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11 下僕


 夫婦喧嘩から数日経った土曜日、俺達は日本橋のデパートにてショッピング。

 本来だったら新橋か川口に行く予定だったんだけど、彼女との綱引きに負けて、このような様(ざま)になってしまった。悔しくて堪らないんだけど、それを言い出すと彼女の方がもっと怒るだろう事が予想できるんで・・・

 彼女何をどれ位、如何程の品物を購入するのか俺には教えてくれなかったんで、財布の中身が心許ない事もあり、クレジットカードも用意した。


 言いたかないけど、生活費は俺が負担してるんだよ。初めは彼女の給与が低かったから良いんだけど、今じゃ俺よりも高給取りだから。それなのに「生活費を入れようか」なんて一言も言われた事ないし、マンションの家賃も出そうとしないんだよ。全部俺持ち、どう思う?


 そんな事を思い出しながら、俺達はデパートを廻る。大きいサイズが揃っていると言うんで、17号以上のサイズを展示しているフロアで買い物。セレの後ろを“金魚のフン”よろしく追随。

 サイズ的には、21号らしきものを手に取り色々見比べている。そこがはっきりしないのは、俺に彼女が自分のサイズを教えてくれないから。だから推定だよ。


 何で女性は自分の買い物の時は、時間が掛かるの? モンマルトルの“タチ”で俺の買い物をしていた時は、ちゃっちゃと済ませてた感じだったんだけど、今日は長いわ。

 スカート、スラックス、ブラウス、Tシャツ等々。3点位持って試着室に入り試着。出て来ると、別の色違いを持って再度試着。それの繰り返し。


「ねえ、どの色が似合う?」

「それで良いんじゃない」


「良く見てよ」

「白が似合うんじゃない」


「そうかな?」

「それにしなよ」


「でもね・・・」

 セレが黒と白とブルーのTシャツを見比べて、俺に意見を求めてきた時、俺は適当に応えてたんだけど、中々決断しないんだよね。焦れてはきたんだけど、それをおくびにも出さず俺は待った。「早くしろ」って言いたいよ。だけど、言ったら結果は火を見るよりも明らか。“男はつらいよ”って所だね。


 その後もセレの買い物は続き、品物は全て俺が持って彼女の後を付き従う。良くあるでしょ、外国の映画で、女性の後ろで品物を一杯持つ男性。あんな感じね、今の俺。


 でもね、それで終わりじゃなんだな。エレベーターの乗り降り、建物への出入り、カフェの椅子席に座るタイミングなんか、必ず彼女を優先しないといけないから。

 フランスにいた時には、それが当たり前だったから違和感がないんだけど(公式にはそう言うが、実践している男性は半数以下に感じていた)。ここは日本ですよ。男尊女卑とは言わないまでも、男性が中心の社会じゃない? そこで“レディ・ファースト”なんか実践してご覧。周囲の同世代からは奇異な目で見られるし、年配者からは明らかに侮蔑の感情が伝わってくるんだよ。生き辛い・・・



 帰りは地下鉄一本で済むから楽だったけど、それまでの気遣いで疲れ果ててしまい、自宅に戻るとソファに倒れ込むように身を沈めた。

「疲れた」


 彼女に聞こえるでもなしに、俺の声が漏れる。彼女はというと、テーブルに置いた買い物袋から次々にスラックスなどを取り出し、一つ一つ広げては丁寧にタグや値札、停めピンを外している。

「疲れた・・・ 喉乾いた・・・」


 反応なし。

 仕方ないので、冷蔵庫から麦茶を取り出して飲む。そしたら、

「ねえ、私にも」

 そうですよね。貴女が女王様です・・・ 俺はコップに冷たい麦茶を注ぎ、それをセレに手渡した。


「疲れたから、夕食は宅配ピザね」

 はい。

 俺はドレミファピザに電話して、夕食を確保しました。


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