38 日経レバレッジ
話しを戻そう。俺は大井から貰う金額を全額東京株式市場にぶち込む事にした。初月1740万円、その後は月に1660万円が俺の口座に振り込まれるから、1500万円を対面証券会社に、残りをネット証券に送金して様子を見る事にした。
そうしたら奈良証券から電話が来た。
「もしもし、田中様のご自宅でしょうか?」
「はい、そうです」
「私、奈良証券船橋支店の小野と申します。この度は、まとまったご入金を頂きありがとうございます」
「いいえ」
「つきましては、田中様の投資方針をお聞きしたく、お電話をした次第でございます」
「そうですか。それで?」
「つきましては明日のお昼にでも支店の方までご足労頂けますでしょうか」
「明日の昼ですか?」
「ご都合がつかないようでしたら、日を改めて頂いても構いませんが・・・」
「大丈夫です。明日お伺いします」
「誠にありがとうございます。急なお電話にもかかわらずご対応頂き、感謝申し上げます。それでは明日お待ち申しあげております。失礼致します」
そういう事で俺は奈良証券に行く事になった。
「田中様、ご来店ありがとうございます。本日担当致します小野恵美子と申します。宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「早速ですが、田中様はどのような投資方針で口座開設して頂いたのでしょうか」
「ネット証券ではナスダックに投資をしているんですが、如何せん夜間なので昼の仕事に支障が出まして、それで川村さんから紹介された奈良さんに口座開設した訳ですよ」
「そうでございますか。ありがとうございます。それで如何程の運用を成されるご予定でしょうか」
「毎月1500万円入金しますから、それで日経レバレッジのETFを買いたいのです」
「毎月ですか?」
「はい」
「少々お待ちください」
そう言うと彼女は受付ブースの裏の扉を開けて、事務所の中に入って行った。
「そう言う訳で、もう対応がビップ並でしたね」
「そうでしょう。私の紹介と言えば支店長が対応する筈ですからね」
俺は奈良証券の出来事を川村に順序立てて話した。それを聞いている川村の何とも言えない悦に入った表情は、どう表現したら適当なのか? それ位彼の相好は、普段見ないものだった。
「それで全部ETFにしたの?」
「そうです。だって2倍のレバレッジが掛かっているから、直ぐに益が出てウハウハですよ」
「レバレッジか・・・」
「川村さんはやらないんですか?」
「あれは上昇相場では良いのだけれど。上げ下げを繰り返す行って来いだと、マイナスになっちゃうの、知ってる?」
「知ってますよ、それ位。今の相場は上昇相場じゃないですか、AIがけん引する」
「確かにね」
「だから、一服したら即売却します。旨味が無くなりますからね」
「シビアだね」
「前から言ってるじゃないですか。親を反面教師にしていますから、即決しないでズルズルしていると塩漬けばかり作りますからね」
「でもね、含み損は売らなきゃ確定しないから。失われた30年じゃないけれど、あのNTTでさえ初値を越えたんだよ。最も高値からは未だ64%しか戻ってないけどね」
「“国策に間違いなし”なんて言いますけれど、最初がアレじゃ、先が知れますよ」
「その言葉を鵜吞みにして、どれだけの人が沈んだのかな」
「川村さんは生き残ったんでしょ?」
「そうですよ。失われた30年間はジッと耐えて、AI時代になって花開いた訳だからね」
「俺なんか、最近始めたばかりで、それ程長い低迷期は経験がないんで」
「株は国力を表わしているから、30年は日本の低迷期でもあったのさ。その間に中国に抜かれ、ドイツに抜かれ、“ジャパン、アズ、ナンバーワン”はなんだったのかな」
「何ですか、ソレ?」
「君達は知らないか。昔は日本も勢いがあってね。今にアメリカを抜いて世界一になるのじゃないかって、世界中から警戒されたものさ」
「・・・」
「処で、成績はどうなの?」
「順調です」
「それは良かった。ETFが田中君には合っていたみたいだね」
「そうですか?」
「そうですよ。前には私が独自に開発した手法だったので、話さなかったけど、自分の誕生日から導き出せるんですよ、相性の良い会社が」
「それ、教えてください」
「長年掛けて確立した手法を易々と他人に話せますか、田中君は?」
「しませんね」
「そうでしょ。何も苦労しないで、美味しい果実だけ欲しいなんて。図々しいにも程がありませんか」
「その通りだと思います」
「田中君が私の手法を完全に理解した暁には教えますよ」
「本当ですか?」
「私は、嘘は申しません」(故池田元首相が発したとされる言葉)
「はあ・・・」




