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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第55話 人を呪わば穴二つ

 光がはじけ、呪いが解かれる。魂をはがす呪いを取り込んでいたことで、魔物化への呪いも、魂をはがす呪いも、どちらもが同時に、蒼生の愛する者──千尋からの抱擁で、呪いが蒼生の体から消えた。


「私は、蒼生がいいの……。どんな姿でも……私の蒼生なら、それでいい……。」

 千尋は優しく、蒼生の背中に耳をつけた。


 その瞬間、空気が、音を立ててねじれた。

 人を呪わば穴二つ。その言葉通り、呪いが、反転した。


 まず、蒼生ほど抵抗する力のなかった魔塔の賢者たちは、呪い返しを受けたことで、より強力になった呪いにより、過去のトラウマを呼び起こされ、体感時間的には永遠ともいえる長さにも似た苦しみを、何度も繰り返された挙句、一瞬で魂が抜けて行った。


 魔塔の賢者たちの体が一斉に硬直し、悲鳴を上げる間もなく、体から魔力が抜け、目を見開いた。魂が強制的に体から引き剥がされ、青白い光となって体を離れていく。

 数十人の賢者たちの魂を失った体が、人形のようにその場に崩れ落ち、息絶えた。


 そしてその魂は、異世界へと通じるゲートへと、引き寄せられるように次々と吸い込まれていく。青白い光の粒が、夜空に舞い上がり、渦の中心へと消えていく。異世界へのゲートは、蒼生の代わりに魔塔の賢者たちの魂を連れていったのだった、


 呪いは依頼主であるルーク王子たちも逃さなかった。呪いが反転した瞬間、直接的に呪いをかけたわけではなかった為、体から魂が離れこそしなかったものの、ルーク王子たちの脳内に、過去のトラウマが何倍にも増幅されて雪崩れ込んだ。


 ──幼少期に第二王子と比べられ、その不出来さを陰ひなたにののしられた記憶。

 自分が聖女を追い求め、アマルソフィアを「悪女」と決めつけ、追い詰め、国を危うくした罪。

 そして今まさに目の前で、抱き合って涙している、聖女アリシアと、アマルソフィアの姿。


 二人はルーク王子を見下ろし、静かに、しかし容赦なく言葉を重ねてくる。


「愛してもいない相手が、しつこくプレゼントを贈ったり、逃げられないように愛の巣まで買ったのよ。」


「私は最初からあなたを愛していなかっただけ。私が愛しているのはアマルソフィアなの。」


「アマルソフィアが私を苦しめたということ自体、私を手に入れたかったあなたの幻想よ。」


「仕方がないから2人して他国にまで逃げたのに、追いかけて来るとか、どういう了見なの?」


「私とアマルソフィアが入れ替わったですって?妄想もたいがいにして欲しいわ。」


「うわああああっ!? やめろ……やめろおおっ!!」

 ルーク王子は地面を這いずり、頭を抱えて叫んだ。幻覚は止まらない。

 アリシアがアマルソフィアの頰に頰を寄せ、優しく髪を撫で、ルーク王子を完全に無視して微笑む姿。

 幻覚の中で、アリシアの姿が、アマルソフィアを優しく抱きしめて、互いに微笑み合う。

 ルーク王子を見下し、ののしる姿を、容赦なく見せつけられ、現実として何度も何度も繰り返し突きつけられる。


「違う……違うんだ……!アリシアは俺を……俺を愛していたはずだ……!アマルソフィアが操っているんだ……操っているに決まっている……!」

 だが、幻覚の中のアリシアは、ただ静かに首を横に振るだけだった。

「いいえ。私は最初から、あなたを選んでいません。」


 その一言が、ルーク王子の心の中で、長い間積み上げてきた、❝聖女と悪役令嬢が入れ替わっている❞という妄想を、音を立てて砕いた。

 妄想が崩れた瞬間、代わりに押し寄せてきたのは、底なしの虚無だった。

「……ああ……そうか……。」

 ルーク王子の声が、急に小さくなった。


 涙と鼻水とよだれでぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼はただ虚ろな目で空を見上げた。

「……全部、俺の妄想だったのか……。アリシアは……最初から俺を愛していなかった。アマルソフィアを……本当に愛していたのか……。」

 第一王子としての威厳は、完全に失われていた。


 ルーク王子はもう叫ばなかった。ただ、地面に額を押しつけ、小さく、小さく、嗚咽を漏らすだけだった。

「……俺は……何をしていたんだ……。国を……危険に晒してまで……ただの……妄想のために……。」

 ルキウスもホークもアインも、同じように自分の過去の弱さや罪を、強制的に突きつけられていた。


 だが、ルーク王子の崩壊は、特に深刻だった。❝魂が入れ替わっている❞という妄想が完全に砕かれた後に残ったのは、ただの空虚だけだった。

 彼はもう、誰かを責めることも、誰かを追いかけることもできなくなっていた。

 ただ、茫然と、自分の手が空を掴む仕草を繰り返すだけだった。


 だが突然はっとしたように顔を上げる。

「ああ、あそこにいるのはアリシアではなかったのだ。俺のアリシアはどこに行ったんだ……アリシア……戻って……来てくれ……。お前たち、アリシアを今すぐ探すのだ!」


「ルーク王子……。」

 壊れてしまったルーク王子を見て、ようやく幻覚から解放されたルキウスたちは、それ以上声をかけることが出来なかった。




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