24 支離滅裂
川村の転用許可が下りた。アパート経営を拡大する予定のある川村に、所長は土地の斡旋をエステートに依頼して進めているが、色よい返事はまだないらしい。「仕事は単発で終わらせるな。仕事は受けるものではない、創るもの」が所長の信条だから、あれこれアタックしているんだろうが、彼の関心が今は事業ではなく、つやに傾いている事を知っている俺としては、事情を所長に伝えるべきか、否か判断しかねているんだ。
仕事も急ぎの案件はなく、営業に割く時間が多くなった。営業と言っても顧客回りで、相手の相談を受けて仕事になるかどうかの判断を所長に上げるだけだけどね。それでも事業拡大の意欲は誰しも持っているもんで、大概の顧客は仕事の話ししかしない。
そんな中、つやからメールが入った。エドの脅しからそれ程経っていないが、「相談したい」の文字がある。俺は週末、彼女のマンションを訪れた。
マンションではつやと大井の二人が待っていた。他の3人について尋ねると、教団を休職したそうだ。矢張り精神に来たんだろうとは思っていたので、左程不自然には思わなかった。まあ、発狂しなかっただけましか。
「それで、相談内容はなんですか?」
「実は私ではなく、大井さんからなんです」
そう言ってつやが大井に発言を促した。彼女の言葉を継ぐように、大井が話しを始めた。
「田中さん。今迄失礼な対応をしてしまい、申し訳ありませんでした」
突然の謝罪から始まり、俺は一瞬身構えた。そんな俺の事など無視して彼女は続ける。
「つきましては、田中さんにお願いがあります」
「何ですか?」
「もう一度修法して頂きたいのです」
「え?」
「もう一度お願いしたいのです」
「貴女、言っている意味、分かってます?」
「はい。危険な事は充分承知しました。それを踏まえてお願いしているんです。どうかもう一度お願いします」
「何で、もう一度なんですか?」
それから彼女は事の経緯を話した。教祖の法要では体験した事のない経験であった事。そこから、教祖の法力に疑念を抱いた事。神仏の降臨が如何に危険なものであるかを実感した。そして結論を出したのだと。
教祖に法力はない。拠って教団から追放し、法力のある指導者に就任してもらう。しかし、全くの部外者では教団経営に困るので、自分達から出そうと。それには自分達が法力を付けなければならない。その為。馬頭観音様のお力を借りたいと。ざっと言うとこんな処かな。
俺の結論。妄言の一言。如何に修行しても、貴方達の管長のように毒にも薬にもならない修法者は多い。大井さんは修法者じゃありませんよ。解脱を目指して修行して辿り着けるか、着けないかの世界だから、安易な方法なんてないと俺は伝えた。
そしたら何をとち狂ったのか、男女交合の妙なる恍惚が菩薩の境地なら、自分が観音と一体となって法悦に到れば、それは菩薩の境地。それが涅槃だ、と言い出した。完全に“十七清浄句”の解釈を悪い意味で間違えてる。
俺はつやの顔を見た。そうしたら、彼女いきなり洋服を脱ぎだし、その豊満な肢体を余す処なく俺に開示した。そして・・・
俺は“十七清浄句”の間違った解釈に、間違った対応をしてしまった。そしてつやに寝物語に法要をせがまれ、「うん」と言ってしまった。何たる浅はかさ、浅慮の為せる業。欲望を断つ事なんて俺にはできなかった、その一言です。
つやの肢体の温もりの余韻に浸っていると、大井が俺に法要を急かせる。今迄俺とつやがチョメチョメしていたのを見ていて、何も感じなかったのか、このアマ。
何とも言い表せない感情が湧いたが、つやが俺の身体に手を廻し、抱き締められていると気持ちが落ち着く。男なんて、所詮こんなもんさ。
仕方なく俺は観音を降臨させる体を装ってエドを呼び寄せる法要を行った。
悪心に襲われ、喉の奥がムカつき、腹が痛くなる。ムカつきがこみ上げ、気持ちが悪い。それでもエドを呼び出す。
部屋の気温が上がり、湿度も上昇。皮膚にまとわりつく空気が重い。風が頬にあたる。観音に扮したエド出現の前触れだ。
祭壇上の陽炎、小さな光点の明滅から無数の光の束が放射され眩しい。つやと大井が顔を背ける。
光源からエドが顔を出す。何時もの紅白のコントラスト。
「馬頭観音様。降臨頂き、誠にありがとうございます。一同に成り代わりまして、感謝申し上げます。本日お呼び致しました訳は、この者大井の願いをお伝えする為でございます」
「分かった」
ミスターエド。事情はお分かりですよね。
「分かっている。バカな女だ。そしてお前もな。どうなるか分かっているのか?」
分かる訳ないじゃないですか。こうなった以上、やるしかありません。
「それで良いのか?」
と言いますと?
「もう少し洗練された遣り方というものがある」
それは?
エドが俺に伝えた筋書きは、悪魔ならば履行しないものだった。具体的にここで明かす事はできないが、俺達の世界で知られているプラシーボ効果のようなもの、と言えば理解できるだろうか。
エドもベルナール大司教に召喚された身である以上代償は一つ、俺との接触以外は許可されていないので、大事にはならないだろう。
俺は大井に目を向けた。それを合図に彼女は着ている物を脱ぎ、裸体をエドに晒した。エドの嘶きが一際大きく俺には聞こえたように感じられたが、二人には届かなかったのだろう。
「馬頭観音様。お願いでございます。私を菩薩の境地にお導き下さい」
そう言うと彼女は一歩先に出て、両手両足を開いた。エドの喉がゴロゴロと鳴っているようだ。口から大量の涎が滴り落ちて床に溜まった。
エドの顔が彼女に近付き、その後から首、胴体と続く。女の裸体にいきり立ったモノを持った裸馬が対峙する。
つやを見ると、彼女の目線がエドのアレに向いているのが分かった。大井を見ると、彼女の視線も同じだった。何と表現したら良いのだろうか。兎に角、シュールです。




