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36 情報戦


 埼玉本部で例祭日に執行する護摩法要について、俺が大井管長の代理として執り行ったんだけど。あからさまに一般会員から、非難めいた意見が事務局に殺到したそうだ。「何故管長が執り行わないのか?」、「代理で法力があるのか?」、「何か胡散臭い」、「宣伝と違う」、「失望した」等々で、殆んど否定的なものだったそうだ。中には「オーラを感じる」とか、「フレッシュだった」とかあったらしいけど。


 仕方ないさ、大井に法力が全くないんだから。結構な言われようだけども、それを容認するだけの見返りがあるから我慢できるのであって、それがなけりゃ直ぐ辞めてやるよ。そういう気概で事務局に行くと、つやがニコニコして待っていた。

 その顔を見たら、投資先も運用方法も目途が付いたので、実際に毎月幾ら俺の懐に入るのか聞きたくなり、下世話にも彼女に尋ねたんだ。


「つやちゃん。シニア・エグゼクティブ・スーパーバイザーの報酬どうなるのかな?」

「どう言う意味ですか?」


「ほら、一度にもらうのか、毎月報酬としてもらうのか」

「支払方法ですか。田中さんはどちらを希望しています?」


「できれば毎月で」

「構いません。貴方の望み通りお支払い致します」


「ありがとね。それで幾らになるのかな?」

「待ってください・・・ 始めは1740万円で、その後は月々1660万円を振り込みます」


「了解」

 嬉しくなって、俺はつやに法要が終わったら、彼女のマンションに一緒に帰ろうと誘ったんだ。そうしたら、OKなんだよね。人生上手く回る時はその流れに身を任せればよし、ダメな時は抗うな。


 気分が高揚し、気力が高まり、興奮してきたのが分かるので、俺はつやに俺の部屋に行こうと誘った。それもOKだった。



 部屋で彼女とチョメチョメしていたら、BGMを流していた俺のスマホがハウリングを起こした。可笑しい。俺は何か不信感を抱いたので、部屋の中を見回した処、隠しカメラに隠しマイクを発見。俺は小声で彼女を問い詰めた処、管長の命令で取り付けたと白状した。大井の奴、油断できないな。

 やられたらやり返す。目には目を歯には歯を。俺は管長室にも同じ物を設置しようと、管長室の空き具合を彼女に確認した処、結構空いている日があると言うので、機材が揃ったら決行するから連絡をくれと頼んだ。

 管長との諜報戦が楽しみになり、彼女の秘密を掴んだらどうしてやろうかと色々想像したら、またまた興奮してしまった。しかし、身体は反応せず、気持ちだけが先走りするだけで如何ともし難い。つやに。言って、俺は先に彼女のマンションに向かった。



 運転手も心得たもので、マンション近くで降ろしてくれた。だが、よくよく考えたら彼も管長サイドの人間じゃないのか? 給与は教団から出ている訳で、謂わば俺の監視役じゃないのか? 部屋にあったカメラとマイクから、俺のサイドの人間はつやしかいないし、彼女しか信じられないと思っていた俺が浅はかだった。俺の味方は誰もいなんだ。そうなると人間不信になるもので、教団職員全員が信じられなくなった。

 何故つやだけが俺にも情報を流すんだ? 彼女は中立なのか? 彼女も管長側じゃないのか? 否、何等かの意志を持ってそう行動しているとしたら? 考えたらきりがない。


 一人悶々と考えていると、何時しか時間が過ぎ、つやの帰宅となった。部屋に入り、彼女は着替えて俺の世話をしようとしたので、彼女に「俺に構わず風呂に入って疲れを落とせ」と伝えた。疲れていたのだろう、あっさり彼女は風呂場に向かった。比較的長い入浴時間の間、俺は教団について思案した。管長から皆給与をもらっていても、それだけで管長側の人間と断じるのは早計だ。 中には不満を抱いている者もいる筈。それを調べるには内部の者を使わないと・・・ 俺は矢張りつやを俺サイドの人間にしようと決断した。


 寝室のベッドの中で、俺はつやを篭絡させようと、あらん限りのテクニックで彼女を悦ばせた。彼女もそれに応えて菩薩の境地に辿り着いただろう。そして、俺は彼女に提案した。


「ねえ、つや」

「なあに」


「管長、もう観音様を招来できないよ」

「それは聞いたわ。だから貴方に、白羽の矢を立てたのよ」


「そうなると彼女、教団の役に立たないね」

「そうね」


「それならいっその事辞めさせたら」

「無理ね。事務局の大半は彼女の信奉者よ」


「それは大井に、法力があったらの話しだろ」

「どう言う意味?」


「君が皆に伝えなよ。『管長には法力がない』って」

「嫌よ。そんな事したら、教団から追い出されちゃう」


「大丈夫。彼女の信奉者でも、法力のない者を信じるかい? 事務局にも反主流はいるんだろ?」


「反主流じゃないけど、不満を抱いている人はいるわ」

「そいつらを扇動して管長に不満をぶつけてみてよ」


「それでどうするの?」

「内部をまとめられなければ、力がない証拠さ。当然力のある人間が先頭に立つべきだよ」


「それって。貴方って事?」

「いや違う。君だよ」


「私? 無理、無理、無理」

「何で? 法要は俺がするから、法力があろうとなかろうと、もう関係なくない?」


「でも・・・」

「教団をまとめるのは古参の幹部じゃなきゃ。男性の幹部はもう使いものにならないだろ?」


「無理じゃない。退院したり、入院したりの繰り返しだから」

「でしょ。そうなると、残っている古参は?」


「私だけ?」

「もうつやが引っ張る時代だよ」


「そうかしら?」

「そうさ。君が求められているんだよ」

 満更でもなさそうな顔をし出した。何だ神田言って、トップに立てるとなると悪い気はしないもんさ。それが女でもね。大井がそれを証明してるじゃないか。


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