2 セリーヌが待っていた
今日俺は事務所で、除外申請という書類を作成していて、開発行為をするにあたって、対象地の一部が農地になっており、それを対象農地から外してもらう申請をする訳です。
何でも開発行為は都市部、除外申請は農政部が管轄という事で、様式が全く異なっている。役所は提出する部署が違うと、審査基準も審査期間も違うそうで、先輩からは前者は半年、後者は一年半掛かると言われた。
そのような書類作成を事務所で一日していると、飽きたと言うか俺のサボり癖だね、スタバでコーヒーが飲みたい気分になったんだ。事務所にはコーヒーメイカーがあるので、自分で粉を入れれば直ぐに飲めるんだけど。周りの眼が気になってゆっくり出来ないと言うか。はっきり言うと、事務所ではリラックス出来ないんだ。知らない人の中で、ポツリと過ごす。この半端は孤独感を俺は好むんだが。やっぱりこれはストレスなのかな?
しかし入所したてなので、外出する理由も、指示もないので、唯我慢するしかないか。
そんな日々を過ごしている俺だから、日に日にサボりたいという欲求が沸き上がり、少しイライラが家庭で現れているのかも知れない。流石に事務所では下っ端なので、八方美人を演じているんだけれど。どうしても家庭では、我が儘が出てしまうね。そりゃそうだよね。今まで付き合った彼女は、殆どが素直に俺の言う事を受け入れてくれて、王様気分だったんだけど、今の女房は男女同権で、稼ぎも俺より良い位だから、強気ですよ。
そんな或る日、俺は麻雀帰りで、少し遅く帰宅した。遅いと言っても午前様じゃないよ。面子の一人が警察官で、明日捜査があるから早く切り上げたいとのたまったので、23時には切り上げたんだよ。
家に帰ると、セレは未だ帰っていなかった。じゃなくて、居たんだな、これが。
「只今帰りました、マ・シェリ」
「随分遅かったのね、モン・シェリ。仕事?」
「いや」
「何なの?」
「ちょっとね・・・」
「『ちょっと』って?」
「何でもないよ」
「『何でもない』訳ないでしょ。正直に言いなさいよ。どうせ仕事じゃないんでしょ」
「だから、何でもないって」
「そんな訳ないでしょ。アジメは言ってたわよね。『今度の職場は残業がない』って。違う?」
「そうだったっけ?」
「そうよ。私覚えているから」
「言ったかな?」
「今更、しらばっくれなくても良いわよ。どうせ、麻雀でしょ」
「知ってるなら、聞くなよ」
「良くもそんな言い方が、私に出来るわね」
不味い。彼女を怒らせたかな? 聞こえないよう、小さな声で返した積もりなんだけど・・・ 謝らなくちゃ。
「すみませんでした。麻雀をしていました」
「そら、みなさい。麻雀してたんだ、私をほっぽり投げて」
「そんな訳じゃないんだ。無理やりだよ、面子が足りないって」
「嘘よ。何時も同じ言い訳して」
「本当だって。嘘じゃないから」
「嘘よ。嘘つき」
全然機嫌を治してくれない。
「すみませんでした。今後は二度と致しませんので、どうかお許しください」
俺は畳に額を擦り付けて謝った。そして彼女の許しの言葉が出て来るまで、頭を下げたままにした。ちょっとした沈黙が続いた。重苦しい雰囲気に包まれても、俺の出来る事と言えば、頭を下げる事くらいしかない。時間にしたら30秒ほどだろうか。ようやく彼女のお許しが出た。
「分かったわ。もう嘘はつかないでね」
「はい」
ここは素直に謝罪するしかない。彼女は仕事で疲れているから、仕方ないさ。俺が謝れば収まるんだから。
「食事は済ませてきたの?」
「はい」
「なら、直ぐお風呂に入って。沸かしたけど、時間が経ったから冷めちゃったかも」
「分かった」
そう言って俺は風呂場に直行した。
案の定、風呂の湯は冷めていた。それでも沸かし直せば、充分入れる。この温度からすると、彼女の帰宅は結構早かったかも知れない。風呂から出て、どう彼女のご機嫌を伺えば良いのか。俺は湯船に浸かりながら、ああでもない、こうでもないと思案した。
毎週火、金曜日を目標に書き上げます。




