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「アレクさん! またそんな薄着で外に出て!風邪をひいたらどうするんですか!」
ジノの怒ったような、けれど心配の滲む声が庭に響く。
足の怪我がすっかり良くなった後も、アレクはなんとなくジノの家に居着いていた。私物も多くはないが持ち運んできている。
元勇者のアレクからすれば、これくらいの寒さはどうということはない。だが、ジノはすかさず家からカーディガンを持ってきて、アレクの肩にかける。
しかし、ジノのカーディガンは体格のいいアレクの肩に引っ張られて形を変えてしまっている。見かねたアレクはカーディガンを脱いでジノに返す。
「俺はこれくらい平気だ。頑丈さだけが取り柄だからな」
「そういう油断が大敵なんです。」
(……過保護な薬屋だな)
アレクは苦笑しながら、家の中に自分の上着を取りに戻った。
これまでは自分がどうなろうと知ったことではないと諦めていたのに、こうしてジノに小言を言われると、不思議ともう少し生きてみようという気持ちにさせられるのだった。
それに、アレクから見れば、ジノこそ放っておけない男の筆頭だった。
***
数日後。二人はかねてからの約束通り、魔の山へ薬草摘みに来ていた。
アレクが周囲に鋭い視線を走らせ、魔物や獣の気配を警戒している一方で、ジノは完全に薬草モードに入っていた。
「あ! あっちに珍しい薬草の群生が……! アレクさん、ちょっと待っててくださいね!」
「おい、ジノ。そっちは斜面が――」
アレクの制止も聞かず、ジノは目を輝かせて足を踏み出す。そして案の定、斜面に足を滑らせた。
「わ、わわっ!?」
次の瞬間には、アレクの身体が動いていた。
全盛期の勇者さながらの素早さでジノの腰を抱き寄せ、そのまま自らの体で包み込むように抱きしめた。一歩間違えれば、今度はジノが崖下に転落するところだった。
「ひゃあ……っ」
アレクの広い胸の中にすっぽりと収まったジノは、目を丸くして心臓をバクバクさせている。
アレクは、腕の中の青年が無傷であるのを確認すると、深くため息をついた。
「ジノ。お前は薬草のことになると周りが見えなくなる。気をつけろ」
「す、すみません……」
ジノは確かに浮かれていたと萎れた。アレクは至近距離で聞こえるジノの声に驚いて、慌てて体を離す。
(細いな。力を込めれば簡単に折れてしまいそうだ。)
今度こそ気をつけながらもるんるんで薬草を摘み始めたジノの隣で、アレクの胸には言いようもないもやもやが広がっていた。
***
「ジノ〜、元気にやってるか?」
ドアベルの音とともに街外れのジノの薬屋にやって来たのは、顔馴染みの中年の男だった。
店内にジノの姿はなく、大きな体を丸めるようにして掃除をしているアレクと目が合った。
(な、なんだこの大男は…!?髪も髭も伸び放題で、ジノは浮浪者でも拾ってきたのか?押しに弱いジノのことだから、勝手に住みつかれて追い返せないのかもしれない)
中年の男がそんなことを考えていると、店の奥からジノがひょこっと顔を出した。
「お客さん?あ、ダニエルさんいらっしゃい」
のほほんとした雰囲気のジノに中年男改めダニエルは駆け寄る。
「あの毛むくじゃらの大男は何なんだ?いつからいる?脅されてるのか?」
小声で捲し立てるダニエルに、ジノはぽかんとした後くすりと笑った。
「アレクさんです。ゲガをしてたところを助けて、恩返しに働いてもらっているんです。彼、すごく力持ちなんですよ」
(そりゃ見りゃ分かる!だから危ないんだろう!細身なジノじゃ、もし何かされたら抵抗できないじゃないか)
「身元が分からない奴を雇うのは危険だ。追い出した方がいい」
「うーん、確かにアレクさんが元々何してたのか知らないな。魔の山にいたし」
(魔の山だって!?近くに住んでいても誰も寄りつかない危ない山に1人で?怪しい。怪しすぎる。重罪の逃亡犯とかじゃないのか?そういえば、顔も髪や髭で隠しているな……!)
ダニエルの頭の中ではアレクが極悪非道の超危険人物として完成された。
「ジノ、しばらく家に来い。かみさんには俺が説明してやるから」
「えっ!?一体どういうことですか?」
「いいから!早く来い!」
ダニエルは恐怖と焦燥からジノの腕を掴んで強引に引っ張ろうとした。その頭に暗い影が落ちる。
「何をしている」
「ひっ!?」
アレクは小声でジノに何かを熱心に捲し立てるダニエルを不審に思っていて、ダニエルがジノに触れた瞬間に近づいてきた。
男は"極悪人の大男"に背後に立たれた恐怖で凍りつき、ジノから手を離した。
「ジノ、こいつは不審者か?」
アレクは眉を寄せてそう聞く。
(不審者はお前だ!すまん、ジノ!一時退却だ!)
ダニエルは心の中で叫び、転げるようにして店を出て行った。
「……何だったんだろう。ダニエルさん、薬が必要だから来たんじゃないのかな?」
ジノは静かになった店内でぽかんと呟いた。




