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21 悪魔の助言


 月曜日から“アンシャンテ”に繰り出した俺と川村。つやちゃんを巡っての綱引きがどうなるのか考えるまでもなく、俺は自分に分があると思っている。彼女の所属する教団の相談に乗ったのは俺。川村さん、あんたは店の客以外でしかない。そんな余裕で訪れた店で、俺への接客は最悪だった。


 殆どの時間つやちゃんは川村の傍を離れなかったし、俺には奈々ちゃんがべったりと張り付いて接客。どうしてこうまではっきり接客担当が決まっているのか疑問でしかない。トイレに行っても、電話に出る為席を外しても対応は全て奈々ちゃんだった。それは俺達が店を出るまで変わらなかったし、帰り際の言葉もつやちゃんからはなかった。


 多少の不満はあったが、あんな事があった後だから、多少の行き違いはあるだろう程度に考えていたが、後で奈々ちゃんに聞いたところ、川村がつやちゃんを自分のものにする為、店のママや奈々ちゃんに金を握らせていた事を教えてくれた。

 俺の感想は彼も頑張っているな程度には思ったが、それ以上の感情は湧かなかった。


 川村やつやとの関係は、その一週間それだけだったが、問題は自宅に潜んでいた。

 俺の食事は平素、昼食は店屋物で済ませて、朝食と夕食をセレが準備していたんだよね。それが月曜から一切準備してくれなくなったの。当然文句を言える立場でもなく、唯々諾々とそれを受け入れて過ごす一週間でした。


 この影響は直ぐに俺の行動に反映された。先ず帰りのパチンコ店や麻雀店へ自然と足が向かった事。火曜日から金曜日にかけて毎日ギャンブル三昧だった。言い訳になるけど、家に帰っても夕食が準備されていないので、店で食べるようになり、俺の体重は結構増えたね。それが証拠にはベルトの穴が一つ増えたんだ。


 そして土日は川口か新橋に通う事に。そんな日々が2週間繰り返され、流石に俺の懐も寂しくなってきたので、俺は恥を忍んでセレに食事の件で相談したんだよ。

 だけど言ってみるもんだね。セレは以前のように朝食と夕食の準備をしてくれるようになったので、俺の金欠も大事に至らなくなりました。多分これが彼女の言っていた処分だな。


 事態が動いたのは、丁度俺がつやのマンションで東密国立宗の相談に乗った一ヶ月後だった。つやから、又マンションに来てくれと俺にメールが入ったからだ。

 蛇足ですけど、ここで一言。俺は〇インを全く使わない。それには訳があるんだ。以前〇インのセキュリティの脆弱性が指摘され、情報の流出が問題になった事があったよね。俺は当時スマホで株式もビットコインもやっていたんで、情報の流出は致命傷になる訳。それで〇インの対策には、全く信用を置いていないんだな。そんな訳で未だにメールやSMSだけを使用している。ホント余計な事ですよね、失礼しました。



 彼女のマンションでは例の5人の男女が待っていた。

「結論は出たんですか?」

 俺は会話の主導権を握る為、初手から先手を取った。


「それが・・・」

 大井が重たい口を開いたが、結論は出なかった模様。それと言うのも矢張りと言うべきか、組織を割って出て成功した例が少ない事をどうも気にしているようだ。

 新々宗教の全てとは言わないが、教団経営は相当金になるらしい。その金づるを手放す気は毛頭ないのだろう。そうなると俺の提案した3案中の一つ、教祖と決別して新教団設立はないな。

 残った選択肢は。教祖を教団から排除して新たな教祖の許で運営か、今の教祖を説得して本旨に戻るのどれか。


「すると後継者は決まっていないの?」

「はあ・・・」

 どっちなの?


「実は教団の出家者の殆どが、小田管長に従うと言っていまして・・・」

「後継者は?」


「そこでご相談なんですが」

 イヤな予感がした。彼等は運営者側で、出家者ではないと伝えられた。それ初めに言ってよ。


「その前に聞きたいんだけど、小田さんを説得は出来ないの?」

「厳しいですね。我々は教団経営だけに携わっておりましたので。まして出家者でもないんです。幹部の大半は抑えているんですが、我々の側に立つ出家者となると・・・」


「いる事はいるんですね?」

「はい。ですが教団の経歴ではとても、とても」

 それじゃ八方塞がりじゃないか。どうやって教団改革を進めようとしていたんだい?


「そこでお願いなんです」

「何ですか?」


「外部からお招きする事は可能でしょうか?」

 俺は二の句が継げなかった。初めに言った通り、アンタ方はマイノリティなんだよ。宗門では異端なんだよ。そんな教団に誰が来るの? 百歩譲って荼枳(だき)尼天(にてん)を本尊とする事は目を瞑りましょう。今でも稲荷信仰と結びついている寺社があるから。しかし、理趣経を所依の経典とするには管長を相当な高僧、大僧正などにしないと、弘法大師空海さんも言っているように、経の本旨を理解できない僧侶に任せたら外道に堕ちますよ。


 仮にそのような有徳の高僧が招聘に応じ、管長に就任したとしましょう。その彼が今の教義に納得する訳がない。彼なりに門徒へ理趣経の本旨を嚙み砕いて伝えるのじゃないかと思っているから、結局彼等の望む教団運営はできないだろうな。

「無理がありますね。理趣経は曲解され易いし、出家者が分かっていても在家の者が理解できるのかな?」


「それは我々に対する非難ですか?」

 又だよ、この人。


「それじゃ、大井さんは経を理解していると」

「それは・・・」


「寺社関係者の私でも理解しているのか疑問に思っているんですから、ましてあなた方が理解しているとは」

 きつい眼つきで大井が俺を見たが、直ぐに下を向いた。そりゃそうだよね。経を読んだ事も、師から学んだ事もないでしょうからね。


「田中さん。本当に困っているんです。何とか参考になる道を私達に示してくれませんか?」

 つやが静かになったリビングの中で、俺に懇願した。

「そう言われても直ぐにはね・・・」

 それじゃ俺に丸投げじゃないか。どんな方法があるのか試々看していると。



「その話し、吾輩にも係わらせよ」

 出てきました、エドの声だ。この声を聴く度に冷や汗が出てくる。

 この案件が貴方に向いているとは思いませんが。


「大丈夫。吾輩向きではないにしろ、それに係わる輩が吾輩向きだから」

 大丈夫ですか? 仏教々団設立に係わる人って、大概悪人じゃないですよ。


「お前も思っているじゃないか。奴等の何処に信仰心がある。あるのは現世の利益か己の名誉、地位栄達だけだろが」

 仰る通りです。ですがそんな彼等でも悪魔に引き渡すなんて・・・


「彼等の魂が欲しい訳じゃない」

 じゃあ、何ですか?


「いい加減飽きたのさ、お前の返答を待つのに」

 それを言われると返答し辛い。返答しようにもセレと喧嘩していたから、二人の話題にも上がらなかったし。


「そこでだ」


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