第51話 蒼生を救え
「……蒼生に、危険が及んでる……?」
「そうらしい。マルカール王国と魔塔が組んでるっぽい。どうする?助けに行くなら、案内するが?」
千尋は縄が解けた瞬間、立ち上がってアズライアンの腕を掴んだ。
「連れて行って!蒼生のところに!」
アズライアンは苦笑した。
「……そう言うと思ってな。呼び出す場所はもう調べてある。ついてこい。」
千尋はアズライアンのエアバイクの後ろに乗って、蒼生が呼び出された場所へと急いだ。
アズライアンは時折振り返り、千尋の様子を確認しながら低く呟いた。
「……いいか?お前を連れて行きはするが、相手は国がバックについてる状態の魔塔だ。危ないと思ったら、すぐに逃げろ。極力守るつもりだが、守り切れるかわからねえからな。」
急ぐ為にエアバイクの速度を上げるアズライアンに、千尋は振り落とされないよう、必死にしがみつきながら頷いた。
「うん……!」
『蒼生を……絶対に助けなきゃ……!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、アクセルは、閉じ込められていた自分の研究室から、ようやく解放されていた。
閉じ込められている間、ずっと叫んでいたアクセルだったが、叫ぶのをやめてしばらくすると、自室軟禁をようやく解いてもらうことが出来た。大人しくしてみせたことで、反省したとみられたのだ。
「大人しくしていたようだな。どうだ?反省したか?」
「はい……もうしわけありませんでした。」
「既に別動隊が聖女の体を奪った女を呼び出している。他の連中は既に現場に向かっている。お前も早く準備をして合流するんだ。」
「はい、わかりました……。」
アクセル──健吾は、蒼生を救う最後のチャンスだと思いながら、手早く準備を済ませて、蒼生が呼び出された場所へと急いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
蒼生は呼び出された場所に向けて全速力で駆け抜けていた。賢者の風魔法を全身に纏い、木々を薙ぎ倒しながら進む。心臓が爆ぜそうに鳴る。
『千尋が……拉致された……!』
手紙の内容が脳裏でループする。
千尋を人質に、蒼生をおびき出すという悪意。蒼生の瞳が、わずかに赤く染まり始める。
「絶対に……許さない。」
蒼生が到着した瞬間、魔塔の賢者たちが一斉に動き出した。何十人もの魔導士が、崖の両側に立って蒼生を囲み、重力魔法陣を展開する。そして同時に、蒼生から魂を引きはがす為に準備していた呪いを発動させる。
「重力拘束・完全展開!」
「魂強制分離・起動!」
蒼生の体が、縫い付けられたように動かなくなった。同時に、呪いが体を侵食し始め、魂の深部に食い込んでいく。
「っ……!何……?」
蒼生は何が起こっているのかわからなかった。左右から重力魔法を叩きつけられているせいで、両側からおさえつけられる形で、地面に倒れ込むことすら許されない。
四方八方から重力が押し寄せ、肺が潰れそうになる。
それと同時に、体から魔力が抜けていくのがわかる。蒼生の体は聖女アリシアの体のものだ。神聖力は魔力とは異なるもので、空気中の魔素を集めて体内で変換し、体内の魔力と共に使う魔法と違い、神の加護により使うことの出来るもの。魔力が抜けると通常危険になる筈だが、神聖力を持つ聖女アリシアの体は死なない。
「相手は容赦のいらぬ体!魂が抜けるまで、一気にたたみかけよ!」
ヴェルフェス・クロイツが叫ぶ。
その時光の粉を振りまいて、影が蒼生の肩に現れた。
「パルゥ!」
賢者の守護精霊・パルゥが、精霊界から強制顕現した。もふもふカフェレストラン以外では、普段は姿を見せない精霊が、今だけは蒼生の危機を感知し、全力で加護を注いでいた。
「パルゥ……!」
蒼生がなんとか視線だけをパルゥに向けて、その名を呼ぶ。パルゥが「パルゥ!」と高らかに鳴き、蒼生の周囲に白銀の結界を展開する。
重力魔法が結界にぶつかり、激しい火花を散らす。魔塔の賢者たちが顔を歪めた。
「精霊の加護か……!想定内よ、魔石を使え!魔力を増やせ!結界を抑え込め!」
数十人の魔塔の賢者が、力を増幅させる魔石を手に、さらに結界を展開し、パルゥの加護に圧力をかける。パルゥの体が震え、苦しげに「パルゥ……!」と鳴く。
「パルゥ!無理しないで……!私は……大丈夫だから……!」
蒼生が叫んだ。しかしパルゥは諦めなかった。賢者として選んだ蒼生を守るために、全身の魔力を注ぎ込む。結界が激しく揺れ、亀裂が入る。パルゥの姿が、じわじわと薄れていく。
人間界で姿を保とうと思うと、既に限界だった。最後の瞬間、パルゥはルルゥに念話を飛ばした。そしてパルゥの姿が完全に消えた。
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