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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第52話 ヒロイン聖女のバッドエンド

 結界が音を立てて崩壊する。重力と呪いが、一気に蒼生を飲み込んだ。

「ああああっ……!」

 蒼生は必死に体を支える。しかし、もう限界だった。呪いが、蒼生の脳裏に過去のトラウマを強制的に呼び起こす。


 ──幼少期、病気の蒼生を放置し、粗相を怒鳴りつける母親の冷たい視線。

「あんたなんか母親じゃない。」


 ──父親の浮気。

「私より、浮気相手と作った妹が大事な父親なんていらない。」


 ──千尋を傷付けようとする人間たち。

「千尋は誰にも傷付けさせない……私以外には。」


 ──千尋を失うかもしれない恐怖。

「千尋……待って、私を嫌わないで。私のそばからいなくならないで。」


 蒼生の瞳から、血の涙が一筋流れ落ちる。

『逃げ出したい……元の世界に……戻りたい……千尋の元に戻りたい……こんな体はもう嫌……!』


 呪いが、さらに強烈な欲求を植え付ける。

『千尋と一緒にいた……もとの世界へ……もとの体に戻りたい……。』


 そして最後に、魔力強制排出の呪いが発動した。蒼生の体から、徐々に魔力が奪われていく。体が重くなる。視界が白く霞んでいく。


『……千尋……ごめん……私もう……。』

 苦しめられることに疲れた蒼生が、意識を手放そうとした時、蒼生は自分自身を守る為、既につきかけた魔力の代わりに、無意識に聖女の力を全力で発動していた。蒼生の頭上に、黒い渦がゆっくりと現れた。台風の目のように回転する暗雲。


「な……なんだあれは!?」

「あんな黒い渦、見たことがないぞ……。」

 ルーク王子も遠くから見ていて、顔を歪めた。

「アマルソフィア……!まだ抵抗する気か!」


「やつが何かしようとしているのでは!?」

「気を抜くな!なにかしてくるつもりだ!もっと力をこめるのだ!」

 それを蒼生の抵抗だと思った魔塔の賢者たちは、自分たちがかけた呪いを発動しおえた蒼生の体から、魂が抜け出るのを待ち、これ以上抵抗されないよう、更に重力魔法と呪いを強化していく。


「抵抗しても無駄だ!その呪いは、お前の愛する者に抱きしめられなければ、解かれることのない呪い。呪いを解くカギをお前に与えることで、媒体やこちらへの負担が少なく、呪いを発動させたもの。だが、俺はお前を愛することも、抱きしめることすらもない!呪いを解くことは不可能なのだ!早くアリシアの体を明け渡せ!アマルソフィア!」


 ルーク王子が蒼生に向かって叫んだ。蒼生は、何を言っているの、こいつは、という視線を投げるのだけで精いっぱいだった。


 それは誰も知ることのないもの。異界へのゲートだった。その中心から、異世界へと繋がる光が漏れていた。

 元の世界へと戻ろうとする蒼生の意識と、蒼生の魂を引きはがそうとする魔塔の賢者たちと、聖女の力が混ざり合った結果、蒼生たちをこちらの世界へと連れて来た、異界の門が開いたのだ。


 だが、元の世界に戻っても、蒼生と千尋の体は既にない。にもかかわらず、異界へのゲートは、そこを通るものを受け入れようとしていた。


 頭上へと引っ張られるのを感じた蒼生は、そこで途切れかけた意識を覚醒する。

『こんなところで死ねない……千尋が……捕まっているんだから。千尋を守れるのは、私だけ……!』


 蒼生は息も絶え絶えに、体からほぼ魔力のついえた状態で、神聖力のみで魂を体に保っていた。だがこのままでは身動きが取れない。パルゥの結界もない。蒼生は、神聖力を使って空気中に散った自身の魔力と、大気中に漂う魔素を集め始めた。


 <悠久のロマンスを君と2人で❝1❞>のバットエンドでは、ヒーローたちとの好感度を上げることが出来ず、誰からも愛されず、手を貸してもらえかなったことで、たった一人で魔族と、魔族の手先であった悪役令嬢アマルソフィアと対決することになる。


 <豊穣>の聖女であるアリシアには、ヒーローの手助けなしに魔族を倒すすべがない。絶望の中、それでも聖女として、魔族を倒すべく、たった一人で戦いに挑むのだ。

 おのれの神聖力では魔族を打ち倒せない聖女アリシアが、神聖力を使って自らに呪いをかける。それは魔力を使った呪いよりも、ずっとずっと強いもの。


 神聖な力を呪いに反転することで、何よりも強い触媒とし、その力で化け物へと自ら姿を変える。

 愛されなかった悲しみと、絶望と、神聖力を触媒に、魔族よりも強い力を手に入れるのだ。


 魔族とアマルソフィアとの対決には勝利するが、化け物から姿を戻すことが出来ず、幽閉され、王子たちの誰とも結ばれず、生涯を一人で過ごすというものだ。


 これは、単純に神聖力があれば出来るという呪いではない。聖女アリシア自身の絶望が引き金となる。

 誰からも受け入れられない自分。愛を拒絶されたヒロイン。


 その悲しみが、呪いと相反する神聖力を、呪いへと転換する原動力となる。

 それでも聖女としての使命で、世界を救おうとするのだ。


 聖女にとってそれは、さながら自爆のようなもの。蒼生は、自らそれを、実践しようとしていたのだった。

 魔塔の賢者たちが、蒼生にかけた呪いも流用する。呪いが発動する速度と力を、自身の呪いへと同調させる。


 これで魂が離れる前に、自身がかけた呪いを発動し終えることが出来る。

 蒼生は今、聖女アリシアと同調していた。愛に絶望した、バッドエンドの聖女アリシアに。




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