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「はぁ……」
男たちが去った後、ジノはさっぱりとアレクから離れ、大きなため息を吐いた。
「演技に付き合ってくれてありがとうございました、アレクさん」
「いや、構わん」
「何人かしつこい人がいたので、ちょうど良かったです」
ジノは何気なく言ったけれど、アレクはなんとなく、ジノが1人で街から少し離れたところに住んでいることと関係があるような気がした。そして、そんなジノの元に自分が居続けていいのかという疑問が湧く。ジノは元々アレクの怪我が治るまでいればいいと言っており、すでに怪我はすっかり治っている。恩返しとしての手伝いを口実にするにしても、長すぎる。
「もし本当に邪魔なら出て行くから、言ってくれ」
アレクがそういうと、ジノはすごい勢いでアレクを振り向いた。
「邪魔じゃありません!」
叫んでから、ジノは自分の声に驚いたように動きを止めた。それから穏やかなトーンで話し始める。
「僕、同年代の人と仲良くするのが苦手なんです。でも、アレクさんと一緒にいるのは落ち着くし、楽しくて、友だちってこんな感じなのかなって、思ったりして。だから、アレクさんがいなくなっちゃうのは寂しいです」
(先程の感じを見ても、ジノが友だちのつもりでも、相手は恋愛対象として好意を抱くことが多かったのだろうな。まあ、ジノの見た目では無理もないだろう)
そしてまた、アレクも対等な友だちという関係に飢えていた。勇者時代に向けられたのは主に期待か恐怖、羨望といったものだった。
「友だちなら、もっと気楽にすればいい。呼び捨てでいいし、話し方も敬語はいらない」
アレクがそう言うとジノは目を輝かせた。
「……いいの?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとう、アレク!わーい、友だちとして、改めてよろしくね!」
ジノは上機嫌で鼻歌混じりに作業に戻った。
(友だち、か。悪くない響きだ)
アレクもまたどこが浮ついた気持ちで薪割り作業に戻っていった。
***
「あ、あの……っ」
ある日、アレクが街にジノが作った薬を届けに来たときのこと、一人の若い女性が顔を赤くしながら声をかけてきた。
アレクはまたか、と内心でため息をつく。
「ジノに用があるなら、本人に直接言ってくれ。伝言は断るように言われている」
一応街ではジノとアレクは恋人同士ということになっているはずだが、信じていないのか、男同士だから付け入る隙があると思われているのか、一定数ジノへのアプローチを続ける住人がいた。
「あの、そうじゃなくて……」
アレクが首を傾げると、女性は赤い顔のまま口を開いた。
「その、今度街でお祭りがあるんですけど、よかったら、一緒に回ってもらえませんか……!」
予想外の答えに、アレクは一瞬フリーズする。
(これは、俺に好意があるということだろうか……?)
「いや、俺は祭りなど行かな……」
「当日、待ってますから!」
女性はアレクの言葉を遮り、そう言って赤い顔のまま走り去ってしまった。
***
「へぇ、誰だろう。名前は聞かなかったの?」
アレクが祭りに誘われたと話しても、ジノはさっぱりとした様子だった。薬草を仕分ける手を止めずにアレクに質問する。
「ああ、聞く暇もなかった」
「可愛いかった?」
ジノが聞くと、アレクは少し言葉を詰まらせ、ぼんやりとした記憶を手繰り寄せて答える。
「……そうだな、小さくて、茶色い髪の艶はよく、肌のハリもあったような気がする。筋肉はあまりなさそうだったな」
ジノは獣の観察のような言い草にぽかんとした後、くすりと笑った。
「小柄で茶髪、アレクに話しかける勇気があるなら、リリーさんとかかな。少し思い込みが激しいところはありそうだけど、悪い人じゃないと思うよ。もしアレクがいいと思うなら行ってみたらいいんじゃない?」
アレクは少し考えてから答える。
「……いや、変に期待させても失礼だろう。それに、街の人たちには俺たちは恋人ということにしているだろう。明日、改めて断りに行ってくる」
「それもそうか。……それなら、僕と一緒にお祭りに行く?」
意外な申し出に、アレクは目を瞬かせる。
「祭り……ジノは行きたいのか?」
「いつもは行かないけど、アレクはたまには僕以外の料理を食べたりお酒を飲んだりしたいんじゃない?」
(特に食べ物や酒に魅力は感じないが……)
「……そうだな、興味はある」
「それじゃあ、行こうか。確か来週だったはずだから、それまでに仕事を片付けないとね」
ジノは仕分け終わった薬草を束ね、凝り固まった肩をほぐすために伸びをした。




