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祭り当日、ジノはいつも通りのラフな格好だったが、アレクはいつもより少しいい生地の服で、髪もいつもより整えていた。
(ジノの恋人の座を狙う奴は多いから、ジノを守るためには腑抜けた格好で隣に立つなんてできない)
(アレク、もしかして気になる人でもできたのかな?)
そんなすれ違う思いを抱えながら、2人はいつもより華やかで賑やかな街に向かった。
通りには屋台が立ち並び、広場では酒が振る舞われている。
ジノとアレクが屋台でいくつか食べ物を買い、広場の隅っこで寄り添うようにお酒を飲んでいると、数人が近づいてきた。中年の男と、その後ろに若者たち。
「よっ、お二人さん。仲良くやってるか?馴れ初めでも聞かせてくれよ」
「ハンスさん、もう酔っているんですか?顔が真っ赤ですよ」
ジノが話を逸らそうとしたが、アレクはハンスの後にいる多くがジノを狙っている若者だと気がついた。ついでにアレクを祭りに誘ったリリーの姿もある。
(相変わらず恋人ではないと疑っているのか、掠め取る隙があると思っているのか……。ジノが以前言っていたが、確かにしつこいな)
ふと、アレクは隣のジノが強く手を握りしめていることに気がついた。次の瞬間、アレクはジノの肩を抱いて自分の方に引き寄せた。
「崖から落ちたところをジノに手当てしてもらった。俺の一目惚れだ」
「ア、アレク……!?」
(ジノ、大丈夫だ、安心しろ)
(ち、近いよアレク……!)
アレクはジノを安心させるよう微笑んだが、ジノは至近距離で整った顔立ちのアレクの優しげな眼差しを浴び、顔を真っ赤にする。急に酔いが回ったような心地だった。
「……っジノはどうなんだ?」
若者の一人が焦ったように聞いた。
「どうって……」
「その大男のこと、本当に好きなのか?脅されていたり、流されたりしているだけなんじゃないのか?」
そんなふうに言われて、ジノは瞬時に照れをなくした。肩を抱くアレクの手に自分の手を重ね、若者たちを真っ直ぐに見て答える。
「僕は自分の意思でアレクを選んでいますよ。こんなに素敵なんだから、好きにならない方がおかしいと思わないですか?」
言いながら、ジノはアレクの指に自分の指を絡める。
そんなジノに、今度はアレクが耳の端を赤くした。
(素敵だなんて言われれば、やはり世辞だとしても照れるな。それに、ジノの指……細くて、加減を間違えれば折ってしまいそうだ)
ジノの手は骨張っていて十分男らしいが、アレクの手と比べたら華奢だ。アレクは怪我をさせないようにそっとジノの手を握り返したが、村人たちには、それが慈しみ故の慎重さに見えた。
「そういう訳だ。今後はそういった誘いはしないでくれ」
アレクが言うと、若者たちは消沈したように去って行った。
「いやぁ、なんだか悪かったな!あんた、アレクって言ったか?中々見どころがある男じゃないか!ジノを頼んだぞ!」
上機嫌に笑いながらハンスも去ると、ジノとアレクの周りは静かになった。ただ、他の住民たちも聞き耳を立てていたようで、好奇な視線が多く向けられている。
「ジノ、家に戻るか?」
囁くように低い声でアレクが聞くと、ジノは小さく頷いた。
「……うん」
***
「う〜、恥ずかしい……!」
家に着くと、ジノはリビングの机に突っ伏した。
「いい演技力だったじゃないか。まるで王都の劇団員のようだったぞ」
「揶揄わないでくださいよ……。アレクだって、一目惚れなんて言うから驚きました。適当に流しておけばよかったのに」
「だが、そのおかげで彼らは信じただろう。ジノ、水を飲め」
「水?」
「酔っているだろ」
「え?そうですか?」
ジノは酒を飲む機会が極端に少なくて自分で気がついていなかったが、下戸だった。街から家に歩いたことで酔いが回ったらしかった。アレクはテキパキとコップに水を注いでジノに渡した。
「顔が赤いし、最近は俺に対して敬語は使っていなかっただろ?」
「あれ?敬語だった?」
ジノは素直にコップを受け取り口をつけたが、飲みながら口の端から水を溢してしまう。水は首や鎖骨を伝ってシャツを内側から湿らせた。薄い黄緑色の服が、水を吸ったところから濃く変わっていく。
飲んだうちの4分の1ほどを服にこぼし、ジノは再び机に突っ伏した。
「ジノ、ここで寝るな。ベッドに行け」
「んー……」
すでに半分ほど目を閉じているジノに、アレクはため息をついた。そして、ジノの背中と膝の裏に腕を回して、持ち上げた。
「ん……」
ジノは抵抗するどころか、アレクの胸に頬を擦り寄せた。
「……」
アレクは低く息を吐き、ジノの寝室へと歩きはじめた。




