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「で、元勇者様がジノに何の用ですか?」
エリックは先ほどまでの笑顔を消し、アレクに質問した。
「……今はただのアレクだ。それに、特に用があるわけではない」
「ほぅ、用がないのに付き纏っていると」
「そういう訳では……」
(確かに、ジノと一緒にいることに、理由がある訳ではない。ただ、なんとなく離れがたくて居ついてしまっているだけだ)
「ジノは両親がいなくて後ろ盾がないのは知っていますか?」
「……ああ、なんとなく」
「だから付け入りやすい、なんて考えなんじゃないですか?」
「っそんな訳がないだろう!そもそも俺たちはただの友人だ」
「家に泊まって、あんなあからさまに事後みたいな格好させておいて?」
「あれは……ゴホン、とにかく、誤解だ。体の関係はない」
アレクがそう言うと、エリックは意外そうに片眉を上げた。
「なるほど、確かに街の奴らとは違いそうですね」
「っ街の奴らがジノに何かしたのか!?」
アレクは思わずエリックの肩を掴んだ。
「!いえ。ただ、奴らがだぼだぼの服を着たジノを前にお行儀よくしていると思いますか?」
「……そういうことか。すまない」
アレクは正気に戻ってエリックから手を離した。
(まあ、この調子ならジノに害になることはしなさそうだし、むしろ番犬として役立ちそうだ)
エリックがそんなことを考えていると、アレクはそわそわとした様子で、ずっと気になっていたことを口にした。
「ところで貴殿はジノとどういう関係なんだ?」
「ああ、僕は商人なんです。ジノからは薬を仕入れたり、逆に瓶を売ったりの関係ですよ。あなたと同じで、怪我をしているところをジノに助けられたことがあるので、ちょっと贔屓しているんです」
「なるほど、商人か。どんなものを売っているんだ?」
「日用品から贈答品まで幅広く扱っておりますよ!あ、香油や避妊具なんていかがですか?田舎街の商店には置いていない高品質のものも取り揃えています!」
「〜〜!!?」
アレクは声にならない叫びを上げ、首まで真っ赤になった。
「ちなみに、次にここに来るのは3ヶ月先を予定していますが、不測の事態があればもっと遅れるかもしれません。アレクさんはジノのお友だちですし、サービスしますよ」
(ジノとそんな関係になるつもりはないが、万が一、万が一の場合に備えておくのは悪いことではないはずだ)
「……頼む」
アレクは数十秒、湯気が出そうなほど真っ赤な顔で、消え入るような声で言った。
「毎度あり!」
***
「2人とも、何を話してたの?」
アレクとエリックが家に戻ると、ジノはすでに食べ終わったらしく、自分の服に着替えて食器を洗っていた。アレクは購入した荷物を隠すように椅子の背もたれに置き、席についた。
「……特にこれといった話はしていない。自己紹介程度だ」
「そうだよ。あとは少し日用品を融通したくらいだ」
エリックがそう言うと、アレクは余計なことを言うなと少し睨みつけた。
「ふーん」
ジノは興味があるのかないのか、気の入っていない返事をした。
「あ、アレク、ご馳走様。君も朝ごはん食べなよ。エリックは納品する薬を検品して。今回はアレクが手伝ってくれたから多めだよ」
「ああ」
「はーい」
アレクは椅子に座り、冷めてしまったスープに口をつけ、エリックは鼻歌混じりにジノの薬を一本ずつ確認しながら空間魔術で内部が拡張された鞄に収めていく。
「僕は少し裏庭の薬草を見てくるね」
(先ほどジノは、今日はゆっくりすると言っていたはずだが、気が変わったのか……?)
アレクがジノが裏口から出ていく背中を見ていると、エリックはにやりと口端を上げた。
(半分冗談で売りつけたけど、案外早くに出番があるかもしれないな)
「様子を見てくる」
アレクはかき込むように自分の作った朝食を胃に収め、ジノの後を追った。
「いってらしゃい〜」
エリックは面白いことになったと検品する手を止めることなくアレクを見送った。
***
「ジノ、今日はゆっくりするのではなかったのか?」
アレクが庭の隅でしゃがみ込んで薬草の様子を見ているジノに声をかけると、ジノはピクリと反応した。
「……気が変わったんだ。君はゆっくりしてていいよ。エリックとも気が合いそうじゃないか。話でもしてきたらどうだい?」
「いや、作業をするのなら手伝う。俺は特に彼と気が合うなんて思わないし、話すことなどない」
「……そう」
アレクがそう言うと、ジノは無意識に詰めていた息を吐いた。
「……やっぱり、店の中で休もうかな」
ジノがそう言ったとき、タイミングよく店の裏口の扉が開いた。
「ジノ、検品終わったよ!僕は街の方にも用があるからもう行くよ!お代は瓶代を差し引いた分をカウンターに置いとくよ」
「分かった!ありがとうエリック!……アレク、戻ろうか」
「ああ」
2人が店に戻ると、カウンターの上に代金と一緒にメモ書きが置いてあった。
「なんだろう?」
ジノはそれを手に取って見るなり、くしゃくしゃに丸めて捨ててしまった。
「なんて書いてあったんだ?」
アレクが驚きつつ聞くと、ジノは視線を彷徨かせながら口を開いた。
「ええと、軽口が書いてあっただけだよ。」
ーーー
ジノへ
邪魔して悪かったね。まさか君の嫉妬が見られる日が来るとは。末長くお幸せに
エリック
ーーー




