23 ビッグ・ブロ
月曜日仕事を終え、事務所近くの雀荘に立ち寄る。6時過ぎなのに店の中は閑散としている。月曜から雀荘に入り浸る奴なんてろくなもんじゃない、と思いながらも自分だけは違うんだと抗弁。
客は午後から卓を囲んでいる4人以外いない。ソファでしばらく待つも知り合いの常連客がこないので、俺は店を出た。このまま帰るのも何だなと思いながら、駅までぶらつく。パチンコ店が何店かあるも立ち寄る気にならない。仕方ないのでそのまま電車で帰宅する。
賃貸マンションに帰ったのは7時前。セリは既に帰宅していた。
「ただいま、マ・シェリ」
「お帰りなさい、モン・シェリ」
一月前に俺への御仕置は終わっていたので、あいさつが交わせる。
「夕食食べて来なかったから、何か作って」
「私の残りがあるから、それ食べて」
「君の残り?」
「嫌なの?」
「そうじゃなくて、食べる物が違うでしょ」
「大丈夫よ、鮭のムニエルだから」
「本当? それなら食べるわ」
「ご飯は?」
「どうして?」
「焚いてないから」
「何故?」
「食べる物が違うから」
このアマ。なめ腐りやがって、と言いたい処をグッと我慢して、俺は食パンを出し、パンと鮭の夕食を食べた。
「ねえ、聞いてよ」
「何ですか?」
「気のない返事ね」
「そんな事ないよ」
「そう?」
「うん」
「まあ良いわ。今日ね、珍しい人に会ったの」
「ふーん」
「ねえ。普通、名前位聞かない?」
「誰だったの?」
「とって付けたような言い方ね」
「そんな事ありません」
「ロバート」
「え?」
「ロバートよ。アジメと同じくJCに買い付けに来ていたアメリカ人の」
「ああ、彼か。その彼が何で?」
「それがね。日本に自分の会社の製品を売り込みに来たのよ。貴方が務めている会社だって知っていたから、代理店契約をしたいって来たのよ」
「へえ、そうなんだ」
「それでね、貴方がいなくて、私がいたでしょ。少し残念がったけど、ビックリしていたわ」
「そりゃそうだよ。だけど珍しい事もあるもんだね」
「そうでしょ。私も驚いて、少し固まっちゃった」
「そうなんだ」
「それでね。彼が言ったのよ。『一週間東京に滞在するから、3人で食事しよう』って。何時にする?」
「事務所に行ってスケジュール確認しないと、何とも」
「それじゃ明日教えて。それで彼に連絡するから」
「そうして」
ロバートは俺より一回り年上のアフリカン・アメリカン。所謂アフリカ系アメリカ人だ。ナンテール本社で知り合いになった奴で、食事の時たまたま野球の事が話題になり、俺でも理解できる野球の単語が出てきたから、片言英語で話したんだ。そうしたら、野球の事知ってる奴なんて、他にいないのよ。ヨーロッパじゃフットボールが盛んで、野球なんて・・・
それで彼と見様見真似で話すうちに意気投合して、それ以降ナンテールでは俺が彼の事を「ビッグ・ブロ」、俺の事は彼が「ジミー」って呼ぶようになったんだ。
因みに、フランス人は俺の事「アジメ」って呼ぶんだけど、彼は「HAJIME」を縮めて「ジミー」って呼んでいたんだ。いやあ、懐かしいなあ。片言英語が通じた事も嬉しかったけど、彼が兄貴で俺が舎弟になれた事も凄い事なんだよ。
ロバートの事を話しているうちに食事を終え、俺は風呂に入った。最近になって漸く彼女も風呂に入るようになったんだけど、始めはシャワーで済ませていたんだよ。そりゃ、フランスじゃ良いよ。だけどここは日本だから、湿気が凄いのよ。パルファンで誤魔化せるなんて思わない事だね。彼女の体臭が気になりだして、正直に言ったのよ、「臭い」って。そしたら、怒る事、怒る事。凄い怒られた。でも自分でも気にしていたんだろうね。その後、湯船に浸かる入浴をしたから。
そうしたら、彼女の本当の体臭を嗅ぐ事ができて、その香りが素敵なんだな。香水でも化粧水でもない独特の匂いで、それが彼女の醸し出すフェロモンなんだろうね。日本人にはないよ。
風呂から上がり、ケーブルテレビでオートレースの結果を何となく見る。土日のレースには関係しないけど、どうしても惰性で見てしまうんだよ。
セレは隣りで雑誌を見ている。覗き見すると、ファッション誌ではなくて、ヘアスタイルの雑誌だった。どんな髪形にするんだろうか。俺には関係ない。服装なら強請られるけど、髪形ならサロンで、自分で払うよね。
だらだらと時間を過ごし10時半。ニューヨーク市場が開く時間だ。俺はスマホでネット証券のHPを開いて臨戦態勢に入った。市況はダウが下がり、ナスダックが上がって始まった。今日の市場はハイテク、通信が堅調で、グロース株が人気になっている。逆にバリュー株は不人気。
俺の推奨はサウンド・〇〇、サーブ・〇〇。先週に買った銘柄で、前者はマイナス、後者はプラス、合計で若干マイナスって処だね。
分足でチャートを見ていると、10時45分頃から株価がダレてきた。個人の買い方が買いを終えた処だろう。これからはファンド等の機関投資家が注文を出すんだろうなあ。
世間では、投資信託やETFでインデックスファンドを買う事が賢い選択だとか何とか。でもね、株式投資の王道は、文字通り株式に投資する事。個別株を自分で調べて、自分で選択して買う事。個別株はリスクが高いとか言うけれど、リスクで言えば投信、ETFも同じ事。ボラティリティが荒いか、そうでないかだけだよ。それより自分と相性の良い個別株を見つけて、購入した方が納得できるよ。
人との相性に良し悪しがあるように、株にも相性があると俺は思っている。どんなに業績の良い株でも大して成績を上げられないのに、ボロ株と言われる株式で大幅な利益を確定する事もあるから。そんな株を見つけたら、一生のパートナーと思って持つ事だね。俺はそうして来たから、世間様よりも多少は融通の利く生活ができているんだと思ってる。
そりゃ、1億や2億以上持っている人は良いですよ。リスクを取らなくてもインデックスファンドに投資していれば、年8%~15%とか確実視されるんだもんね。
例えばですよ、1億円の株式を年率15%で廻せれば、5年で資産は倍増の2億円。5年で1億円稼ぐのと同じですね。これが10万円だったら、5年で倍の20万円。5年で10万円の稼ぎ。100万円だったら100万円の稼ぎ。元本の大きい人や富裕層には、少額の一般人は同じ手法では勝てないという事。
そんな夢想をしていると、セレが寝室に向かった。俺も適当に切り上げて、彼女の許へ。
ベットに横たわる女房。夏前とは言え、エアコンを効かせないと眠れたもんじゃない。
彼女の横に滑り込む。しばし時間を置いて、おもむろに手を彼女の胸の上に置く。
何も起きない。手の平を下にする。何も起きない。頃合いは良し。
俺はセレの乳房を揉みしだく。しばらくすると彼女が俺に背を向ける。当然俺の腕は引っ張られるように。
そして彼女の左手が俺の急所を思い切り握った。いや,握り潰そうとする意図が・・・




