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31 管長との面談


 つやが俺に教えてくれた大井管長のスケジュールは、毎週月、水、金曜日が祈祷、法要、火・木曜日が出家指導になっていて、土日曜日はプライベートな時間として、事務局が管理していないそうだ。

 平日は必ず埼玉の教団本部にいるので、何時にしようか思案六法していると、火・木の出家指導日は時間毎の休憩時間に随分余裕を取っているのが分かり、俺は火曜日の2時半から3時までの休憩時間に大井との面会を事務局に依頼した。


 事務局からの連絡が一向に来ないので、つやに面会の依頼をしたら、事務局から火曜日2時半~3時の面談時間の了承がきたので、俺は埼玉本部に向かった。つやも日中は本部に詰めているから、用があれば呼び出せるな。


 時間になり、俺は管長室に案内された。寺院の庫裏部分にあたる場所に、それは設えてあった。


「お久しぶりです、管長」

「田中君、この間は時間がなかったわね。残念だったわ」

 おい、おい。違うだろ。お前が面談を勝手に切り上げたんだろう。こいつ短期間で、随分図太くなったなあ。


「そう?」

 俺は惚けて応えたが、全然彼女は意に返さなかった。横柄な態度を隠そうともしないよ。

「それで。どんな御用?」

 腹の探り合いなどする気もないのか、単刀直入に聞いてきた。

 俺もそれならそうと、応え辛い質問をしよう。


「最近、観音様との菩薩の境地は、如何ですか?」

「ぼちぼちね」


「そうですか・・・」

「何か?」


「いえね。私が降臨させて以来、音沙汰がなかったのでちょっと・・・」

「そう。何も変わらないし、特段君に依頼しなくとも、観音様とはあれ以来、周波が合うというか・・・ 兎に角、田中君のお世話はいらなくなったの」


「そうですか・・・ 観音様の応接法要は、管長自らなさっているんですか?」

「そうよ。前管長からも口伝で教授頂いたわ」


「ほお、小田さんが」

「何か?」


「いえね、管長が私に依頼しに来た時は、確か出家していませんでしたよね」

「そうよ。その後で法灯が絶える事を恐れて、私が前管長にお願いしたの。それが何か?」


「いえ、分かりました。それなら良いんです」

「そう。良かったわ。この後、3時から出家指導があるの」


「それは分かっていますから、手短にします」

「そうして頂戴」


「ところで管長の法力は観音様から授けられたものでしたよね?」

「そうよ」


「そうなんですか・・・」

「何が言いたいの?」


「いえね。私も観音様からは、目を掛けて頂いているんですよ。ですが法力となると、全く備わっていなくて・・・ どうやったら授けられるのかな、と思ってまして・・・」

「それはどうかしら。単に貴方に才能がなかった、だけじゃない?」


「随分踏み込みますね」

「気に障った?」


「いえ。そうじゃなくて・・・」

 あちらこちらから攻めるんだけど、事前に準備でもしていたのか、応接に躊躇いがない。俺が突くところを想定していたのかも。

 あやふやな聞き方をしても仕方ないので、俺は直截的な物言いで尋ねた。


「私ですね。実は、観音様から『大井管長を助けてくれ』と頼まれましてね」

「え? 何を言っているの?」


「ですから、観音様のお言葉を伝えに」

「嘘です。そんな虚言には騙されません」


「管長。興奮なさらずに、冷静にお聞きください」

「黙らっしゃい。仏を愚弄する者とはお話ししたくありません。出て行きなさい」

 怒っちゃった。顔を真っ赤にして、口を尖がらせて、言葉が機関銃のように出てきた。まるで、今まで自分の気持ちを抑えて、沈着に対処してきた反動が一気に出た感じだ。口から泡を飛ばして口汚く罵る様は、とてもじゃないが宗教家とは思えない。

 一方通行で罵詈雑言を浴びる立場としては、もうここにいたくないのが本音。だけど彼女の心の動揺が、俺の何に触発されたものなのか知りたい。そうすれば、彼女との今後の交渉が有利に運ぶしな。


「出て行きなさい。顔も見たくない、口も利きたくない」

 そう言うと彼女はデスクに置かれた受話器を取り上げると、早口で俺の退室を事務局に伝えた。

「そうですか、分かりました。俺の話しが貴女の急所に刺さったのなら、回復する時間を差し上げましょう。しかしね、どう取り繕うとも、実態が伴っていなければ、後で貴女が泣きを見ますよ。これは私の助言と思ってください。ボロが出る前に辞める事です」


「五月蝿い。黙って聞いていれば、言いたい放題言って。貴方何様なの? ふざけないで。弁護士に言って訴えますからね。覚えて置きなさい」


 もう何を言っても埒が明かない。多分本当に彼女の急所を突いたんだろう。反論できなくなると、後は感情で相手を威圧するしか方法がないのだ。そう思うと、この会話を録音しておけば良かったと後悔してならなかった。


 管長室のドアがノックされ、事務局の職員さんが複数入ってきた。俺は彼等に促されて退室せざるを得なかった。

 最後に一発かましてやろうとしたけど、彼女が俺に背を向けているので表情が分からず、反応が見られないのでそのまま退去した。


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