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29 迷走の挙句


 面倒臭いんで、俺はロバートが宿泊しているホテルの店を指定したんだ。まあ、俺の適当さも知っているから、彼もOKしたんだけど、後で考えてみると芸がないよね。折角海外から来日したのに、街中の名店を紹介するチャンスを自分から外すなんてね。どうかと思うよ、実際。


 俺の英語の読解力が如何ともし難いレベルなのは分かっっていたが、セレに通訳をお願いする事はできない。片言英語でも身振り手振りを加え、気力で対応しよう。


 12時過ぎ、ホテルのロビーで待ち合わせ、ホテル内の寿司店に入った。俺は食事の前に、セレがナンテールで悪魔に憑依された事、ベルナール司教に悪魔祓いしてもらった事を彼に話した。そんな事があったのか、という感じで聞いていた彼も、次第に彼女に同情し、悪魔への憤りを口にするようになった。

始めは巻物を頼み、下ごしらえをしてから彼の食べられるものを注文してもらった。基本、欧米人は生ものを食べる習慣がないから、頼むのが限られるけど仕方ないね。


 俺は早速映画の件について尋ねた。彼は大枠では魔女裁判に関与した家族の末裔に接触して、プロットを脚本家が作った事を教えてくれた。俺はアメリカに帰ったら、その末裔の誰かで良いから、連絡をもらいたいと要請したら、保証はできないが脚本家を通じて接触してみる、と言ってくれた。

 因みに監督、脚本家の名前を聞いたら、全く知らない人名を上げたので、映画の予算を聞くと100万ドルを切ると応えてくれた。彼の感想ではこれだけの予算では名の知れた監督や脚本家、そして俳優さんも出演してくれないそうだ。だから余り期待するな、と言われてしまった。

 昨日は期待させやがって! 今日は期待するなと来た。何かな・・・


 食事が終わり、俺は仕事に戻る事をロバートに告げた。彼は後一日東京にいるから、明日も会えないか聞いてきたが、セレの様子が心配なので、俺は「難しい」と返答した。彼もそれは理解していたので気にするな、と言ってくれた。


 結局その日がロバートに会った最後の日となった。セレが体調を崩したので、自宅に彼を呼ぶ事もできず、彼には失礼だったとは思うが、それは勘弁してもらいたい。


 俺はロバートが帰国して、関係者に連絡を取ってくれるとは思っていなかった。それが彼の負担になれば、今の付き合い方が歪なものになりかねないから、と思っていたら・・・


 帰国した翌日に俺のスマホにメールが送られてきた。関係者のメールアドレスが添付されていた。俺は高校時代の英和辞典を引っ張り出して、鉛筆なめなめ(比喩です。メール送るのにそんな事しないよ)英文を送った。


 返信は早かった。英文を見ると気分が悪くなったので、セレに和約してもらった。要約すると「1692年の事件で既に300年以上経っており、一家に伝わる資料の類いはない。祖先が告発され刑死した事は、ウィキぺディアの方に詳しく書かれてあるから、そちらを参考にしろ」という味気ないものだった。


 これで事件関係者からの情報提供はお仕舞いに。俺はアプローチを変えるのを止め、つや一本に絞った。彼女なら情も通じたし、多少の期待は持てるだろう。

 俺は新橋でオートレースをやろうとラ・ピスタ6F、オートレースフロアに足を運んだ。川口開催日だったので、贔屓の選手が出るかもしれない。6時まで遊んだが、全然かすらない。



 俺はつやの店に向かった。7時前に着き、つやを指名したら、直ぐにやって来た。

「先日はご苦労様でした」

 店と教団の顔がはっきりと違う。店では常に笑顔が基本だが、教団では強い面と弱い面が共に見えるから、俺としてはそちらの方が、どちらかと言うと好みだな。


「あれからどうよ」

「『どう』って?」


「埼玉での仕事さ」

「ここでは余り話したくないの」


「それなら、何処で?」

「『何処で』って言われても・・・」


「良いじゃない、ねえ」

「余り気が進まないの」


「それは大井から、口止めされてるって事?」

「そうじゃないのよ。そうじゃないの」


「じゃあ、何なのよ」

「前の管長の時のような熱意が湧かないの」


「それって、辞めたいって事?」

「分からない」


「そりゃ勿体ないな。もう最高幹部だろ」

「そうね」


「実入りもあるんじゃない?」

「労働の対価としてね」


「それだけ?」

「そうよ。ここで働いているんだから、分かるでしょ」


「そんなもんなんだ」

「あの人はどうか知らないけど・・・」

 彼女は不満を持っている。それが大井に対するものだとは直ぐに分かる。つやの話しは、そう言っているも同じだからね。彼女の不満が大井の何なのか知りたい。そうすれば大井のウィーク・ポイントも見えるか。


「その話し詳しく聞かせて」

「だからここじゃ・・・」


「分かってるって。君のマンションで良いだろ?」

「私の?」


「そう」

「どうしようか?」


「そんなに焦らさないで」

「そうね」


「うん。そうしよう。OK?」

「分かったわ」


「じゃ、店が終わったらね」

「そうね」

 その日店が閉まった後で、俺はつやと錦糸町のマンションにタクシーで向かった。セレは家で静養しているから、心配はない。後顧の憂いを無くして、さあ!!!


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