です」


「そうなんだ・・・ 田中君」

 何かを訴えるような眼で俺の名前を呼んだので、反射的に返事をしてしまった。

「何でしょうか?」


「随分詳しいんだね。私の資産も見てくれないかい。アドバイザーとして」

「『アドバイザー』って、何ですか?」


「資産運用だよ。私も長年、株をやって来たんだけど、1割が良い所なんだな。君の話しを聞いて、私もアメリカ市場に興味を覚えてね。そこで運用してみようかと思うんだけど、どうかね?」

「そりゃ、アドバイス位なら、何でもありませんけど。これ仕事ですか?」


「いや、事務所とは一切係わりのない感じで。君と私個人の関係でどうかね」

 俺は頭の中で直ぐに算盤を弾いた。事務所の仕事じゃないのなら、俺の内職。アドバイザリー契約をすると投資顧問業になるから、資格のない俺はモグリになる。脱法行為はできないから、どうやって金にしようか?


 色々考えてみたけれど、上手い方法が見つけられない。どうしようかと思いあぐねていると、川村の携帯が鳴り、川村は着信画面を見ながら、和室から出て行った。程なくして戻って来たので、忙しいなら午後に打ち合わせする旨の話しをしたら、「大丈夫だ」と言うので仕方なく適当に話しを続ける。


「川村さんは何処の会社を使っているんですか?」

「私かい? 奈良証券だけど」


 奈良証券か・・・ あそこは確か、ネット証券を設立したんだよな・・・ 名前は、ええっと何だっけ? ・・・・・・・ コンセント証券だったか?


「川村さん。私と法務顧問契約をしてもらえませんか?」

「『法務顧問?』」


「はい。川村さんのご商売に対する法的事務のアドバイスです。“非弁行為は弁護士資格を持っている者しか行ってはいけない”と定められていますから、私には出来ません。しかし、法律に基づく申請事務ならOK。ですので、事務のアドバイスですね。これを事務所々属の私個人と結んでもらう訳です。これなら適法とは断言しませんが、越法行為ではありませんから多分大丈夫。まあ、川村さんには迷惑を掛けませんから」

「大丈夫なんですか?」


「だと思います」

「頼りにならないなあ」


「まあ、良いじゃないですか。損にはならないでしょ?」

「まあ」


 まとめるとこうだ。川村が行政書士事務所の俺と法務顧問契約を結ぶ。俺は必要に応じて、彼の投資行為へのアドバイスと言う法務事務助言をする。この部分は契約書には法務助言と記載する。そしてコンセント証券口座開設を川村の代理として申請し、外国口座を開設。そうしてナスダックへ投資する。


 ここで、何故奈良証券口座を持っているのにネット証券口座を開設するのか、疑問に思う諸兄もいるでしょう。答えは手数料が安い、又は無料。ここが大切なんだ。経費が掛からないとゴー・バックの自由が桁違いなんだよ。

株価が上昇している局面では良いが、下落局面では中々損切り出来ないのが人の業なんだよね。1円でも良いから高く売りたいのが人間なんだな。そこでもたつくと乗換えが出来ず、塩漬け状態が延々と続くんだよ。所謂“利益機会の損失”と言うやつだね。これ、俺の経験から話してます。

 こうすれば塩漬け株を持つ事もなく、挽回のチャンスを得られるという訳だ。後は俺の投資方法を伝授して終わり。その対価として、俺の口座に顧問料を振り込んでもらう。金額はキャピタルゲインの10%を株売却後に、含み益の3%は年度末に。かなり良心的な料率だと思うけど。

 俺の投資方法は? それはこの紙面ではご勘弁。ヒントとして「中国4千年の技法を応用しています」としか言えません。どうしても知りたい御仁は・・・ どうしようかな?



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