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30 大井とエドの関係


 俺はつやを介して大井とエドの関係がどのようなものなのか知る為に、気乗りのしないつやに教団での活動を促した。相当不満が結構溜まっていたのか、彼女のマンションで30分位だろう、教団と教祖の不満を一方通行で聞く立場になったのは致し方ない。

 内容とすると矢張り金銭について、になるね。例祭で見た信金の集金について、彼女は関与していないので、毎月幾ら喜捨があるのか知っているのは管長だけで、大部分が管長に流れていると踏んでいるようだ。揉め事の種が金だというのは、古今東西の真理だね。

 次は俺が訝しんだ休憩所前の男性信者についても彼女は不満を漏らしていたんだ。これは彼女の推測なんだけど、熱心な男性信者の中から、管長に忠誠を尽くし出家を望む者を選別して、彼女が菩薩の境地に導いているのではないかと。


「どう言う事?」

「つまり、男女の仲になる事よ」


「男性信者と管長が?」

「そうよ」


「何で?」

「詳しくは知らないの。でもね、一人当たり100万円位の布施を受けて、授けているって噂があるの。お布施の項目に菩薩の境地があるのよ。その他にも色々あるけどね」


「へえ」

「私、一度事務局に聞いた事があるの」


「何を?」

「菩薩の境地の申請があるかよ」


「それで」

「管長の許可がないと話せないって」


「そりゃ怪しいね」

「そう思うでしょ。だから、その点について管長を質してみたいの。どう思う?」


「止めた方が良いね」

「何故?」


「君は管長とエドがそうなった場面にいたよね」

「ええ」


「つまり、それを彼女に聞くという事は、彼女から嫉妬、ジェラシーで動いたと受け取られかねないからさ。多分だけど、君もエドと菩薩の境地に浸りたかったんじゃないの?」

「失礼だわ、その言い方」


「言い過ぎたなら謝るけど。彼女だけエドと関係を結んで法力を持ち、管長になった。それを手助けした自分は何も得られなかった。それが根底にあると言われたら、冷静に対処出来る?」

「・・・」


「君の立場が相応なものでない事は同情するさ。でもね、それを言っちゃ、君の立場が不味くなると思うよ」

「・・・」


「だから俺が力になるから。分かった?」

 つやは何も言わず頷いた。俺はつやの肩に手を乗せ、俺の傍に引き寄せた。既に身体を赦していたからその後はスムースだった。これで俺が彼女の味方になったと実感しただろう


 俺はつやに教団経営に係る事、不満を表明しない事、普段段通りの生活を送る事を伝え、管長側の油断を見計らって、行動を起こそうと説得したんだ。彼女も腹に一物もっていたから、それを受け入れたんだと思う。そして来月の例祭にも俺が出席するからと念を押した。




 例祭日、埼玉の教団本部の寺院で、俺は先月よりも多くの信者が集っているのを見た。あの時は大井が自慢げに400人と言っていたけど、倍以上いるよ。

 良く見ると敷地も拡大されて、脇には駐車場が併設されている。そこに高級車がずらりと並んでいる様は圧巻だね。川村が乗っていたラングレーも見えるから、彼もつやに誘われて来ているのかな。


 本堂は人がびっしりと入っていて、熱気に溢れている。見ると殆どの人が輪袈裟を掛け、片手に念珠を持っている。一様に大井管長を凝視しており、彼女の一挙手一投足までも見るんだ、という強い意志が感じられる。

 彼女は護摩壇に段木を投げ入れ、香油を投げ掛けながら、何かを呟いている。その姿には恍惚感すら感じられる。汗で法衣の下が薄っすらと透けて見えそうだ。

 俺はナンテールでの法要を手伝ってくれたテスの姿を思い出し、複雑な感情を抱いてしまった、余り詳しく書かない。


 法要は30分程で終わった。管長が護摩壇から降りて本堂を後にすると、信者も座っていた場所から立ち上がり、出口に向かう。

 俺もつやと一緒に、本堂から管長の休憩所に向かう。例の信金さんも外から本堂に入って来る。これも先月と変わらない。唯一つだけ違っていた事があった。彼女が退堂する時に、彼女の両脇には背広姿のガタイの良い男性が二人付いていた事だ。目つきが鋭く、周囲に気を配っている姿が妙に印象的だった。

後は、若い男性信者だけだね。


 休憩所は廊下沿いにあり、休憩所の隣にも幾つか部屋がある。納戸だったり、納戸だったり。

 俺は部屋には入らず、外で待っていた。つやだけが入り、何やら彼女と話し込んでいるのだろう。彼女は直ぐには出てこなかった。


 彼女が出てくる前に、女性職員さんに付き添われた男性信者3名がやってきて、部屋の前で待機した。俺は少し離れた廊下で待っていたので、訝られる事もなかった。


 5分程でつやが出てきた。それと同時に4人が入って行った。それを俺とつやが見ていると、入室したばかりの女性職員さんが直ぐに出てきた。

 ??? 先月は入れ替わりだけを見ていたので、その後の事は知らなかったが・・・


 職員さんが部屋を出て廊下を戻って行った。俺とつやは休憩所から少し離れた廊下で中の様子を想像する。部屋から微かに声が漏れ聞こえる、しっかりとではなく断片的に。

「前」

「後ろ」

「口」


 何の符丁なのだろうか? 俺には分からなかった。つやを見ると彼女も首を傾げている。それからは何も聞こえてこないので、俺達は廊下を戻り、出口に向かった。

 つやだけは未だ仕事があるとかで、寺務所に向かった為俺は彼女のマンションには戻らず、自宅に帰る事にした。

平日大井に面談してみよう。


追記

 先月の例祭から今月例祭の間、大きな違いがもう一つ。エドが姿を消した。何故? ベルナール大司教が召喚したエドに、俺との接触を代償として許可した事は話したけど、エドの目的は俺に接触して逆徒の捕縛と処刑への協力だった筈。それがセレの反対で俺が関与できないとなると、幾ら待機していても彼女の気持ちが変わることもなく、無為に日々を過ごす羽目になっていたから。

その間、若干の悪戯は試みたが、大筋では地上で大人しくしていた。大井との菩薩の境地にしたって、彼女に幻影を見させ疑似体験を積ませただけだから、静かにしていたと言えば、そうだ。しかし、その偽薬効果が思いの外効いてしまい、大井に法力が備わったと。又はこれも偽薬効果で、彼女が勝手にそう思い込んでしまったかのどちらか。


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