↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/39

12 円安は歓迎


 週明けの月曜日、俺が出所して書類の作成に奮闘していると、川村からの電話で昼食に呼ばれた。所長の了解を得て、彼の自宅に所用車で向かう。


 既に川村は寿司を取り寄せて待っていた。あいさつもそこそこに和室へ通され、奥さんがお茶を淹れてくれる。

「田中さん、何時も主人がお世話になっております」

「いえいえ、私の方こそ良い仕事を頂きまして」


「お茶を淹れたら、もう良いよ。仕事の話しがあるから」

「はい、はい」


 奥さんが部屋から出て行ったのを確認して、川村が小指を立てながら「これがね」と言い出す。俺は心配して、

「奥さんは大丈夫なんですか?」

「大丈夫、飲み屋に行く事は知っているから」


「そんな事じゃなくて・・・」

「彼女の事は大丈夫だよ。私はこれまで一度たりとも浮気がばれた事はないから」


 変な自信を持って言う事じゃないでしょ、と思いながらも相槌を打つ。

「そうですか」

「そうですよ。女なんて者はね、金を握らせておけばそれで良いの。そういう生き物だから。田中君の処はどうだい?」


「私の処ですか?」

「そうだよ」

 俺はセリーヌとの出会い、同棲、結婚と二人の過去を追想した(この辺りの事情は“セリーヌが俺を待っていた”を参照してください)。


「駄目ですね。途中、負い目があって・・・」

「何があったの?」


「まあ、大した事じゃないんで」

「言いたくないなら聞かないけど、女は甘やかしたら駄目だからね」


 彼の見解については全面的に賛同し難いのだが、妙に腑に落ちる箇所もあり、モヤモヤした心持ちで寿司をご馳走になる。

「話し替わるけども、君の言っていた投信だっけ、ETFだっけ」

「ETFですね」


「買ったのよ。株価は大した事ないんだけど、為替が凄いね」

「ああ。日銀が長期金利据え置いた件ですね」


「そう、それね。それで君にお礼と言ってはなんだけども、今日も行くよ」

「何処へ、ですか?」


「アンシャンテ」

 “あんたも好きね”と言いたいところだけども、それをグッと堪えて「お供致します」と自然に返した。

「仕事終わったら来なさい」



 18時に仕事を終え、俺はタクシーを拾って川村の自宅に着き、彼の運転するジープでアンシャンテに向かい、19時過ぎに店内に入った。

「つやちゃん来たよ」

「いらっしゃいませ」スタッフの声が迎えた。


「いらっしゃいませ」

 今日も、つやが豊満な胸を強調するかのようなドレスで、俺達を迎えてくれた。

「今日も素敵だね」

 川村がニコニコしながら彼女にお世辞を言う。


「ありがとうございます」

 彼女は微笑みながら、入って右奥のボックス席に案内してくれた。席に着くや、若い女性が満面の笑みであいさつしながら川村の傍に座った。


「奈々です。よろしくお願いします」

 名刺を出し、川村に手渡す。

「新人さん?」


「宜しくお願いします」

「奈々ちゃんです。川ちゃん御贔屓の程、よろしくお願いね」

 つやが川村に新人の子を紹介し、俺の傍に座った。良く見ると川村の身体に己の肢体をピタリと付け、身動きできないようにしているかのようだ。


「中々積極的だね」

 彼女から手渡されたおしぼりで首と手を拭きながら、川村が嬉しそうに話しかける。

「今日はね、ここにいる田中君に、ご馳走しようと思って

連れて来たのよ」


「何かあったの?」

 甘ったるいトーンで尋ねる奈々に、川村が「実はね」と言いながら彼女の手を握る。「いやだあ」といいながら、満更でもない風を装っているかの奈々。

流石水商売の女性は、と俺は感心した。これじゃ大概の男性は手玉に取られるね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。