26 新教祖
エドの言葉にショックを受けた俺は、東密国立宗がどう変わったのか知りたくなって、つやに連絡を入れ気乗りのしない彼女を説得して、教団の例祭に出席する事にした。
埼玉県某所、或る寺院が教団本部となっていた。本堂と境内には数百人の信者が既に集まっていた。俺は納得した。これなら月に信者からの会費を一人当たり5千円徴収しているから、結構な金額になるなと。つやから教えてもらった信者の数は200人を超えないと言っていたから、5千円で月に100万円弱の売り上げになる。それに信者には会費以外にも日々の喜捨を進めているので、同額の喜捨も見込めるとして、200万円近い月収だな。それに個別の祈祷やお守り、お札配布などがあるというので、300万円かも。
管理運営は教団信者がボランティアで携わっているから、左程掛からないし、出家者も信者だから掛からない。“坊主丸儲け”とは良く言ったものだ。これで、既存の宗教団体を買収して東密国立宗に改宗したから、税制面でも優遇されるし、税務署もおいそれとは調査しないだろう。大井が身体を投げ打ってでも得ようとした地位は、それだけの価値があるという事か。
例祭は毎月行われ、その時に喜捨は本部に信者が持ってくる。会費は毎月通帳から引き落とされるから分かるけど、喜捨の金額は本部の者しか知らないのだろう。羨ましい限りだ。
小田管長を追放してでも、教団のトップに立つ理由は十分にあった。
それ程魅力的な教団運営なのに、何故教義を変えてまで神仏混交に進もうとしたのか、俺には分からなかった。小田前管長は何を目指していたのか? 少なくとも幹部連中の総意からは外れてしまったから、淘汰されたとしか考えられない。
例祭会場の本堂では中央の護摩壇に、大井管長が座して修法の最中であった。
護摩木の燃え盛る炎がゆらゆらと昇っていく。大量にくべているのか、人が多いのか結構むせ返る暑さだ。護摩木を投入する間も彼女は般若心経を唱えている。様になっているじゃないか。“地位が人を創る”とは言いえて妙だね。
一通りの修法が終わり、例祭も終了した。俺はつやの案内で管長の休憩所に向かった。反対にスーツ姿の男性が本堂に向かっている。何者なのかつやに尋ねると、地元の信金の職員だと言う。毎月、例祭日は喜捨の入金があるので、集計してそのまま信金に持って行って入金してくれるシステムになっているそうだ。信金も大口の顧客は大切にするんだな。毎月集金に来るなんて。
休憩所では大井が汗だくになった法衣を脱ぎ捨て、半裸の状態で寛いでいた。
「管長。田中さんをお連れしました」
つやが大井に俺の訪問を告げた。彼女が振り向き俺を見る。俺は彼女の半裸体を直視できず、視線を下げてあいさつした。
「管長就任、おめでとうございます」
「ありがとう、田中君」
大井は恥じらう事も照れる事もせず応えた。随分度胸が据わったもんだ。
「随分盛況じゃないですか」
「私が管長に就任してから結構増えたのよ。私の法力の噂が随分広まったからかしら。小田君は仏から神へと迷走したので大分信者が減りましたけど、私の力で直ぐに戻ったし、今では彼の時より倍以上になっているのよ」
すると信者は400人以上になっているのか・・・ 短期間でよくも集めたもんだね。真っ当な勧誘なのかな? それとも人の弱みに付け込んだ霊感商法とか?
「邪推はしないでね。私の法力で増えたのよ」
「貴女の法力って、何ですか?」
言い終える前に、つやが俺の服の袖を引っ張った。不味い事聞いちゃった?
「私は疲れました。田中君にはもう帰って頂きなさい」
大井がつやにそう言うと、つやが申し訳なさそうに頭を少しさげた。頃合いなのだろう。俺は彼女に頭を下げて引き下がった。部屋の外では、女性職員が3人の男性信者を従えて待機していた。
俺とつやが部屋を出ると同時に入室していった。
「彼等はなんですか?」
「あれは・・・ その内説明します」
そう言ってつやが出口に俺を導いた。
短期間で信者を倍増。例祭では信金が待機して集金。若い男性信者が管長休憩室に待機。色々探ってみたい点が大井、いや多い。




