34 シニア・エグゼクティブ・スーパーバイザー
俺は大井との年俸交渉にて妥協し、2億円で東密国立宗のシニア・エグゼクティブ・スーパーバイザーとなった。同時に幹部待遇も認めてもらい、管長室と同じ位広くて豪勢な部屋を用意してくれる事も。
住まいはどうするかとなったが、俺が今の賃貸マンションを出て行く気がないと告げたので、埼玉の本部には専用の車で出勤する事になり、専属のドライバーも付けてもらえた。管長のように毎週行事がある訳でもないので、出勤は多くて週1回、少ないと月1回の頻度になる。それで2億円ですよ。管長が如何に切羽詰まった状況だったか分かるね。俺がいなけりゃ、教団が終わっていたんだから。
この勤務条件のお陰で俺は事務所も辞めずに済んだし、教団に出勤する時は有給も使えて御の字だ。
そうなると金の使い道だよね。俺は川村に電話して投資の相談に乗ってもらう事にしたんだ。一生教団から報酬がもらえる訳でもないし、第一、大井がそれを望んでいない事は重々承知していたから。
大井は自分が観音を招来できたら、さっさと俺の首を切りたいんだろうけど、それは無理だね。交渉の時に言っていた「最初は招来できた云々」は、エドが彼女に見せた幻影、幻聴だからね。最もプラシーボ効果で特殊能力が一時的に備わった可能性もあるけど、そんなの一度きりさ。永続していないから俺に依頼するんだよ。
そういう背景もあって、俺は2億円しかもらえないと思っているんだ。だからこれを元手にファイヤーしたいのさ。
6時に仕事を終え、事務所の外でタクシーを拾い、俺は川村の自宅に向かった。
相も変わらず、川村は和室にて俺を待っていた。
「どうしたの、田中君、相談て」
「一寸した金が入りましてね。何の銘柄が良いか、川村さんにご教授頂けないかと思いまして、お伺いした次第です」
「へえ。宝くじにでも当たったの?」
「違いますよ」
「遺産かい?」
「そんなところです」
「幾らだったの?」
「言うんですか?」
「大丈夫だよ。税務署にはチクらないから」
「御冗談がキツイですよ」
「それで幾らなの?」
「2億です」
「ふーん。2億か・・・ それでどれ位にしたいの?」
「そりゃ、多ければ多い程良いですよ」
「どの位の期間で?」
「早ければ早い程」
「真面目に聞いているのよ、私は」
「すみません。具体的にはありません」
「“おんぶに抱っこ”ってところだね」
「申し訳ありません」
「確かナスダックに投資しているんだよね」
「はい」
「それでどこの市場?」
「東証でお願いします」
「ナスダックでなくて良いの?」
「アメリカは日本時間の夜間にならないと市場が始まらないので、市況を見ていると寝不足になってしまうんです。事務所の仕事にも支障が出そうなので、東証に資金を移そうかなと思いまして」
「為替は良いんだ」
「ずっと円安が続くとは思いません」
「分かりました。それじゃ、私の投資手法を教えるから、参考にしてね」
「はい」
「先ず、何処の市場にも必ず自分と波長の合う株と合わない株があるから」
「『合う株と合わない株』ですか?」
「そう。こう言うと、非科学的だと言う人もいるけど。株式と言うものは理論で割り切れるものじゃないよ。確かに売り上げ、純利益、PER、PBR、キャッシュフロー等は知っておくべきものさ。だけど売り上げが良くてPERの低い株が全て上がるかい?」
「いいえ」
「何で上がる株と下がる株があると思う?」
「業績の良い会社と悪い会社の違いですか?」
「前提条件は同じとしてだよ」
「さあ・・・ 株数ですか?」
「それもある。他には?」
「分かりません」
「それですよ。理屈で分かったら、株で蔵建てる奴なんざ、五万といる筈さ。実際はいないだろ」
「そうですね」
「分からないという前提で買うんだよ。そしてその中から、宝を探し出す」
「それじゃ、運否天賦じゃないですか」
「そうだよ。だから言ったろ。理屈では勝てないって」
納得できるような、できないような?
「その為には何が必要か、という事だよ。運を味方につけるには?」
「それは何ですか?」




