10 色即是空
「田中君」
川村が俺の名前を呼ぶと、どうも反応するようになってしまう。
「何でしょうか」
「仕事終わった後、時間ある?」
「今の話しの続きですか?」
「違う、違う」
そう言いながら、川村は右手を自分の顔の前で横に振り、次いで小指を突き出した。
「さっきの電話、これからなんだよ」
「はあ。中々ご活躍で」
「いやなにね、店を変わったらしいんだよ。それで『来てくれ』って頼まれてさ」
「そうなんですか」
「どう?」
俺はセレの顔が真っ先に浮かんだ。特段後ろめたい行為はしていないから、OKしても良いんだけど・・・ この前みたいに機嫌が悪いと、俺の懐を直撃するからな・・・ どうすべきか悩んでいると。
「大丈夫だよ。会計は私が持つから」
「了解しました」
それならそうと、早く言ってよ・・・ 俺は快く彼の申し出を受けた。
「じゃあ、仕事が終わったら私の家に来てね。案内するから」
「よろしくお願いします」
俺はそのまま川村の自宅を退去して事務所に戻り、18時まで彼の申請準備を進めた。退所時間になり、俺は事務所を出てタクシーを捕まえて、川村の自宅へ向かう。自宅では川村が愛車のジープ、ラングラーの中で待っていた。
「車で行くんですか?」
「そうだよ。ネズニ―ランドの近くにあるのよ」
「帰りは?」
「大丈夫。代行で帰るから」
「安心しました」
「飲酒で車の運転はしないよ。これでも優良ドライバーなんだよ」
彼が上着のポケットから運転免許証を取り出して、見せようとしたのを俺は制した。
「よろしくお願いします」
川村は俺をジープに同乗させると西に向かった。
ジープは南○○駅のロータリーを過ぎた先にある雑居ビルの前で止まった。ネオン輝く看板が幾つもあり、さながら飲食店ビルのようだ。川村は俺をビルの前で降ろし、コインパーキングに車を停めて戻って来た。時間は19時前。
「さあ行きましょう」
川村は雑居ビルのエレベーターに乗り、3階のボタンを押した。俺は黙って従った。だって初めてだし、勝手が分からなかったからね。それに奢ってもらうんだから、大人しく。
エレベーターを降りると、“アンシャンテ”と書かれたプレートの店に入った。
「いらっしゃいませ」店員が元気に、それでいて五月蠅くない音量で迎えた。
「つやちゃん頼むね」
直ぐに川村が「つやちゃん」と呼んだ女性が来て、ボックス席に案内された。
「嬉しいわ、川ちゃん。直ぐ来てくれたのね」
「つやちゃんの為だもん」
傍で聞いていると、歯の浮くようなお世辞の連発で場が落ち付き、川村は俺を彼女に紹介してくれた。彼はこういうタイプの女性が好みなんだ・・・
つやはムッチリした肢体をドレスに包み、その豊満な胸を強調していた。俺の感想、美味しそう・・・
どうやら、俺のつやを見る目付きが気になったのか、川村が冗談とも付かない言葉を俺に投げかけた。
「良い子だろ? 私専用だからね」
「何言っているのかしら、川ちゃんは」
俺に微笑みながら、彼女はそって右手を川村の膝の上に置いた。
「何にします?」
「取り敢えずビール」
「お願いします」
つやが左手を上げてスタッフを呼び、注文を伝える。
その夜はつや以外にも女性が俺に付き、気持ちよく酔えたのは事実です。綺麗な女性と飲むお酒は美味い。
21時前に川村が「帰るから代行業者を呼んでくれ」とつやに伝えて、トイレに行った。彼女が代行に電話し終え俺の傍に来て、耳元で。
「今度は一人で来てね。待っているわ」
その一言で俺は天にも昇るかの高揚感に包まれた。こんな美人が・・・




