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「アレク、ピクニックに行かない?」
ある日、ジノはサンドイッチの入ったバスケットを手に、アレクに提案した。
「ピクニック……?」
「うん。実はこの時期の湖畔にしか自生しない薬草があって。採取ついでにどうかなって」
いかにもジノらしい提案に、アレクは口端を緩めた。
「ああ、行こう。確か山の中に湖があったな。そこでいいのか?」
「うん。1人で行くにはリスクが高いけど、アレクがいるなら安心だなって」
(……不思議だな。誰にも何も求められたくなくて全てを手放したのに、ジノに頼られることはこんなにも嬉しいなんて)
「ああ、魔物の相手なら任せてくれ」
そうは言ったものの、ジノも一人で魔の山に入ることには慣れており、魔物たちも本能的に強者であるアレクを避けるので、湖に着くまでにアレクの出番はなかった。
「ふぅ、着いたね!」
「……ああ」
「わ、たくさん生えてる!」
ジノは湖畔の薬草に駆け寄り、採取を始めた。その手つきは繊細で、薬草の細い茎や葉を傷つけないように丁寧に作業している。
アレクは手伝おうとしたが、自分の大きく硬い手を見てやめた。
(俺の手は、何かを壊したり奪ったりしかできないだろうな)
「アレク?こっちに来て手伝って〜!想像していたより量が多いんだ」
言われてアレクは薬草を踏まないように慎重にジノに近づく。
「ジノ、俺は粗暴で器用ではないからうまくできないかもしれない」
アレクがそう言うと、ジノはきょとんとした後くすくすと笑った
「何言ってるの。いつも優しいじゃない。僕に触るときみたいにそっと薬草を摘んでみて。少しくらい傷がついても問題ないから」
アレクは耳の端を赤くした。ジノに触れる時に傷つけないために慎重になるのを優しさだと受け取られ、気恥ずかしかった。
「ほら、こうやって、この辺を折って……」
ジノはアレクの大きな手を包むように外側から触って薬草の摘み方を教えた。
「ね、傷つけずできるでしょ?」
ジノが嬉しそうに顔を上げると、アレクの熱っぽい瞳と目が合った。
「……汗をかいたようだから、先に湖で顔を洗ってくる」
そう言ってアレクは逃げるようにジノから離れ、残されたジノはまだアレクの手の感触が残る指先を握りしめた。
***
二人で無心で作業し、あらかた採り終えるとジノは立ち上がった。
「ありがとう、アレク。助かったよ。さ、お昼にしよう」
「ああ」
ジノはバスケットを開け、中から色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチを取り出した。
「アレクはこっちね」
そう言ってジノは持ってきたそれぞれの皿にサンドイッチを積み上げていく。アレクに差し出したほうには肉が挟まっているものが多く、ジノのものは野菜やチーズなどシンプルな具材が多い。
「もっと肉を食って体力をつけたほうがいい」
そう言ってアレクが肉がいっぱい挟まったものをジノの皿に移すと、ジノは無意識だったようで、何かをひらめいたようにそれもそうだと呟いた。
「確かに、肉を食べないとふらつくからね。アレクが来てから調子がいいのは食事も原因なのかもしれない」
そんなことを言い出すジノに、アレクは頭を抱えたくなった。
「全く、一体どんな食生活をしていたんだ……」
じとっと見つめるアレクに、ジノは曖昧にほほ笑んだ。
「まあまあ、ほら、おなか空いたから早く食べよう」
アレクは釈然としない気持ちながらも、ジノに促されてサンドイッチを一口ほおばる。
「うまいな……」
飲み込んだ後感心したように呟くアレクに、ジノは誇らしげに笑んだ。
「ハーブを入れてみたんだ。肉が多くても脂っこくないでしょう?」
「ああ、いくらでも食べられそうだ」
「ふふ、アレクの胃袋を掴んじゃったかな?」
「そんなのは、前からだろう」
ジノは冗談のつもりで言ったが、当たり前のように真面目なトーンでアレクが返し、ジノは耳の端を赤くして俯いた。
「そ、そう……」
***
ピクニックから帰った夜、ジノは一人寝室で思い悩んでいた。
(アレクと一緒にいるとなんだかむずむずしてペースが乱される。エリックには嫉妬しているなんて言われたし、距離が近すぎるのかな。でも、離れるのは……ちょっと嫌だな)
「ん~」
ジノは布団の上で足をばたつかせた。
(友だちって難しいな。だれか相談できる人がいればいいんだけど、街の人たちはすぐに恋愛に結びつけようとするし……。そういえばアレクって、恋人とかいないのかな?最近は髪を整えたり、髭だって一本もないし、気を遣っているみたいだけど、実は恋人のためだったりして?……いや、やめよう。らしくもない)
ジノは考えないようにしようと割り切ろうとするものの、もやもやする気持ちのまま眠りについた。




