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「うわ、眩しい!」
ダニエルに怪しまれていたと知ったアレクは、せめて見た目だけでも怪しさを払拭しようと、髪を整え、髭も一本残らず剃った。
かつて国宝とまで言われた整った顔立ちが顕になると、ジノはまともに直視できなかった。
それを受けて、アレクの空色の瞳は自信なさげに伏せられる。
「やはり、変だろうか」
アレクの呟きは、途方に暮れた迷子のような響きを帯びていた。
(もう地位も何もないはずなのに、何故、俺の顔には過剰な反応が返ってくるのだろうか。性格の悪さが滲んでいるのだろうか)
「変じゃないです。ただ素敵だから見惚れていただけですよ」
ジノが穏やかに言うと、アレクは目を丸くした。
(素敵……?それはジノのような男のことを指す言葉だろう)
ジノは王都にいれば毎日山のようにお見合い写真が送られてくるほど整った顔立ちをしている。
色素の薄い茶髪に穏やかそうな緑色の瞳、中性的という訳でもないけれど男臭さのない優しげで整った顔立ち、筋肉はついているけれど細身な体。
もちろんアレクの見た目も抜群に整っているが、今まで褒め言葉は全て勇者としての自分に向けられているものだと解釈してきたため、アレクの勇者ではない1人の男としての自己評価は驚くほど低かった。
「無理に褒めなくていい。薪を割ってくる」
そう言って背を向けようとするアレクの頬をジノは両手で包み込んで自分の方に向けさせた。
「正直に言いますけど……客観的に見て、煌めくような金髪も、宝石のような青い瞳も、高い鼻も薄い唇も、シャープな頬も、頼り甲斐のある大きな体も、とびきりかっこいいですよ。でも、僕はアレクさんの少し不器用で真面目なところが一番好きです」
「な……!?」
「低すぎる自己評価は搾取される原因にもなりますから。ちゃんと自分を認めてあげてくださいね」
アレクの頬から手を離した後、ジノはどこか線引きするような淡々とした声でそう言った。
「さ、薪割りお願いします!僕も薬草の仕分けをしなくちゃ!」
アレクが違和感を覚える前に、ジノはいつもののんびりしたトーンに戻り、店の奥へと戻っていった。
***
トントントンッ
「は〜い、どうぞ」
ある日のこと、ジノの薬屋に珍しくノックの音が響いた。
(誰だろう。いつもお客さんはノックなんてしないのに……)
ジノが扉を開けると、そこにはダニエルをはじめとした街の人たちの姿があった。それも、青年から中年までの男性陣だ。
「どうしたんですか?」
ジノが驚いていると、ダニエルが前に歩み出た。
「ジノ、あいつはどこだ?」
「あいつ?」
「あの大男だよ!」
ダニエルが言った瞬間、外からどよめきの声が上がる。薬屋の裏で薪割りをしていたアレクが何事かと様子を見にきたのだ。
「おいダニエル!話が違うじゃねぇか!どこが毛むくじゃらの怪物なんだよ」
「もしかしてどこぞの騎士様じゃねぇのか?どうしてこんな田舎の街にいるんだ?」
「ジノ、こんな色男を捕まえたのか!流石だな!」
男たちが口々に囃し立てる。
「な、何を言って……!ジノ、あの男は……?」
ダニエルは狼狽えて縋るようにジノを見た。
「この間もいたじゃないですか。アレクさんですよ」
そう言うとダニエルは目を剥いた。今のアレクは髪が短く整えられ、髭も剃られていて整った顔立ちが顕になっている。
アレクは男たちの視線に居心地悪そうにしながらジノの隣までやって来た。
「で、何しに来たんですか?」
「いや、その、俺はてっきりジノが悪い男に騙されているんだと思って……」
「追い出しに来たんだよ!」
「ジノに何かあったら困るからな!」
歯切れの悪いダニエルの代わりに男たちが答える。中には、未だアレクを快く思っていない男たちもいるようだった。主に、若く、ジノに好意を寄せている青年たちだ。
アレクはジノの家に居座っている自覚があるので、視線を下に向けて所在なさげにしている。ジノはそんなアレクの腕に甘えるように寄りかかった。
「うーん、でも、アレクさんがいなくなったら僕が困ってしまいます」
言いながらジノは艶っぽい視線をアレクに向ける。アレクはアイコンタクトでジノの意図を理解し、ジノの腰を抱き寄せた。
「……俺もジノのそばを離れるつもりはない。もしどうしても去らなければならないなら、ジノも連れて行く」
(アレクさん……!そこまでの演技は求めてなかったんだけど……)
体が密着し、ジノは思わず頬を赤く染めたが、それを見て村人たちは2人が恋仲だと確信したらしかった。口笛を吹いたり、お幸せに、などと言いながら街の方へ戻って行った。
数人、アレクを睨みつけるようにしている若者たちがいたが、アレクが睨み返すと渋々といった様子で街の方へ歩いて行った。




