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「あ、本当にこんなところにいた。探したのよ〜?」
ある日ジノの店のドアを開けたのは、派手な赤い髪に長いまつ毛に囲まれた気の強そうな赤い瞳、スタイル抜群の体にタイトな服を身に纏った女性だった。
「ええと……どちら様でしょう?」
ジノが困惑気味にそう言ったのとほとんど同時に、掃除をしていたアレクが隠すかのようにジノの前に立った。
「何しに来た、ナナリー」
低く威圧するような、ジノが聞いたことのない声でアレクが言う。
「あら、久しぶりに会うのに随分な態度じゃない。ちょっと顔を見に来ただけよ。可愛い子ちゃんのね」
「……」
アレクは何も言わずにそばに置いてあった剣を手に取った。
(可愛い子ちゃん……!?流れからしてアレクのことだよね……?もしかして、恋人とかなのかな?)
ジノがナナリーを見ようとすると、アレクがすかさずそちらに体を動かして阻止する。
(僕には見せたくないってこと?)
その事実にジノは軽くショックを受けた。アレクは今までジノがすることを制限したことはなかったからなおさらだ。
「今すぐに出て行け」
アレクは氷のように冷たい声で言った。勇者のプレッシャーに、ジノは自分が向けられたわけでもないのに背中に冷や汗をかく。
「やん、怖い。まあいいわ。これで諦めたと思わないことね」
一方でナナリーは楽しそうに悪役のようなセリフを吐いて店から出ていった。
「ジノ、驚かせてすまない。あいつのことは忘れてくれ」
「あ、うん。大丈夫。顔もあんまり見えてないから安心して」
焦った様子のアレクに、ジノはどこか上の空で返事をした。
チラッと見えたナナリーはとても美人で女性らしかった。
(アレクはああいう女性が好きなのかな?僕に見せたくないのは独占欲?)
***
ナナリーは度々薬屋にやって来てはアレクに追い返されてを繰り返した。
ある日、ジノが買い物に出ている間にナナリーが店に来たらしく、店の中からナナリーの声がした。
ジノはピタリとドアを開けようとする手を止めた。
(もし2人が恋人だったら、邪魔しちゃ悪いよね。アレクは僕とナナリーさんを合わせたくないみたいだし)
そんなことを考えていると、意図せず会話が聞こえてしまった。
「本当に可愛いんだから。王都に連れて帰ったら私の部屋から出さないわ」
「そんなことさせないに決まっているだろう。いい加減諦めろ」
「私の好みドンピシャなの、あなたも分かってるんでしょ?ねぇ、意地悪しないでちょうだいよ」
ナナリーの甘えるような声に、ジノは我に帰ってドアから離れた。
「ジノ……?」
しかし、ジノが僅かに立てた音に気がつき、アレクがジノの名前を呼び、足音がドアに近づいてくる。
ジノは咄嗟に買い物袋を持ったまま店の裏側に隠れた。
「ジノ、こんなところで何をしている?」
アレクは迷いなく裏に回り、ジノの顔を覗き込んだ。
「あ、いや、ちょっと薬草の様子を見ようかと思って。ナナリーさんは?」
「帰った。そんなことより、何をするんだ?手伝う」
「いや、もう大丈夫。それよりお腹空いたな〜」
「……」
そう言って薬屋に戻るジノの背中をアレクはじっと見ていた。
***
ジノは珍しく思い悩んでいた。
アレクとナナリーの関係が気になるし、アレクがナナリーと王都へ行かないのは、自分が手伝いを頼んでいるからじゃないか、などと負い目を感じはじめていた。
そして思いついたのが、お酒の力を借りてアレクに直接聞くことだった。
アレクが食器を洗っている隙に、買っておいた酒をちびちびと、ジノなりに急いで飲む。
「ジノ?何をして……これは、酒か?」
食器を洗い終わったアレクはすぐに机の上に置かれている見慣れない瓶に気がついた。手に取り、ラベルを見て顔を顰める。
「度数が高いな。量は……まだそんなに飲んでいないか。ジノ、体調は?」
「ん、大丈夫」
「そうか。どうしたんだ?何かあったのか?」
アレクはジノの隣に腰掛けて優しい微笑みと声色で問いかけた。
ジノの胸がとくんと高鳴る。
(あれ、もう酔ったのかな?なんかドキドキする)
「アレクは、ナナリーさんみたいな人が好きなの?」
するんと気になっていたことが口から出てきて、ジノは自分で驚いた。アレクも同様に驚き、切長な目を見開いた。それから、嬉しそうに目元を緩める。
「ナナリーのことは好きでもなんでもない。ただの元同僚だ」
アレクがそう言うと、ジノは安心したようにため息を吐いた。
「それじゃ、恋人じゃない?」
「ああ、当たり前だ。そもそも、俺に恋人なんていない」
「……そんなかっこいいのに?」
首を傾げるジノに、アレクは心臓がギュンと大きく跳ねた。
「……ああ。……ジノは?」
「はは、いないよ。偽物の恋人以外はね?」
そう言ってジノは街の人たちに恋人だと演技した時のように、アレクの指に自分の指を絡めた。




